佐川美術館リニューアル/改装から見える「美術館の変化」
9か月の休館を経て、佐川美術館がリニューアル
滋賀県守山市、琵琶湖のほど近くに建つ佐川美術館が、約9か月に及ぶ長期休館を経て、2026年7月1日にリニューアルオープンした。
佐川美術館といえば、水庭の上に建物が浮かんでいるような独特の景観を思い浮かべる人も多いだろう。

1998年、佐川急便の創業40周年記念事業の一環として開館。日本画家・平山郁夫、彫刻家・佐藤忠良、陶芸家・樂直入を中心としたコレクションを持ち、建築そのものも高く評価されてきた美術館である。
今回の改修は、開館以来最大規模となった。
しかし、内容を詳しく見ていくと興味深い。
これは単なる老朽化対策ではない。
むしろ、「これからの美術館に何が求められるのか」への回答に近い改修だと私は思う。
大きな変化は「展示できる作品」の幅
今回、特に注目したいのが展示室の拡張だ。
旧収蔵庫だった約230㎡を既存展示室と接続し、約430㎡のフレキシブルな展示空間へと変更した。
なぜ、これが重要なのか。
現代美術では、作品が必ずしも「壁に掛ける絵」であるとは限らないからだ。
巨大な立体作品、映像、音響、空間全体を使用するインスタレーションなど、作品そのものが大型化・複雑化している。
作品が変われば、当然、美術館側も変わらなければならない。
どれだけ優れた作品でも、展示できる空間がなければ展覧会は成立しない。
今回の改修について佐川美術館自身も、「広い展示空間を要するインスタレーション・アート」を含め、多様化する作品形態への対応を理由として挙げている。
つまり今回のリニューアルによって、佐川美術館は今まで以上に現代的な展覧会を組める美術館になった、と見ることができる。
さらに収蔵庫も従来の約2.5倍へ拡張された。
美術館にとって収蔵庫は表からは見えないが、極めて重要だ。
作品を購入・寄贈によって増やしていけば、当然ながら保管場所が必要になる。
収蔵庫を大幅に拡張したことは、今後のコレクション形成を考えるうえでも注目しておきたい。

「見る場所」から「関わる場所」へ
もう一つ興味深いのが、約100㎡の多目的室の新設である。
講座やワークショップなどに使用するイベント専用スペースだ。
かつての美術館は、極端に言えば「作品を集めて、保存して、展示する場所」だった。
しかし現在では、それだけではない。
子ども向けのワークショップ、美術講座、トークイベント、地域との交流など、美術館には教育機関としての役割も強く求められるようになっている。
作品を一方的に「見せる」のではなく、来館者が美術について考え、学び、参加する。
佐川美術館が今回、多目的室を新設したことは、そうした美術館の役割の変化を象徴しているように感じる。
建築の魅力を壊さなかったことも重要
そして個人的に評価したいのが、既存建築の魅力を大きく変えなかった点だ。
佐川美術館は、展示作品だけではなく、建物と水庭を含めた空間そのものに価値がある。
今回の改修でも、その建築美を損なわないことが明確に意識されている。
プロムナードでは、育成不良が見られたケヤキ並木を再整備し、水辺の環境を好むカツラを新たに植栽。さらに水庭から駐車場が見えにくくなるよう、シラカシの生垣も設けられた。
派手な建て替えではなく、既存の美しさを残しながら機能を更新する。
これは非常に佐川美術館らしい選択だと思う。
そしてリニューアル後の最初の企画展として開催されているのが、「千住博 水の調べ、水の響き」である。

水を象徴的に描き続けてきた千住博の作品と、水庭を特徴とする佐川美術館。
リニューアル第一弾として、非常に相性の良い組み合わせだ。
今後は9月から「生誕140周年 藤田嗣治 7つの情熱」、12月からは「大カプコン展」も予定されている。
日本画、近代洋画、現代美術、そしてゲーム文化まで。
このラインナップからも、佐川美術館が従来の「美術」の枠を少しずつ広げようとしていることが見えてくる。
今回のリニューアルで面白いのは、外観を劇的に変えたことではない。
「何を展示できるか」「何を収蔵できるか」「来館者とどう関わるか」という、美術館の中身そのものを更新したことだ。
美術館もまた、時代に合わせて変わらなければならない。
1998年の開館から28年。
佐川美術館は今回の改修によって、その建築的な美しさを残しながら、次の时代に対応するための器を手に入れたのではないだろうか。
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