🪀 その一個のおもちゃが子どもの"ワクワク"を連れてくる
「最近、園のおもちゃを入れ替えようという話が出ていて。でも、何を選べばいいのか、正直迷っているんです」
そう話したのは保育者のゆきとみきだった。
子どもたちの遊ぶ姿を保育の中で観察する。
だからこそ、「知育に良い」「人気ランキング一位」という言葉だけで決めることに、少し違和感を覚えていた。
相談を受けた保育志コンサルタントのホシは、一人のとある知り合いに声をかけた。
保育園で働きながら、おもちゃと子どもの関係を学んできた、おもちゃコンサルタントのりゅうまだった。
数日後、4人の打ち合わせが始まった。
「はじめまして、りゅうまです」
そう名乗った後、彼は少し照れくさそうに続けた。
「よく『おもちゃコンサルタントって、おもちゃを作ってる人ですか?売ってる人ですか?』と聞かれるんですが、実はどちらでもないんです」
「おもちゃを通して、遊ぶことが子どもの心の栄養になる。それを、保育者や親御さん・地域の方々に伝えていく仕事なんです」
「心の栄養?ですか」
ゆきがつぶやいた。
「人気のおもちゃなら、子どもたちは喜ぶのでしょうか?いろいろなおもちゃを提供してあげたいと思っているのですが、知育にいいなどを基準に選んで買っていいのか迷うんです。それに片付けやすさとか安全面とかも気になるし…」
みきが尋ねるとりゅうまは答えた。
「人気も参考にはなります。でも、私が見るのは、子どもが『集中して遊びこめているか』」
「完成したときより、遊んでいる過程を見るんですね」
「片づけやすさや安全性、子どもの人数も気になります。でも、専門家として大切にしているのは、そのおもちゃが遊びを決めすぎていないかということです」
りゅうまは、園に持ち込む道具の一つを鞄から取り出しながら続けた。
「たとえば、丸太みたいな円柱の積み木があるんです。手元には三十六個あるんですが、子どもたちはこれでずっと遊んでくれます。積むだけの子もいれば、転がす子もいる。それにままごとの野菜に見立てる事も出来る。使い方を決めていないからこそ、その日その子の気分で、全然違うものになるんですよ」
「同じ道具なのに、遊び方は一つじゃないんですね」
ホシがうなずいた。
みきは、以前の失敗を思い出した。
「音が鳴って光るおもちゃを出したことがあります。最初はみんな集まったのですが、数日後には…と、少し落ち込みました」
「そんな経験があったんですね」
りゅうまはすぐに答えた。
「その経験があったから、お子さん達とおもちゃの関わり方について考えるきっかけが出来たんじゃないかなって。お子さん達が、今求めている遊びと、少し違っただけかもしれません」
ホシもうなずいた。
「正解のおもちゃを探すのではなく、お子さん達の遊ぶ姿を観察して提供する」
「そうです」とりゅうまは言葉を継いだ。
「以前、年長の男の子で、細かいブロックがすごく得意な子がいたんです。最初は小さな作品しか作っていなかったんですが、あるとき『もしかして』と思って、何も言わずに少し難しい説明書を渡してみたんです」
りゅうまは嬉しそうに続ける。
「そうしたら、見事に組み立ててきてくれて」
「お正月に『干支の置物を作ってください』ってお願いしたら、めんどくさいって言いながらも作ってくれて、それを教室の前に飾ったら、おうちの方がすごく喜んで、写真を撮っていました。その子、ニヤニヤしながら帰っていったんです」
「その子の可能性を、見逃さなかったんですね」
ゆきが言うとりゅうまは頷いた。
「誰にでも説明書を渡すわけじゃないんです。集中して遊びこんでいる姿をキャッチして、『あ、この子はこれもいけるかもしれない』って。それを見逃さないようにしています」
そこで今回は、形の違う木のブロック、色を重ねられる半透明の積み木、転がる道を自由につくれるレールを園へ持ち込むことにした。
完成見本は置かない。
遊び方も最初から説明しすぎない。
「あと、もう一つだけ」
りゅうまが付け加えた。
「見守るときの立ち位置も、実は大事なんです。大人が何人も周りに立ってしまうと、壁に囲まれているみたいで、座って活動している方からすると圧迫感があるんですよ。だから私は、しゃがんで目線を合わせるようにしています」
「何もしなくていい。ただ、同じ高さで見ているだけで、子どもは安心して遊べるので」
そして迎えた当日。
子どもたちは、いつもの保育室に並んだ見慣れないおもちゃを見つけると、すぐに足を止めた。
一人の子が、青と黄色の半透明の積み木を重ねた。
「あれ?緑になった!」
その声を聞いて、別の子も赤い積み木を持ってきた。
「じゃあ、これは?」
窓から差し込む夏の光にかざすと、床に赤や青の影が映った。
「海みたい!」
「こっちは夕焼け!」
いつの間にか子どもたちは、積み木を重ねるだけでなく、光を集めたり、影を追いかけたりしていた。
ゆきとホシは、少し離れた場所からその様子を見守っていた。
りゅうまも同じように、子どもたちの目線に近い高さで静かに座っていた。
別の場所では、木のレールをつないでいた子が立ち止まっていた。

