「信号機」という選択。画像認証を、そっとひも解く
rinrin船長の航海日誌より。
「信号機をすべて選択してください」という高度な心理戦。
そこに、何かが潜んでいる。
歴戦の覇者である海賊船の船長、rinrin船長ですら見落としている何かを、そっとひも解いてみる。
全ては、この航海日誌からはじまった。

日常にある小さな選択。
そして試行錯誤。
「信号機をすべて選択してください」
いつものやつだ。
「ああ、これね」
簡単な作業だ。
誰だってできる。
これでロボットなのかどうかを判定するなんて、笑っちゃう。
画像を軽く確認し、タップする。
ところが、これが意外と不正解になる。
「今のはポールの部分が選択できていなかったのかな?」
やり直す。
でも、また不正解。
「……え?」
苦笑いする。
もう一度。
目を凝らしながら画像を見る。
「ここに信号機のテッペンが入っているから……」
選択しなおす。
何度も、何度も。
「何か思い違いをしているのかな?」
「いや、今度こそ間違いないはず……」
そんなことを繰り返していると、ふと、思うことがある。
「これじゃあ信号機探しロボットみたいになっているじゃないか……」
それでも、ここを突破しないと先に進むことはできない。
だから、探す。
信号機を。
画面をタップする。
「信号機……」
またタップ。
「信号機……」
またタップ。
そんな中、不意に視線を手元に移す。
冷めかけたコーヒー。
「これは……コップか?」
探しているものじゃない。
スマホの画面に視線を戻す。
「どこが信号機だ?」
次の画像。
「どこがバイクなんだ?」
次。
「どこが車なんだ?」
画像認証の対象物は、いったいどの枠なのか。
何が正解なのか。
今はそれ以外のことは、どうでもいい瑣末事に過ぎないのだ。
これは、毎日のように繰り返される、ちょっとした日常的な風景に過ぎない。

ちょっと近所のコンビニまで出かけるとき。
あるいは会社へ向かうとき。
観光地を散策するとき。
「……信号機だ」
ふと目に入る信号機に安心感を覚える。
でも、その直後に襲ってくる。
「本当に?」
ポールを見る。
「これは信号機の一部か?」
道路を走る車を見る。
「車……?」
自転車を見る。
「自転車……?」
人を見る。
そして、
「……人間?」
今日もいつものように認証画面が表示される。
画面にはいつもの文字。
「私はロボットではありません」
すぐとなりには、チェックボックスが置かれている。
画面に伸びる自分の指先を見つめ、その指を引っ込める。
スマホの画面が、明るい。
ふと考える。
「そもそも、ロボットとは何なのだ?」
定義が難しい。
そもそもの語源は「強制労働」や「苦役」。
「私はロボットではありません」
あたかも、働かざるもののようにすら感じてくる。
「私は、本当にロボットではないのだろうか。」
覚悟を決める。
チェックボックスを押し、信号機を探す。
「悪くない」
ほほえみを浮かべながら、精密な動きで信号機を選ぶ。
今日はどうやら、成功したようだ。

スマホをポケットに入れ、街を歩く。
信号機が点滅から、赤信号に変わる。
「信号機だ」
誰に聞かせるでもなく、そっとつぶやく。
後からやってきた男が、そっと信号機を見上げる。
「信号機だ」
どうやら、この男も正しく選択することができたらしい。
信号機が青に変わる。
必要な選択が、過不足なく行われた。
📖 エッセイ
どうやら私は、ひとりだけ別の世界に住んでいるようだ (全4話)
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