寒さを説明してほしい
寒さとは、何か。
前回は「暑さ」の話をしました。今日は逆に、「寒さ」の話から始めたいと思います。でも、これはただの気候の話ではありません。人間が何かを「わかる」とはどういうことか、という話です。
寒さとはどういうことですか?
ほとんどの方なら説明できるし経験をしたことがあるかと思います。
アフリカの選手は、寒さを知らない。
ウガンダやザンビアをはじめ、アフリカの多くの地域には、日本のような寒さがありません。
前回書いた通り、高地は一年を通して穏やかで、氷点下になることも、雪が降ることもない。つまり、そこで育った人たちは、「寒さ」というものを、生まれてから一度も経験していないんです。
以前と触れましたが、これは現場で本当に実感します。「日本は寒いよ」と言葉で伝えても、彼らには、その寒さが具体的にどういうものか、イメージができない。手がかじかむ感覚、鳥肌が立つ感覚、息が白くなること。言葉としては知っていても、体がどうなるのかがわからない。だから、真冬の日本に半袖でやってくる選手もいます。
これは、彼らが不注意だからではありません。経験したことがないことは、本当にわからない。ただ、それだけのことなんです。
寒ささは、人を殺す。だが、彼らはそれを知らない。
少し、重い視点も加えます。
寒さは、人を死に至らせます。北欧や北米の厳しい冬は、装備がなければ命に関わる。凍死という言葉があるように、寒さは人間にとって、はっきりとした「死の脅威」です。
でも、アフリカの多くの地域では、寒さで命を落とすことはありません。大地は肥沃で、フルーツが実り、最低限の栄養は手に入る。気候が良く、一年を通して命の危険がない土地も多い。
これは幸せなことです。同時に、彼らは北欧や北米の「命を奪うような寒さ」を、経験として持っていないということでもあります。その差は、思っている以上に大きい。
暑さの中で生き抜く知恵があるように、寒さの中で生き抜く知恵がある。しかもそれを命が奪われるレベルでです。
人は、自分が生きてきた環境のことしか、本当には知らないんです。
そしてこれは、私たちにもそっくり当てはまる。
ここで、矢印を自分に向けてみます。
アフリカの選手が寒さを想像できないように、私たち日本人も、アフリカを正しく想像できていません。
たとえば、アフリカに、家賃が月5,000ドルを超えるような高級レジデンスがあると、想像できるでしょうか。一泊5,000ドルを超えるようなラグジュアリーホテルがあると、思い描けるでしょうか。
多くの人は、できないと思います。「アフリカ=貧しい」というイメージが強すぎて、その現実が想像の外にある。でも、それは実在します。アフリカの首都の高級エリアも、南部アフリカのサファリロッジも、そうです。
私たちがアフリカの豊かさを想像できないのと、アフリカの選手が日本の寒さを想像できないのは、まったく同じこと。人は、自分が経験していないことは、どれだけ言葉を尽くされても、本当にはわからないんです。
だから、私は「経験する」ことにこだわる。
結局、行き着くのはここです。
人間は、自分が経験したことのないこと、知らないことについては、どれだけ想像しても、やはりわからない。これは、寒さでも、豊かさでも、何に対してもそうです。
だからこそ、私自身が、何をするにも、まず自分で体験してみる。現地に立ち、その空気を吸い、その気温を肌で感じ、その人たちと同じ食事をする。想像で語るのではなく、経験から語れる人間でありたい。
それが、私がアフリカに10年通い続けてきた理由の一つでもあります。
言葉で伝えられることには、限界があります。写真でも、動画でも、文章でも、伝えきれないものがある。
でも、一度その大地に立てば、寒さを知らない選手が初めて雪に触れたときのように、世界の見え方が、変わるはずです。
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