ボールが途中で落ちてしまう。
一度、二度、三度。
それでも、レールの向きを変えて、もう一度ボールを置いた。
その途中、一人の子が積み木を勢いよく放り投げようとした。
ホシが慌てて止めに入ろうとすると、りゅうまが先にしゃがんで子どもと目線を合わせた。
「投げたら、どうなると思う?」
「え……友だちに当たったら、ケガして病院になっちゃう」
「それって、いいのかな?」
「ダメ」
子どもはそう言って、また積み木を積み始めた。
「頭ごなしに『だめ』って言うんじゃなくて、考える問いを渡すんです」
りゅうまが小さな声で言った。
「そのほうが、自分で気づいた分だけ、次にも活きるので」
しばらくして、レールをつないでいた子のボールが、今度は最後まで転がった。
「いった!」
その声に周りの子どもたちも集まってくる。
みきが小さな声で言った。
「助けを求める前に、自分で何度も変えていました」
りゅうまは子どもの姿を見ながら答えた。
「おもちゃが答えを教えなかったから、自分で考える余白があったんですね」
「なるほど。おもちゃが子どもに教えるのではなく、試してみたくなる状況をつくっている」
ホシが言うとゆきも笑った。
「そう考えると、おもちゃも保育園にやってくる小さな専門家ですね」
「子どもに話しかける代わりに『やってみる?』『次はどうする?』と問いかけてくれるんです」
りゅうまが答えた。
「実は木のおもちゃにはもう一つ理由があって」
りゅうまは手のひらに乗るくらいの小さな木の卵を取り出した。
「これ、ただの木の卵なんです。割れないし、決まった遊び方もない」
「それでも子どもは目の前に置かれただけで、勝手に転がしたり、ままごとに使ったり、夢中になってしまう」
「木って、自然のものだから香りも優しいし、一つとして同じ木目がないんです。長く触っていたくなる温かさがあるというか」

「同じおもちゃなのに、同じものが一つもない」
みきがつぶやくと、りゅうまは笑った。
「はい。だから壊れにくいし、噛んでも安心なものが多い」
「何十年か経って、この子が親になったとき、また自分は遊んでいたおもちゃで自分の子どもと遊べるかもしれない」
「そんな長い時間軸で選べるのも、木のおもちゃの面白さだと思っています」
良いおもちゃとは、長く遊べる高価なものだけではない。
子どもが今、何を試したがっているのか。
一人でじっくり遊びたいのか。
友達と一緒につくりたいのか。
壊して、直して、もう一度挑戦したいのか。
その姿に合うものが、その日のその子にとっての「遊びのパートナー」になる。
「次のおもちゃを選ぶ前に、まず子どもたちの遊びを観察します」
ゆきが言った。
「何が足りないかではなく、今、何にワクワクし始めているかを観察する」
「その姿が見えたら、必要なおもちゃも少しずつ見えてきます」
りゅうまが答えた。
保育園の日常に一つの新しいおもちゃが加わる。
それだけで、いつもの部屋に見たことのない色が生まれ、試したことのない遊びが始まることがある。
おもちゃが子どものワクワクを連れてくる。
そして、子どもの「次はどうなるんだろう」という顔を、大人たちが一緒に見つめる。
それが保育者とおもちゃの専門家が本気で考えた、「あそび」の正体だった。

【おもちゃコンサルタント りゅうま紹介】
保育・福祉の現場で約20年。
おもちゃコンサルタント/木育インストラクター。
「あそびが、ひとをつなぐ」をテーマに活動中。
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