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ソウルメイトが猫じゃダメですか?


クロとはじめて出会ったのは、私が小学4年生の夏休み最後の日…。


その日は、母の経営している美容室によく来る常連客が来ていた。

母と雑談している脇には茶色の紙袋


家族でもないのに、自宅のリビングまでいつも上がって来たり、女性なのに白いランニングシャツ1枚で短髪パーマの彼女を何故か好きにはなれなかった。


「これ、捨てて来てくれって頼まれたんや。うちの犬が追いかけまわすさかいに…。」



その紙袋から、小さな黒い塊が見えた瞬間…。


私の胸は勝手にドキドキと鼓動を打ち始めた。

「やめて!!!
その子を捨てないで!!!」

気が付けば必死に叫んでいた。


すると…

母が…

「あんた、この家はお母さんとあんたしかいないんやで。
猫なんか飼ったら、毎年行ってる旅行もディズニーランドも行けへんようになるよ?」


「ディズニーランドもいらない。

旅行も行かなくていい!!!

だからこの子をうちの子にして!!!」


母子家庭のわが家では、ペットをお迎えする。

ということは、留守中のお世話が誰にも出来ないということ。


自分でも、なんであんなにこの時だけ

強くものが言えたのだろうか?と、我ながらに不思議で仕方なかった。


普段の私は…。


昨年までは、父と母のケンカが絶えない毎日で、学校はというと

冬に流行ったインフルエンザを私が貰って帰ってしまったことがきっかけで

母と担任のベテランの女性教師が電話越しに大喧嘩…。


その翌日から


担任に「樫野さんとお話すると病気が移るそうです。

だからこれからは樫野さんと関わらないでください。」

朝のホームルームで、クラス全員に私を無視するように告げられた。


最初こそは、いつもよく遊ぶ女の子数人が「大丈夫?」と声をかけてくれたり

こっそり放課後遊びに誘ってくれた。


でも、見つかると担任に厳しく注意されたり、一番中の良かった子が県外に引っ越ししてしまったせいもあり


私はついにひとりぼっちになった。


クラスでは、私に対しては何をしても許されるような空気が流れていた。


その影響で、体格の大きな男子生徒に横を歩いただけで殴られたり、掃除で雑巾がけをしていたら、雑巾ごと手を踏まれたり

悲しみと共に増えて行くのは、身体のアザばかりだった。


家にも学校にも私の居場所なんかなくて

私なんて消えていいといつも思っていた。



自分に『未来』があるなんて

想像すらできなかった。


そんなカラッポの毎日を過ごしていた私にとって、小さな黒猫のクロは私の全てだった。


学校から帰ると、真っ先に挨拶するのも

クロだった。


「クロ!帰ったよ!!

