「波動が高い」とか言う女、だいたいセックスレス説。
社会という名のジャングルに放り出されて数年。
私は、すっかり「努力教」の熱心な信者になっていた。
理不尽な上司にはロジックで対抗し、山積みのタスクは気合と根性で片付ける。
眠い目をこすって叩き出した売上データこそが、私の価値を証明する唯一絶対の聖典だったのだ。
そんなある日、私の前に突如として現れたのが「スピリチュアル」という、なんともフワフワした概念であった。
曰く、この世界は「気」や「波動」といった、目に見えないチカラで満ちているらしい。
今まで、確認できないものは存在しないものとして生きてきた私にとって、それは衝撃だった。
だって、自分の人生を良くするために、目に見えない「何か」にひたすら懇願するというのだ。
それは、私が積み上げてきた「努力」という名の神への、あまりにも無礼な冒涜に思えた。

気になったので調べてみると、「スピリチュアル」の語源は、ラテン語の「スピリトゥス(spiritus)」。
「精神的な」「霊的な」という意味らしい。
ふむ。
なんだか高尚な響きじゃないか。
しかし、私は疑問に思うのだ。
例えば、道端で綺麗な蝶を見かけたとする。
「わあ、ラッキー!」と思うのは、偶然がもたらしたささやかな喜びだ。
しかし、そこに「これは宇宙からのメッセージ…!私の波動が上がっている証拠だわ…!」という意味付けをし始めた瞬間から、それはスピリチュアルの領域に足を踏み入れる。
つまり、スピリチュアルとは、起きた事柄をどう捉えるか、という解釈の問題に過ぎないのではないのか。
そして、物事をポジティブに解釈するためには、何よりも「心のゆとり」が必要不可欠なのだ。

ここで、私は、ある残酷な仮説にたどり着いてしまった。
もしかすると、スピリチュアルに深く傾倒している人というのは、その「心のゆとり」に決定的に欠けている、つまり、現実に何らかの不満を抱え、幸せではない人である傾向が強いのではないか、と。
彼らは、不幸せな現状を解決するための、直接的な行動が苦手なように見える。
給料が低いなら転職活動をする、恋人が欲しいなら出会いの場に行く、といった現実的な努力をどこか避け、パワーストーンを握りしめたり、新月の夜に願い事を書いたりする。
この、現実世界での直接対決を避ける姿勢。
どこか「女性的」なものを感じないだろうか。
事実、スピリチュアル好きを公言する男性に会うと、どうにもこうにも「オス感」が希薄なことが多いのだ。
そして、この考察は、さらに恐ろしい領域へと私を導いてしまった。
現実的なエネルギー、生々しい生命力、言い換えるならば「肉欲」。
スピリチュアルが好きな人たちというのは、この最も根源的なエネルギーが、枯渇しているのではないだろうか。
つまり、スピリチュアル好きは、セックスレスなのではないか、と。
現実世界で、肌と肌を重ね、体温を感じ、求め、求められる。
この、何よりも強烈な「生きている」という実感。
このエネルギーに満たされている人間が、果たして目に見えない「波動」とやらに、救いを求めるだろうか。
むしろ、逆なのかもしれない。
満たされない肉体、満たされない現実があるからこそ、人は精神世界へと逃避し、そこに救いを見出そうとするのではないか。

この仮説を裏付けるかのように、いわゆる「スピ好き」のコミュニティを覗いてみると、その構成員の割合は、圧倒的に「おばさん」で占められている。
もちろん、全ての人がそうだとは言わない。
しかし、その傾向は否定できないだろう。
人生の様々な局面で、生々しい現実から少しだけ距離を置かざるを得なくなった人々が、そこに集っているように、私には見えてしまうのだ。
肉欲とスピリチュアル。
生きることの根源的なエネルギーと、精神世界の静かな探求。
この二つは、水と油のように、決して混じり合うことはできないのかもしれない。
もちろん、これはスピリチュアルという概念をまだ知り尽くしていない、努力教の信者である私の、現時点での考察に過ぎない。
もし、この記事を読んで気分を害された方がいたとしたら、本当に申し訳ない。他意はないのだ。先に謝っておく。
ただ、もしあなたが今、何かにすがりたいと思っているのなら。
一度だけ、自分の身体に問いかけてみてはどうだろうか。
「本当に足りないのは、波動ですか?それとも…」と。

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