見出し画像

スキャンは"明るければ安心"ではない ―― 光は多いほどいい、が現場で崩れた日

スキャンは"明るければ安心"ではない ―― 光は多いほどいい、が現場で崩れた日

今日は夏季休暇で、長野県の野沢温泉村に来ています。温泉好きの私にとっては、至福の時間。一日に数回、湯に浸かっています。

そんなふうに頭がゆるんだ休暇の合間にも、ふと現場のことを思い出したりします。今日は、先日スキャンの現場で「え、逆だった」と実感した話を書きます。

3Dスキャンがうまくいかない、と聞くと、多くの人はまず「暗かったんじゃない?」と考えます。私もそうでした。照明を足そう、明るくしよう、と。

でも、今回の現場で起きたのは逆でした。むしろ明るすぎる場所で、品質が落ちた。 結論から言うと、光は「多いほどいい」ものではありません。暗すぎてもダメ、明るすぎてもダメ。スキャンには"ちょうどいい明るさ"があります。

現場で、点群が"薄く"なった

先日、とある大きなビルで、室内をまるごと3Dスキャンする仕事がありました。詳しい場所は伏せますが、窓が大きく、日中はかなり明るい空間です。

ひと通りスキャンして、あとでデータの品質を確認したときに、あれ、と思いました。今回は、明るい場所ほど、点群が薄く、写真やメッシュ(点をつないだ面)がうまく乗っていない。 暗い隅のほうがちゃんと取れていて、日の当たる明るい面のほうが荒れている。感覚とは、まるで逆だったのです。

「明るいほうがきれいに撮れるはず」という思い込みが、静かに崩れた瞬間でした。

なぜ「明るすぎ」で品質が落ちるのか

家に帰って調べ直すと、これは決して珍しい現象ではありませんでした。仕組みを分けると、明るさが効いてくるポイントは3つあります。①カメラで撮る写真(テクスチャ)、②機械が自分の位置を追いかける「位置追跡」、③LiDARで測る形そのもの。明るさは、この3つに違う効き方をします。

① 写真(テクスチャ)。 明るすぎる面は「白飛び」します。白飛びした部分では、画像の階調や細かな特徴が失われます。しかも白くてツルッとした無地の壁は、もともと特徴に乏しい。写真をつなぎ合わせて色や質感を貼る処理は、この"手がかり"を頼りにしているので、特徴が消えると不安定になりやすいのです(参考:Sketchfab、pix-pro)。

② 位置追跡。 ①と地続きです。iPhoneのような機械は、目の前の"景色"(特徴)を見て、自分がどう動いたかを読んでいます。Appleも、暗すぎる場所や「特徴の乏しい真っ白な壁」ではトラッキングの品質が落ちる、と明記しています。白飛びは、その"景色"の手がかりを減らしてしまう。

③ LiDARの形。 LiDARは、自分で光(赤外線)を出して、跳ね返りから距離を測ります。ここで直射日光のような強い環境光が入ると、センサーが受け取る背景光も増える。すると、自分が照射した光との区別が難しくなり(信号とノイズの比が悪化し)、測れる距離が短くなったり、点群に欠損やノイズが出たりします。強い外光が、センサーを"目つぶし"に近づけるイメージです(参考:RoboSense、Matterport)。

面白いのは、③のLiDARは、①の写真が白飛びしても、形だけは拾えることがある、という点です。方式によって弱点がずれる。だから「明るすぎ」の影響は、どの方式で、何を取っているかで変わってきます。


これは連載の「景色で読む派」と同じ話

②の「景色で読む」は、以前に書いた「±1%」の連載そのものです。

スキャンが自分の位置を把握するやり方には、「地図と照らす派」と「景色で読む派」がある、という話をしました。特徴を手がかりにする以上、白飛びは、ただの画質の問題ではありません。景色の手がかりが減っていく、ということです。

手がかりを失った機械は、あの連載で書いた「真っ白な霧の中を、歩数だけで進む」状態に近づいていく。明るすぎる白い壁は、機械にとっては"霧"に近い。ここがつながったとき、私は妙に納得しました。

もうひとつの壁は「光」ではなく「距離」

同じ現場で、もうひとつ課題がありました。天井が高いのです。

今回使っていた機材とアプリ、現場条件では、5mを超えるあたりから、実用上きびしくなってきます。距離が伸びるうえ、斜めから当たると跳ね返りも弱くなる。これは明るさとは別の軸、「距離」と「角度」の問題です。

現場は、いつもこの二つを同時に読んでいます。明るさが"ちょうどいい"か。距離と角度が"届く範囲"に収まっているか。どちらかが外れると、データは静かに荒れる。カタログのスペックだけ見ていると、この二つが同時に効いてくる現場の感覚は、なかなか掴めません。