今日は、おみやげがあるんだ」


赤いランドセルの中から、ねこじゃらしの束を出す。


小さなクロが不思議そうにこちらを見つめている。


ねこじゃらしを床に向けて動かしてみる


クロは、夢中で遊びはじめた。


それからの私は、学校帰りにクロへのおみやげを探すという楽しみができた。

神社で拾ったどんぐりだったり、遊べそうな葉っぱなんかも探した。


クラスでは、友達と呼べる人は誰もいないから、休み時間は図書館で過ごした。


そこでも、猫の飼育方法の記載されている本を見つけたり、簡単なオモチャを作る方法を覚えた。


ある時…。


私は、ボロボロになって帰って来た。


その数日前から、担任の教師が何を思いついたのか、私の苦手なことや出来ていないことを書いた紙を私の座席の前に貼り付けた。


宿題忘れが多い。

寄り道をする

など…。


前を向くと嫌でも目についてしまうその紙が嫌で仕方なかった。


そして


突然…


私は、左右を答えられなくなったり

書けていた漢字がわからなくなったり

常に不安な感情に襲われて、九九さえも言えなくなった。


そんな私を見た担任に



「そんなこともできないなら支援級に行きなさい!」



と、自分の荷物を全てその場でまとめさせられて

ひとりで支援級の教室の前まで行くことになった。


そのクラスには、知的障がいのある児童や、車椅子ユーザーの児童など

通常のクラスでの授業が難しいとされる児童が数人在籍していた。


私が支援級の前まで行くと、そこの担任のひとりである男性教師がドアを開けた。


「キミ、こんなとこで何してるの?」


先程まであったことを全て説明した。


「ここはね。

お医者さんから、この子は普通のクラスでお勉強するのが難しいです。

と言われた子しか入れないクラスだから、元の教室に帰りなさい。」


そう言われて、教室のドアが閉まる。


仕方なく、いつもの教室まで来た道を帰ることになった。


教室に戻り、席に帰ろうとすると


「何勝手なことしてんの!」


と、怒鳴られ

今度は、机ごと廊下に出された私は

仕方なく廊下で授業を受けた。


途中、すれ違う先生に「どうして教室にはいらないの?」と聞かれたり「何かあったの?」と聞かれたりもした。


でも、全てが怖くて不安だった私は何も答えることができなかった。


帰りのチャイムが鳴って、やっと帰れる!


私は、全力で家まで走って帰った。


『クロ…。

私…。

昨日まで普通にできていたことができなくなっちゃったよ。』


クロを力いっぱい抱きしめた。


クロの暖かい感触…

止まらない涙…


クロは、必死にモゴモゴ動き私の前に座る。

やっと私から自由になったクロは



『やれやれ…。

なんかよくわからないけどさ。

大変だったんだね?

明日からどうするの?』


クロは、自分の身体を毛繕いしている。


また、不安でいっぱいになった私は

その場で泣き出してしまった。


『ちゃんとお母さんに言えば?』


『そんなことしたら、私がもっと怒られる。』


『なんで?』


『宿題忘れしたのは私…。

私が悪いのは確かだから…。』


そう言って俯く私に


『そんな学校なら行かなきゃいいんじゃない?』


クロに言われた。


『そうだよね?』


何故か妙に腑に落ちてしまった。


次の日


「もう学校行かない!!!」


私は母に宣言した。


しかし…。


「何ふざけたこと言ってんの?

子供は勉強が仕事やろ?

さっさと行って来い!!!」


そこから、腕の掴み合いに発展したが

私は意地でも行かないと決めていた。


「あ、そう。

じゃあ、クロは捨てていいんやな…」


それだけはゆずれなかった。

私がどんな思いをしたとしても、昨日よりも酷い目にあっても

クロだけは守りたかった。


「いってきます…。」


不安な足取りで学校に向かった。

その姿を、心配そうに見つめるクロがいた。


いつの間にか、私の机は元の場所に戻されていた。


教室では、次の時間の図工の準備をしていた。

新聞紙を机にひいてから絵の具セットを用意する。


バケツに水を入れて私が教室に戻ると

先生が、なぜかラジカルを持って教室に入って来た。


どうやら、ある絵本の朗読を聞いてから

みんなで同じテーマの絵を描くとのことだった。


物語は、魔女のお話だった。

夜になるとほうきで空を飛んで集会に行く。

私は、その集会に行く途中の魔女を描くことにした。


マイペースに描く私…。


しかし、まわりの子供達は…


毎年絵を表彰されている、ずば抜けて絵が上手い子の絵を見て同じ構図で似たような色を使い描いていた。


それに気が付かない私…。


みんなの絵が完成して、教室の掲示板に全ての絵を貼った時…。


私の絵だけが、何故かみんなと違った。



自宅で私がクロと遊んでいると…

母がすごい剣幕で怒っていた。


「あんたが学校でおかしなことするさかい、児童相談所に呼び出されたわ!」


最初、意味が分からなかった。


母に聞いてみると、児童相談所というのは

行動に問題がある児童などを入れる施設のような場所だと伝えられた。


放課後…。


誰もいない教室に呼び出された母は、担任に私の絵を見せられて

明らかに他の子供と違うことを指摘された。


「母子家庭ですよね?

児童相談所に予約を入れましたので面談に行ってください。」


母の休みの月曜日に、勝手に予約を入れられたそうだ。


児童相談所に行ったら、もう帰れないのかな?

クロと別れるなんて絶対に嫌だ!!!


