いよいよAIが攻めてきた(第1部):いま何が起こっているのか
〜AIが世の中に地殻変動をもたらす〜
みなさんは最近、ニュースやSNSで「AIの進化がすごい」という話をよく耳にしませんか?
「またAIの話か、自分にはあまり関係ないな」と思うかもしれません。でも今、アメリカのシリコンバレーの中心から、たくさんの人の「毎日の仕事」のやり方を根底からひっくり返すような、ものすごい変化が起きようとしています。
これまで私たちは、パソコンを使って書類を作ったり、システムにデータを入力したり、マニュアル通りに手続きをしたりして働いてきました。
しかし今、アメリカでは「そのパソコン作業、人間がやらなくても、AIがぜんぶ自分で考えて終わらせてくれるよね」ということが、本当に目前まで来ているのです。
今回は、今アメリカで何が起きているのか、そしてそれが私たちにどんな影響を与えるのか、分かりやすく丁寧にお話します。
注目!「Sierra(シエラ)」というヤバい会社
今、アメリカのIT業界で一番注目されている、2023年に生まれたばかりのAI企業があります。それが「Sierra(シエラ)」という会社です。
この会社を作ったブレット・テイラーさんという人が、とにかくすごい人なんです。 どれくらいすごいかというと、
スマホのFacebook(フェイスブック)にある、あの「いいね!」ボタンを作った人
世界で一番有名なITツールの会社のトップ(CEO)だった人
今大人気の「ChatGPT」を作った会社の会長さん
という、ITの世界の超エリート中のエリートです。
そんな彼が作ったSierraという会社は、すでにアメリカの超大企業(売り上げトップ50社)の約4割に、自分たちのAIの仕組みを導入させています。まだできて数年の会社なのに、アメリカのビジネスの世界をどんどん塗り替えている、まさに「これからの時代の主役」なんです。
AIエージェントってなに? チャットボットと何が違うの?
みなさんも、ネット通販やスマホの契約画面で、質問に答えてくれるヘルプのチャット画面を見たことがありますよね。でも、質問しても大抵は「よく分かりませんでした。ヘルプページを見てください」と言われて、イライラした経験はありませんか? あれが従来のチャットボットというものです。
Sierraも提供しているのですが、ただの「チャットボット」ではありません。Sierraが作っているのは、もっと賢い「AIエージェント」と呼ばれるものです。
これは、通販のヘルプの質問にただ答えるだけではなく、実際のビジネス現場でも活躍できるのです。会社のルールや過去のデータをぜんぶ記憶していて、何かをしたいと思ったら、それを指示するだけで人間と同じように自分で考えて、実際の「手続き」までちゃんと終わらせてくれる優秀な部下のような存在にまでなっているのです。
たとえば、コールセンターの受付、銀行や保険のややこしい申し込み手続きなど、これまでは「人間がマニュアルを見ながら、対応してパソコンに入力していた業務」を、このAIエージェントに指示するだけで、人間の代わりにぜんぶ自動で片付けてしまうのです。しかも音声で応対するサービスも始まっています。いまやドミノ倒しのように、Sierraのシステムの導入が始まっているのです。
「道具を売る時代」から「成果を買う時代」へ
ここで、ビジネスの仕組みがガラッと変わります。
これまでのIT業界は、「便利な道具(ソフトウェア)を人間に貸し出すビジネス」でした。これまでのITサービスの主流で、専門用語で「SaaS(サース)」と言ったりしますが、要するに「この便利なシステムを10人で使うなら、毎月5万円くださいね」という、人数分のレンタル料をもらう仕組みです。サブスクという言い方もすることがあります。
ですが、先ほどの「AIエージェント」が登場するとどうなるでしょうか?
AIが人間の代わりに仕事をぜんぶ終わらせてくれるなら、そもそもパソコンを操作する人間の人数が要らなくなります。100人必要だった部署が5人で回るようになってしまうのです。
そうなると、道具をレンタルしていたIT会社は、レンタル料(人数分の料金)がもらえなくなって困ってしまいます。これが今、アメリカで「これまでのITの売り方はもう終わりだ(SaaS is Dead:SaaSの死)」と言われている理由です。因みにSaaS関連の会社の株は一時期に比べアメリカも日本も下がっているのはこのせいかも知れません。
じゃあ、これからはどうやってお金を払うのか? それが、いま少し話題になっている「アウトカム(成果報酬)課金」という仕組みです。
聞き慣れない言葉を使っていますが、中身はとてもシンプル。 「システムを貸した(使う)からお金をちょうだい」ではなく、「AIが、お客さんの困りごとを1件解決したから、その成果に対して100円ちょうだい」「AIが保険の契約を1件成立させたから、1,000円ちょうだい」という風に、「返ってきた成果」に対してだけお金を払うようになるのです。
会社にしてみれば、無駄なレンタル料(例:SaaSのサブスク費用)を払う必要がなくなり、「仕事が成功したときだけお金を払えばいい」ので、これほどありがたいことはありませんよね。
逆にサブスクのビジネスモデルで大儲けしていた企業は、口あんぐり、冷や汗タラリですね。
時間をかける「労働集約型ビジネス」への大きな波及
この「成果だけでお金を払う」という仕組みは、私たちの働き方に大きな影を落とします。
世の中には、「人間がたくさんの時間をかけて、手を動かすことで成り立つビジネス」がたくさんあります。「労働集約型ビジネス」ですね。
これまでは「時間がかかる大変な仕事だからこそ、たくさんの人を雇って、みんなで頑張ってお給料をもらう」という形が当たり前でした。
しかし、AIは人が大勢で出していた「成果」をほとんど人手をかけずに、ほんの数秒で出せるような働きができるのです。これまで「時間をかけて頑張ってきた」こと自体の価値が、一気になくなってしまうのです。
最後に:気づかないうちに始まっている、ちょっとやばい話
ここまで、アメリカの最新のトレンドと、仕事の変化についてお話ししてきました。
「AIが仕事を代わりにやってくれるなんて、便利になって良かったね」
最初のうちは、みんなそう思うかもしれません。会社も「無駄なコストが減って大儲けだ」と大喜びするでしょう。
でも、ちょっと待ってください。
ITが短時間に大量の仕事をやってしまうと、今まで、パソコンに向かって一生懸命に仕事をしたり、マニュアル通りに社内の手続きを進めたり、指示された仕事を真面目にこなしていた、あのたくさんの「普通の人たち」のお給料は、一体どこから出るようになるのでしょうか。
勘のいい人はわかりますよね。
「もし、自分が持っている仕事がAIに丸投げされたら、リストラ一直線だな」って。退職間近の方々や退職済みのシニアの方々はもう自分は安全圏だよ、と思うかもしれませんが、おそらくそういった人たちにも無関係ではおられないほどの大変革が起ころうとしています。
いま少しだけ危機感を持って、あらかじめ準備を考えておくことが、これからの時代を生き抜くためにどうしても必要なことだと思います。
では、このあと、大変革がおこり、社会はどうなるのか、我々シニアはどうしたらいいのか、次回、第2部「我々はどうすればよいか:ホワイトカラー大崩壊」で、綺麗事なしの、ちょっとハラハラするような「現実のサバイバル」について、一緒に考えていきましょう。
(第2部へ続く)
