「すごいですね」で終わる経歴と、仕事になる経歴の違い
「辻村さんは、何ができる人なんですか」
独立して間もない頃、初めてお会いした方に、こう聞かれました。
「辻村さんは、何ができる人なんですか?」
答えられませんでした。
職務経歴書なら、すらすら書けたのに。
独立の準備をされている方なら、一度は詰まったことのある質問だと思います。
経歴を渡すと、「すごいですね」で終わる
大手メーカー系の会社で、ディレクターとして数十億規模のプロジェクトを見てきました。
基幹システムの刷新も、業務改革も、体制の立て直しもやってきた。
紙に書けば、それなりの分量になります。
ところが、その紙を目の前の方に渡しても、仕事にはなりませんでした。
「すごいですね」
そう言っていただいて、会話が終わる。
そこから先に、進まないのです。
経歴と、サービスは主語が違う
しばらくして分かったのは、単純なことでした。
職務経歴書は、自分が何をやってきたかを書いたものです。
一方で、お客様が知りたいのは、自分の会社の何が良くなるのか。
主語が違う。
同じ経験の話をしているのに、この2つはまったく別の文書でした。
私はこの作業を、実績の翻訳と呼んでいます。
会社員時代は、この翻訳を誰かがやってくれていました。
会社の名前と、営業資料と、「ディレクター」という肩書き。
それらがまとめて「この人に任せて大丈夫」を保証してくれていた。
その保証がなくなったとき、手元に残ったのは翻訳前の経歴だけでした。
会社の名前に、助けられていた
正直に書きます。
会社員時代に声をかけていただけたのは、私個人の力というより、会社の名前に助けられていた部分が大きかったと思っています。
提案の中身を吟味される前に、まず「その会社なら」で話が前に進む。
独立して名刺から社名が消えたとき、この差をはっきり感じました。
同じ人間が、同じことを言っているのに、相手の姿勢が違う。
つまり、翻訳は自分でやるしかない。
役割の名前は、打ち手ではない
では、どう翻訳するか。
私がやったのは、経歴を1行ずつ分解する作業でした。
たとえば「基幹システム刷新のPMをした」という1行を、こう割ります。

・症状:そのとき、会社は何に困っていたか
・打ち手:自分は具体的に何をして、何を決めたか
・変化:その結果、何がどう変わったか
大事なのは真ん中です。
「PMをした」は役割の名前であって、打ち手ではありません。
現場とベンダーの言い分が食い違って止まったとき、
どちらの言葉に翻訳して合意させたのか。
役員会で予算が削られそうになったとき、何を根拠に守ったのか。
そこまで下ろすと、初めて「他の人と違うこと」が出てきます。
名前は、症状の側からつける
分解したら、次は名前をつけます。
このとき、打ち手の側から名前をつけたくなります。
「PMO支援」「プロジェクトマネジメント支援」といった具合です。
でも、お客様は打ち手の名前で探していません。
困っている症状の言葉で探しています。
「ベンダーの言うことが正しいのか分からない」
「担当者に任せているが、進んでいるのか分からない」
「決めたはずのことが、また戻ってくる」
サービスの名前は、この症状の側に寄せたほうが届くと思っています。
自分が売りたいものではなく、相手が困っている言葉で名乗る。
順番が違うだけですが、反応はまるで変わりました。
翻訳しきる前に、値段の話が来る
翻訳が進むと、次に価格で止まります。
私は自分の単価を決めるのに、3週間かかりました。
会社員のときは、自分の値段を給与という形で誰かが決めてくれていた。
それを、自分で書かなければいけなくなる。
安くすれば選ばれる気がして、実際に安く受けました。
結果はよくありませんでした。
単価が低い分だけ、頼まれる作業が増えていく。
考え方が変わったのは、何に対していただくお金なのかを決め直したときです。
作業時間でも、資料の枚数でもない。
30年分の経験と、そこから来る判断に払っていただく。
翻訳が「作業の説明」で止まっていると、値段も作業の値段になる。
そう気づいてからは、安さで選ばれることはなくなりました。
答え合わせをするのは、自分ではない

ここまで手順のように書きましたが、
私自身は机の上で完成させられませんでした。
実際に効いたのは、人に話して反応を見ることでした。
前職の元同僚の一人が、会社の立場ではなく、
私個人の仕事ぶりを見ていてくださった方でした。
その方の紹介から、最初の仕事につながりました。
このとき分かったのは、翻訳の答え合わせをするのは自分ではない、
ということです。
自分の実績のうち、どこが価値なのかは、相手が教えてくれる。
だから、形が7割でも、早めに人に話したほうがいい。
私がやってみて、効いた順番
もし今、独立の準備で経歴の棚卸しをされているなら、私が効いたと感じた順番を書いておきます。
1.実績を1行ずつ、症状・打ち手・変化に割る。
役割名で止めず、自分が何を決めたかまで下ろす。
2.症状の言葉で名前をつける。
自分の売り物ではなく、相手の困りごとの言い方で名乗る。
3.身近な数人に話して、どこで相手が前のめりになるか見る。
反応が出た1点が、たぶん商品の核です。
順番は入れ替えても構わないと思います。
ただ、3を後回しにすると、私のように時間を落とします。
私も、まだ翻訳の途中です
偉そうに書きましたが、私自身、いまも自分の実績をうまく言葉にできていないと感じることがあります。
このnoteを読んでくださっている方は、私よりずっと確かな経験をお持ちだと思います。
その経験が、届く形になっていないだけで埋もれるのは、もったいない。
翻訳は地味な作業ですが、やった分だけ効きます。
一緒に、少しずつ進めていければと思っています。
(肩書きがなくなったときの話は、連載「52歳からの起業のリアル」に書いています)
https://nxrise.com/archives/1773
次回は「独立しても仕事が取れない人が、最初に見直す3つのこと」を書きます。
注後の進め方をまとめた「コンサル受注後1週間チェックリスト」も準備中です。
どちらも公開時にお知らせしますので、フォローしておいていただければ。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