帰り際に何故か「家に帰れるなんて思うなよ!」と、担任に言われた意味をやっと理解した。


月曜日…


母と電車に乗って児童相談所に向かう。


お互いに一言も会話も交わさず、ただ無言のまま時が流れた。


古びた大きな建物に「児童相談所」という文字


中に入ると、私と母は別の部屋に案内された。


私の向かった部屋には、若い女性の先生がひとりいた。

まわりを見渡すと、面談室…というよりも

プレイルームという感じで、本棚にはボードゲームが立てかけあったり、積み木やらブロック、ぬいぐるみなんかもあった。


「こんにちは。

お母さんは別の先生とお話しているから、先生とお話しましょうね!」


砂の入った箱の前に連れて来られた私


「この砂の下には色が塗ってあります。

何色だと思いますか?」


先生に質問されても

私は無言だった。


「なんでもいいよ!」


と言われても


「すみません…。

わかりません…。」


そう言うのがやっとだった。


先生が砂に手を入れる。


下から水色の底が見えた。


「こうすると、川みたいでしょ?」


ここに、お家とか動物もいるよ?


先生は私に何かしてほしいみたいだったけど、私が何もせずにただ無言のままだったので、先生はひとりで川を作ったり家を置いたり…

その様子をずっと眺めていた。


今度はテーブルの前に案内された。


白い画用紙が1枚と、まわりにはクレヨンやら色鉛筆、マジックなどがあった。


「この画用紙に木を描いてほしいの。

何を使ってもいいし、どんな木でもいいよ。」


とりあえず…


地面をイメージして茶色のクレヨンで横に線を引いてから、木を描こうとしていたら、窓越しに母と男性の先生が見えた。


「帰る時間来ちゃったね!

お母さん待ってるからね!」


何故か急に帰りの支度をさせられて母と帰った。

どれだけ怒られるんだろう?

と、不安でいっぱいだったが…

母はどう見ても怒っている…ようには見えなかった。


それどころか


「帰り、スーパー行くで?

何ほしい?」


と聞かれた。


その日の夜、晩御飯の準備をしていると

私のクラスの担任から電話がかかって来た。


「児童相談所で何を言われたんですか?

私をクビにする気ですか!!!」


受話器の声が、こちらにまで聞こえて来る。


「去年のインフルエンザのことから順番に、あったことを説明しただけです。」


母は淡々と答える。


「私はどうなるんですか?」


「それは知りません。」


そんなやり取りの後、また電話が鳴った。

また、担任かと思いきや

今度は私の通う小学校の校長先生だった。


「この度は、娘さんに…大変申し訳ありません。」


児童相談所の方は、あらかじめクラスにも立ち寄り絵を見に来ていたそうだ。

そこで、明らかに他の子供が特定の子供のマネをしていると見抜いたそうだった。


「5年生からはクラス替えになりますので…」


母と校長先生は、しばらく電話で話していた。


『クロ…。

私、施設に行かなくても大丈夫みたいだよ?』


横にいたクロに報告した。


『それはよかった!!!』


『ゴキブリ出たら今度こそ助けてね。』


『それはどうかなぁ?』


クロは喉を鳴らしながらスリスリしている。

一連の私の学校での出来事を知った母


「3学期は学校行かなくていい。

ただし、家庭学習のテキストを決めた量毎日やるように!」


「クロ!!!やった!!!」


私は、クラスが変わるまで校長先生と母との話し合いの結果、自宅で学習することになった。


クラスが変われば、当たり前の日常が過ごせる!!!


私はクロを抱きしめた。


「く…苦しい…って。」


クロがモゴモゴ動く。

こうして私は、少しずつ笑顔を取り戻していった。


こうして私は、クロと一緒クラス替えを待ちながら自宅で過ごすことになった。

クロとの出会いが、私の人生を、その先の未来を、少しずつ、だけど確かに変えて行ってくれたのだと思う。


これからも私の一番そばには、ソウルメイトのクロがいる。


5年生の私と、ちょっと大きくなったクロ

あとがき


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

この物語は、私が小学生時代に体験した実際のお話です。

それからも、たくさんの苦労が続きましたが、私はクロと出会えたことがきっかけでアニマルコミュニケーターとしてお仕事をしています。


クロは、あれから20年一緒に過ごした後に虹の橋を渡りました。


クロと出会えたこと、今の仕事に就けたこと、たくさんの出会いに感謝しかありません。

私の小説を読んだ方がひとりでも明るくなれますように!!!

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