風の吹く丘で伝えられた、小さな言葉
あなたの次の旅が、
もっと鮮やかに輝きますように...。
思いがけない出会いと、
ふとした瞬間に心が解き放たれた、
忘れられない旅の記憶を辿ってみました。
もっと深く息を吸い込むために、
日常を離れたはずなのに…。
雨はようやく
止んだものの、
週末の高速道路は、
とても長い渋滞でした。
わたしはそっと
唇を噛みしめて、
何度もため息を
つきたいような
気分だったんです。
仕事でくたびれた心を
リセットするために
計画した温泉旅行。
それなのに、
せっかく立てた計画が、
分刻みで遅れていくことに
ひたすら焦っていて、
隣に座る家族とも、
ここ1時間ほど、
気の利いた会話を
していませんでした。
リラックスするための旅で、
なぜかストレスを溜め込んでいる…。
現代を生きる、
わたしたちには、
よくある、皮肉な
できごとなんでしょうか…。
夕暮れ時に、
ようやく
草津温泉の入り口へ
辿り着いた時、
開け放った車窓から、
どこからともなく
かすかな硫黄の香りが…。

標高1,200メートルの
空気は、
普段とは明らかに違う
涼感に包まれています。
そのひんやりした
風に触れた時、
張りつめていた
肩の力が、
ほんの少しだけ、
緩むのを感じました。
⑴ 気の抜けた“番頭さん”の心ほどくお出迎え
ホテルへ向かう前に、
少しだけ、
湯畑の周りを
歩くことにしました。
そこは旅の目的地。
浴衣姿で行き交う人の
下駄の音も、
カラン♪コロン♪と
心地よく響いています。
夕暮れの空の下、
立ち上る白い湯気…。

でも、わたしはまだ…。
次はどこへ行けば?…。
…夕食の時間は?…。
って、
頭の中は、先の段取りのことでいっぱい…。
日常のせわしない歩幅から、
どうしても抜け出せずにいました。
そんな時、目の前に、
なんとも気の抜けた、
まぁるいシルエットが
飛び込んできたんです。



お土産処・りらっくまの湯の店先で…
番頭さんのように
座っていた、
大きなりらっくまが、
ぽつんと、
わたしたちを
見つめていたんです。
…なにこれ…。
すごくのんびりしてる…。
その脱力しきった
愛らしい佇まい…。
気がつくと、
車内でずっと
沈黙していた
家族が、
ぷっ。と吹き出して、
笑っていました。
その飾らない
笑顔を見た瞬間に、
固まっていたなにかが、
すっと…解けていくのを
感じたんです。
そうだ…。
わたしたちは、
このために、
ここまで来たんだ…。
りらっくまの
何気ないお出迎えが、
この旅の
本当の始まりを、
教えてくれたような
気がしたんです。
⑵ 冷え切った身体と、沁み渡る温もり
すっかり日が
落ちた後、
わたしたちは、
西の河原公園へお散歩に。
夜の西の河原は、
昼間の賑わいが
嘘のよう…。
青白く照らされた
湯けむりは、
岩肌の合間を流れて、
周りの景色を幻想的に、
覆い隠しています。

冷たい夜風の中、
立ち上る湯気を
見つめていると、
ふと、不思議な
郷愁に包まれます。
…江戸の昔から、
どれだけの人が、
ランプの灯りだけで
この湯治場を訪れて、
体の痛みや心の傷を、
このお湯に預けて
きたんでしょう…。
硫黄の香りと湯けむりが、
長い歴史と、
今を生きる私たちを、
そっと繋いでくれるような
気持ちになりました。
…そんな思いを
巡らせている間に、
すっかり冷え切ってしまった身体を、
温かく迎え入れてくれたのが、
ひっそりと灯りをともす、
隠れ料理屋「月や」さんです。

引き戸を開けると、
ふわりと漂う、
出汁の甘い香り。
自家製の蕎麦つゆで味わう、
絶品の豚しゃぶ鍋と、
冷水でキリっと締められた
お蕎麦の美味しさは、
今でもはっきりと思い出せます。

鴨の旨味が
溶け出した
熱々のお出汁が、
冷えた胃袋から
じんわり全身へ
染み渡っていく、
心地よさ…。
求めていた温もりと、
穏やかな時間が、
そこにはありました。
⑶ 翡翠色の衝撃。みずみずしい目覚め
…翌朝。
ホテルの朝食は、
緑豊かな木々に響く、
軽やかな鳥のさえずりと
ともに始まります。
広々とした、
ダイニングに
差し込む朝陽。

