エッセイ|我が家には、怪獣がいる
昔、母が原稿用紙に日記を書いていたことがある。
たしか、勤め先で文集か何かを作る関係で、
自分が研究していることや、達成したことを書くために、
原稿用紙を買ったのだと思う。
使い余った原稿用紙に、
何を思ったか母は日記を書いていた。
大体は晩酌後の、
缶ビールが1本か2本入った頭で書くものだから、
文章は奔放で、それゆえに母らしい。
「わが家には、怪獣がいる」
そう始まる日記が1番好きだった。
怪獣とは、私たち子どものことだ。
怪獣の1匹は、
外では大変に真面目らしい。
みんなが嫌がるような仕事にも、
自分から手を挙げているそうだ。
一方、家では泣き虫で、
年下の怪獣に背を噛まれて泣いている。
一度だって喧嘩に勝ったことがない。
それが我が家の怪獣だ。
母の日記で、私はそのように表現されていた。
母が描く個性的な似顔絵で、
怪獣の着ぐるみを被った私が、
先生や同級生に囲まれ得意げにしているのが、
こそばゆいような、
気恥ずかしいような、
うまくは言えないが、決して忘れられない嬉しさを与えてくれた。
母は折々に日記を書いた。
眠気に負けて支離滅裂な話もあれば、
私たち兄弟を連れ、
夏休みを目一杯使って北海道を横断した話もあった。
母のフィルターを通して語られる、
私と兄弟たちの物語が好きだった。
いま、我が家にも怪獣がいる。
1匹はとても個性的で、
恐らく前世は、地球以外の星の生まれだと思う。
地球は大変に生きづらそうだが、
それゆえにピュアで、
怪獣の真ん丸い目を通して知る、
この世界が面白い。
もう1匹は、とても繊細だ。
誰かが怒っていれば頭を撫で、
泣いていれば傍で寄り添う。
怪獣のやわらかな心を通して、
この世界を見ている。
怪獣たちはすぐに喧嘩し、
すぐに泣きわめき、
すぐに仲直りして、
親に隠れてなにかを企んでいる。
かれらを産んでから書き始めた日記帳は、
1年も欠けることなく、
今も、今日も、続いている。
きっと母も、
こんな気持ちだったのだろう。
この一瞬を切り取れるなら、
やはり私もペンを取るだろうから。
怪獣たちよ。
よく食べて
よく寝なさい。
きみたちの寝顔を見るために
母は今日も怪獣を育てている。
fin.

深夜3時に目が覚める。そういう時って、だいたい何か起こりますよね…▶
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大谷(おおたに)
2児の母|整理収納アドバイザー
普段は片付け/捨て活/防災などについてもnoteを書いています。
