aiko『Kiss Hug』――年を重ねて思い出す、あの夏|あのころを振り返る #5
8月の終わり、「SWEET LOVE SHOWER」でaikoのステージを見た。
aikoは僕の好きなアーティストの1人で、今まで何度もライブに足を運んできた。
25年以上のキャリアがあるが、夏フェスに出るのは今夏が初めてで、ファンにとっても心待ちのステージであった。
僕は『Kiss Hug』を聞けないかと密かに期待をしていたので、曲紹介がされた時には思わず声をあげてしまった。
陽が落ちてきた山中湖で聞いた『Kiss Hug』は非常にエモーショナルで、僕の記憶の扉がそっと開かれた。
花男Fの挿入歌
『Kiss Hug』は2008年7月にリリースされた楽曲で、当時大人気だった「花より男子F(ファイナル)」の挿入歌として大ヒットした。
*「花より男子」は神尾葉子原作で、井上真央主演により2005年にドラマ化された。
2007年に続編『2(リターンズ)』、2008年には劇場版が公開されシリーズすべてが大ヒットした。
道明寺司役は松本潤が務め、嵐が主題歌を担当。
嵐が飛躍するきっかけにもなった。
当時、花男は男女問わず大人気で、特に女子は道明寺派、花沢類派に二分するほどだった。
僕も花男が大好きで母と妹と欠かさず見ていた。
『Kiss Hug』も印象的に使われており、僕たちの世代ではファン以外からも知名度が高い楽曲と言えるだろう。
ラブシャでも、曲紹介とほぼ同時に歓声があがっていた。
それだけ多くの人に思い入れのある楽曲なのだろう。
イントロを聴いた瞬間、2008年、高校一年生の夏の記憶が一気によみがえった。
高1の夏、宿泊行事
僕の高校には同窓会が所有する寮が長野県にあった。
寮といっても古いペンションのようなもので、毎年1年生は夏休みになると2クラスずつ宿泊教室に向かった。
当時で築50年以上の古びた寮であったが、宿泊学習は特別なものだった。
夏休みというタイミングもちょうどよく、クラスはそれなりに仲良くなっていた。
普段の仲間たちと、自然に触れる非日常体験にわくわくしたのを覚えている。
学生時代の常で、イベント事の前後にはカップルが増える。
すでに付き合っているカップルにとっては、学校行事とはいえ”泊まり”という特別感があるし、いない人にとっても”何かが起きる”ような静かな高揚感があった。
宿泊行事で何かが起きることを、僕たちは「マジック」と呼んでいた。
友達だなんて一度も思った事はなかった
あなたに出逢ったその日から
僕には彼女はおろか好きな人もいなかった。
この曲を初めて聞いた時も、「『友達』とすら思われないなんて、脈がないんだな…」と、ロマンチックのかけらもない解釈をしていた。
それだけ恋愛には縁がなく、女性に好かれる自分を全くもって想像できなかった。
入学後、クラスに気になる人はいたが、バスケ部のイケメンと早々に付き合っていた。
彼はかっこいいだけではなく、性格もとても良かった。
「本格的に好きになる前で良かった」「彼が相手で良かった」と、かすり傷程度の心を癒していた。
あの夏の夜空
せっかく長野県に行ったこともあり、夜は寮の近くから星空を見上げた。
街灯のない暗闇から見上げる夜空は、東京とは比べものにならないくらい星が綺麗だった。
一人で見る星も綺麗だが、これを特別な誰かと見たらロマンチックだと強く思った。そんな未来が訪れることを願っていたのを覚えている。
僕はいつかの未来を星に願っていたが、「カップルたちは今がロマンチックなのでは」と思い、例のイケメンに目をやった。
視線の先にしっかりと手を繋ぎ、星を見上げる彼らを見つけた。
目の前で友人カップルが親密にしているのを見たことがなく、胸が高鳴った。
それは中学生までの恋愛とは違った、少し大人になった親密さを見た瞬間だった。
僕はそんな二人の関係性を『Kiss Hug』の世界観と結び付けていた。
当時の僕に”嫉妬”なんてものはなかった。
僕が星に願った”あこがれ”そのものであり、未来への希望とすら思えた。
リア充ではない自分
当の僕は”リア充”とは程遠かった。
宿泊行事の部屋割りも、人数調整の関係で他クラスとの相部屋になってしまった。
他のクラスに友人が出来たのは嬉しかったが、僕とともに相部屋行きになったやつは非常に癖が強く、宿泊行事の定番”恋バナ”に花が咲くこともなく、ロマンチックのかけらもなかった。
おかげで「定時就寝、定時起床」という、普段よりも規則正しい生活になってしまったのだ。
翌朝、すっきりと冴えた目で朝礼に向かうと、別の部屋の同級生は眠そうにしていた。
朝まで恋バナをしたり、気になる人にメールをしてみたりと盛り上がっていたそうだ。
宿泊行事で生活リズムが整ってしまった自分に後ろめたさすら感じていた。
どこに行くかも大切だが、誰と過ごすかが大切だと学んだ機会だった。
変わらない事の方が多い
変わってしまったこともあるけど
変わらない事の方が
あなたもあたしも多いよ
これは”恋する二人”の歌詞だとは思うが、僕にとっては”あの頃の友人たち”への思いだ。
当時の友人とはSNSでつながってる人もいるし、先日は会う機会もあった。
ライフステージが変わっても、彼らの軸になる部分は変わらないと感じている。
夏髪が頬を切る
また年を重ねてきっと思い出す
好きな人もおらず、定時就寝だったが、あの夏に見上げた星空は今も忘れない。
同窓会の寮はコロナ禍を経て閉鎖されてしまったようだ。
もう星空を見ることも、何かしらのマジックも起こらないのかもしれない。
『Kiss Hug』は当時の光景と今の僕を繋いでくれる。
あの夏から17年が経ったが、「また年を重ねて」思い出した。
振り返ると、恋愛に縁がなかった自分も、それはそれで「青春」のど真ん中にいたのかもしれない。
この曲がある限り、20年、30年と時を経ても、そんな「青春」のことはきっと忘れない。
ラブシャに行った話はこちらからどうぞ。
あのころを振り返る話についてはこちらをどうぞ
