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カワイイ絵柄に油断した。『天幕のジャードゥーガル』からモンゴル史に夢中になった話


カワイイ絵柄の「歴史アニメ」だと見始めたけれど
そこに描かれていたのは、モンゴルの歴史と
戦争によって、故郷も家族も奪われた少女の物語だった…!

「天幕のジャードゥーガル」

この作品をきっかけに、私はこれまでほとんど知らなかった
モンゴル帝国の歴史を調べ始めた。

今回はそんなお話です。


音声版も作ってみました。
目で読むのとは少し違う雰囲気で楽しめると思います。
家事をしながら、休憩しながら、よかったら聴いてみてください。
※記事本文をもとに、音声で聴きやすいよう一部を整えています。
音声読み上げ:音読さん





1.カワイイ絵柄のアニメだと思って見始めた


絵柄のタッチから、てっきり海外アニメかと思ったけれど、
現在、Souffleで連載中の漫画、トマトスープ氏による
「天幕のジャードゥーガル」のアニメ化であり
7月より、放送が開始されています。


13世紀のモンゴル帝国を舞台に、
知恵を武器に帝国へ復讐を企む女性「シタラ(ファーティマ)」と、
第2代皇帝オゴタイの第6妃「ドレゲネ」の2人を描いた物語…。

タイトルの「天幕」とは、
遊牧民の移動式住居である「ゲル(天幕)」を指し
「ジャードゥーガル」はペルシア語で「魔術師・魔女」を意味します。

また、ファーティマやドレゲネは実在する人物であり、
史実を元に、創作されています。


2.カワイイからこそ過酷さが際立つ


母親を亡くしたペルシャ人、奴隷の少女「シタラ」は
心やさしい、学者の一家に引き取られます。

最初は、逃げ出すことばかりを考えるシタラに
この一家の息子、ムハンマドから

賢くなれば、どんなに困ったことが起きたって
何をすれば一番いいのかわかる


という「学ぶことの大切さ」を知り、
この家で働きながら、学び、幸せに過ごすのですが、
そこへ、モンゴル軍が攻め込んできます。

町は壊滅、一家は離散し生死もわからない…。
学者一家が大切にしていた書物も奪われ
モンゴル軍の奴隷となったシタラは、復讐を誓う…。

なかなか、ヘビーなはじまりです。

・知識を持っていても、自由には生きられない時代
・女性や弱い立場の人が、政治に翻弄される
・突然、人の命や立場が変わってしまう怖さ

奴隷がふつうに売買されていたこと
職人以外は虐殺され、女性やこどもは奴隷として
モンゴル本国へ連れて行かれること

とても驚きでした。

見やすいのに、
描かれている内容はとても重く
絵柄と物語の落差が、かえって心に残ります。


3.私はモンゴル帝国のことをほとんど知らなかった



私が知っている、モンゴル帝国の知識

・チンギス・ハン
・元寇
・フビライ・ハン

ぐらい…。

また
実は、源義経は死んでおらず
秘密裏にモンゴルに渡り、チンギスハンになったという
都市伝説……ぐらいしか知らない。

けれど、アニメを見ていると、

・トルイ
・オゴタイ
・チャガタイ
・ソルコクタニ
・ドレゲネ など

知らない人物や一族が、次々に登場します。

名前が似ていて、ややこしく
最初は名前を覚えるだけでも大変でした。

気になって調べ始めると、
モンゴル帝国は、一人の皇帝が治めた単純な国ではなく、
いくつもの一族の思惑が交差する世界でした。


ここから先は、史実から今後の展開を推測しています。
アニメだけで楽しみたい方は、第6章へどうぞ。




4.登場人物の「実在のモデル」を調べるのが面白い


チンギス・カン肖像(14世紀、作者不詳、元代)
出典:Wikimedia Commons/Public Domain



まず、シタラのいた町トゥースを襲った
モンゴル軍を指揮していたのが、トルイです。

史実では
モンゴル帝国「トルイ」は、初代皇帝のチンギス・カンの四男でありモンゴルの伝統(末子相続)に従い、広大な直轄地と、モンゴル高原の主力軍(約12万人のうち約10万人)を相続しました。
チンギス・カンの死後は、次男オゴデイが第2代ハーンに即位するまで
実質的な帝国の最高権力者(監国)として国政を執りました。