だから「撮る」前に、撮れる状態を作る

では、どうするか。ここは道具の万能さに頼るより、段取りで効く部分が大きい、というのが今の実感です。

  • 直射日光が強い時間帯を避ける。ブラインドやカーテンで、光をならす

  • 一部だけ極端に明るい、という"ムラ"をなくす。均一なほうがずっと安定する

  • 真っ白で特徴のない大きな面には、目印になるものを一時的に足すことも検討する(特に位置追跡や写真のマッチングを助ける目的で)

  • 一発で完璧を狙わず、「どういう条件なら撮り直すか」を先に決めておく

端末側でできることもあります。露出制御ができるアプリなら、明るさを少し抑える・固定する、といったひと手間が効く。加えて、機材やアプリ側できちんとキャリブレーションされた状態が保たれていることも、形の精度には効いてきます(これは撮る人が毎回いじる話というより、道具側で整っている前提の話です)。

大事なのは、結局これに尽きます。暗すぎてもダメ、明るすぎてもダメ。均一で、特徴が読み取れる光。これが"撮れる状態"の土台です。

アプリ側でも、"撮り方"は助けられる

とはいえ、これを全部"人の勘"に任せるのは酷な話です。ここは、アプリの作り方でも、かなり助けられる余地があります。

たとえば、撮っている最中にリアルタイムで――

  • 「スキャンスピードが速すぎます」

  • 「取り漏れがあります(この面がまだ薄いです)」

  • 「距離が遠すぎます」

  • 「明るすぎて白飛びしています」

といったアラートをその場で出して、撮り方を直してもらう。ベテランの勘で掴んでいた"ちょうどいい"を、アプリが横で声かけしてくれるイメージです。

ここがうまく作れると、熟練者でなくても、そこそこ使えるデータが撮れるようになる。「撮れる状態を作る」を、人の段取りと、アプリの案内の両方で支える。まだ工夫の余地がたっぷりある、面白い領域だと思っています。

そもそも、機器だけでは解けない"環境"の問題がある

もう一歩引いて考えると、スキャンには、機器性能だけでは吸収しきれない"環境"の問題があります。

私たちが実際にiPhoneと高性能なスキャナーを撮り比べたある現場では、大きな欠損が両方に出ました。少なくとも今回の比較では、機器を変えるだけでは解消しない欠損が残ったのです。(もちろん、外光への強さはセンサーの光学系や信号処理でも変わるので、"環境だけ"でも"機器だけ"でもありません。)

そこで次に考えているのが、実測で取り切れなかった部分を、AIで"推定補完"するアプローチです。ただし、AIが補った部分は実測値ではありません。点群の欠損補完は"部分的な観測から全体の形を推定する"技術であって、見えなかった現実をそのまま測り直すものではない。だから、寸法や検査に使うなら、実測部分と推定部分を区別して表示し、人が確認できる設計が欠かせません。

まずは段取りとUIで欠損を減らす。それでも残る部分は、実測データと明確に区別したうえで、AIによる推定補完を試す。この組み合わせには、まだ大きな可能性があると感じています。

結局のところ、スキャンの上手さは「撮る技術」だけではありません。"撮れる状態"を先に作れるかどうか、そして欠けたところをどう扱うか。光を読み、距離を読み、段取りとUIで整え、それでも残る欠損は実測と区別しながらAIで推定補完する。この地味な設計こそ、道具がどれだけ進化しても、人と工夫が残り続ける仕事だと思っています。

私たちは、こうした「図面のない現場を、どうデータにするか」を毎日考えています。もし現場のスキャンやデータ化で迷うことがあれば、onetech.jp からのぞいてみてください。

さて、そろそろ次のひと風呂に行ってきます。明るすぎて失敗した、なんて、やってみるまで気づきませんでした。でも、こういう小さなつまずきを一つずつ言葉にしていくことが、現場をデータに変える近道なんだと思います。今日も、目の前のつまずきを、面白がってデータに変えていきましょう。

WHAT A WONDERFUL DAY TODAY!

(参考)
・ARKit / ワールドトラッキングの条件(暗所・特徴の乏しい壁):Apple Developer https://developer.apple.com/documentation/arkit/understanding-world-tracking
・写真計測と光の当て方:Sketchfab https://sketchfab.com/blogs/community/lighting-in-photogrammetry/ / pix-pro https://www.pix-pro.com/blog/photogrammetry-fails-2
・LiDARと外光・点群の乱れ:RoboSense https://www.robosense.ai/en/tech-show-55 / Matterport https://matterport.com/blog/lidar-accuracy

――――――――――
▶ はじめての方へ|なぜ「熱と余白」なのか(自己紹介)
https://note.com/nkawam/n/n8c00e8f6d2bd

▶ 私たちの実例と、共創パートナー募集|図面がない現場から、iPhoneで
https://note.com/nkawam/n/n52cd688f7cce

▶ ほぼ毎日更新|3分でわかる ベトナム建設ニュース(マガジン)
https://note.com/nkawam/m/ma83f297fd0d1

いいなと思ったら応援しよう!