シタラが、モンゴル帝国で最初に仕えるのが
このトルイの正妃「ソルコクタニ」となります。

「オゴタイ」が、第2代皇帝(ハーン)に即位し、その第6夫人が「ドレゲネ」となります。
ドレゲネは、もともとはモンゴル高原の有力部族「メルキト部(またはナイマン部)」の有力者の妻でしたが、チンギス・ハンがメルキト部を征服した際、戦利品として三男のオゴデイに与えられ、彼の第六夫人となりました。

作中でも、ドレゲネは
モンゴル帝国を憎んでいる描写が見られます。


のちに、シタラはドレゲネに仕えることになり

この二人の出会いにより、復讐は果たせるのか……!?

今後の展開が楽しみです。



5.史実とフィクションの間を行き来する楽しさ



さて、史実の
ドレゲネとファーティマは
どうなっていったのでしょうか…?

めちゃくちゃ気になり、調べてみました。
(家系図を作りました、気になる方はダウンロードしてみて)


実在人物を調べていると「史実はこうだった」と
簡単には言い切れないことに気づきました。

とくに女性や奴隷として生きた人々の記録は
ほとんど残っていません。

ここから先は、私が調べた史実となります。

オゴデイとの間に長男グユクを含む5人の息子をもうけたドレゲネは、次第に宮廷内で発言力を強めていき、夫オゴデイが急死すると、ドレゲネは凄まじい政治力を発揮します。
またドレゲネの最側近となったファーティマは、皇后の威光を背景に国政の重要決定や人事に深く介入し、激しい恨みをかい「悪女」と呼ばれました。

そしてついにドレゲネは、念願だった息子グユクを第3代皇帝に即位させることに成功します。

すごい、お母ちゃん…。

しかし、即位したグユクは母の過度な政治介入を嫌い、ドレゲネの側近ファーティマを処刑するなど母子関係が悪化します。
グユクの即位からわずか数ヶ月後、ドレゲネは急死(病死とも暗殺とも言われる)しました。


なんてことだ…!

ドレゲネ亡き後は…
グユクはもともと不仲だった従兄のバトゥ(ジュチ家の祖)と対立し、病のために急逝します(病弱とも暗殺ともいわれています)

グユクの死後、バトゥはチンギス・カンの四男トルイ家を支持し、これにより、次の第4代皇帝にはモンケ(トルイ長男)が、第5第皇帝にはフビライ(トルイの次男)が即位し、帝国の実権はオゴデイ家からトルイ家へと移るのです(ちなみに学校で学んだ「元寇」は、このフビライによるもの)

チンギス・カン亡き後のモンゴル帝国は拡大、繁栄を極めます。
しかし一族内での争いが度々起こり、やがて分裂・衰退してゆきます。



残っている史料そのものが、

・勝者の側から書かれている
・女性や奴隷の記録が少ない
・悪女として描かれた人物の本当の姿が分からない
・空白の部分が多い


この空白があるからこそ、物語を創作できるともいえます。

歴史に記録されたのは、皇帝や戦争の名前だけれど
その時代を生きた名もない人たちにも、
それぞれの人生があったはず…。

現代人のわたしたちにも、その人生や心情を
想像することができ、そこがこの物語の魅力となっています。


原作者トマトスープ先生が制作の裏側について
お話されている動画がありましたので、貼り付けときますね。



6.美しい世界観、ていねいな生活描写も見どころ



「天幕のジャードゥーガル」は
サイエンスSARUが、アニメを制作しています。

もともと原作が、かわいい絵柄だったことに合わせて
アニメーションは、なるべく線画をへらし
絵本のような、美しい世界観に仕上がっています。

またアニメ制作陣はモンゴルで取材を行い
実際に生活や文化を体験し、ていねいに描いていて、
これもまた、見どころの一つとなっています。




7.知らない歴史への入口をくれた作品


『天幕のジャードゥーガル』を見るまで、
私にとってモンゴル帝国は、教科書に出てくる遠い世界だった。

けれど今では、ドレゲネやファーティマたちが何を考え、
どのように生きたのかが、気になっている。

アニメを見ることは、物語を楽しむだけではない。
知らなかった時代への扉を開くことでもあるのだと思う。

現在「天幕のジャードゥーガル」第5話まで放送中。
興味を持った方も、まだまだ間に合いますよ。







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