淹れたての珈琲が
香るテーブルで、
わたしは、
小鉢に盛られた
群馬の名物、刺身こんにゃくを、
何気なく手に
取ったんです。

箸をのばした
その瞬間…。
思わず、目を丸くしてしまいました。
それは、今まで
私が知っていた
こんにゃくとは、
まったくの
別物だったんです!
目に鮮やかな、濃い翡翠色!
口に含めば、
つるりと、
なめらかな
舌触りの奥から、
驚くほどの
みずみずしさが
弾け出します!
ひんやりした
清涼感のあとに、
ほんのり香る
山の風味…。
辛子酢味噌の
さわやかな刺激が、
その素朴な甘みを
くっきりと、
際立たせていました…。

………美味しい………………。
ただそれだけの言葉しか出ませんでした。
特別な高級食材でも、
複雑に調理された
料理でもありません。
(ただの)新鮮な
刺身こんにゃくです。
しかし、その一片一片には、
山々が蓄えた、清らかな水と、
澄んだ空気のすべてが、
詰まっているように感じられました。
大げさに聞こえるかも
しれませんが、
長時間のデスクワークや、
人間関係で干からびていた、
細胞の隅々まで、
潤してくれるような
みずみずしい感覚だったんです。

日常に戻ってから
数日が経っても、
ふとした瞬間に、
あの翡翠色の
みずみずしさと
食感を思い出して、
あそこへ帰りたい……。
と、感じずにはいられない
日々が続きます。
何気ない朝食の小鉢が、
これほどまでに
強烈な体験として
刻まれるなんて、
想像もつきませんでした…。

(そして数週間後、再訪するのでした…。)
⑷ 天空の絨毯と、風の中で伝えたこと
草津の湯と、
翡翠色の味覚で、
たっぷりと
潤いを満たした
わたしたちは、
チェックアウト後、
嬬恋方面へと
向かいます。
目指すのは、
どこまでも続く
グリーンロード…。
つまごいパノラマラインです。

窓を開けると、
流れてきたのは、
雨上がりの土の匂いと、
新緑の香りを
たっぷりと含んだ
高原の風。
視界が開けた瞬間、
目の前に広がったのは、
圧倒的な緑の
じゅうたんでした。
うねるような丘陵。
そこに見渡すかぎり植えられた
キャベツの鮮やかな緑。
その上には、
抜けるような群青の空。

何ひとつ視界を遮らない、
コントラストの中を
ひた走っていると、
日々の悩みが、
どれほど小さいかを、
思い知らされます。
やがて辿り着いたのは、
道の先で静かに佇む
高台の丘でした。

車から降りて、
土の上を歩くと、
風が木々の葉を揺らす、
かすかな音だけが聞こえてきます。
日常のノイズから
完全に離れた、
静寂のなかで、
わたしは隣で
同じ景色を見つめている、
家族の横顔を見ていました。
渋滞でイライラしていた時も、
りらっくまの前で笑い合った時も、
真っ暗な西の河原を歩いた時にも、
ずっと文句ひとつ言わずに
隣にいてくれた…。

普段なら恥ずかしくて、
言い出せない言葉が、
この丘の上でなら、
自然と声に出せそうな気がしました。
…いつも、一緒にいてくれてありがとう。
風に消えてしまいそうな
小さな声でしたが、
家族はこちらを向いて、
少しだけ笑ってくれました。
この瞬間が、
焦燥から始まる、
旅で見つけた
いちばんのお土産…
だったのかもしれません。
思い出に残る、小さな予定の隙間
ふと目が合った、
あのまるい姿の
気の抜けた表情。
何気なく口に運んだ、
翡翠色の刺身こんにゃく。
そして、
高原の風に消えそうな、
伝えたかった言葉…。
旅に出てしまうと、
つい…。
特別な何かを求める
勢いそのままに、
予定を詰め込みすぎる
ものなのかもしれません…。
でも…。
今も残る思い出は、
詰め込んだ予定の隙間…。
ふとした “余白” にこそ、
隠れているような気がします。

もし、あなたが今、
大切な旅の途中なら。
変わらない日常の風景を
歩いているのなら。
どうか一度、立ち止まって
深呼吸をしてみてください。
そこにはきっと、
あなただけが
気づくことのできる、
ささやかで、強烈に、心を潤す、
何かが隠れているはずです。
その小さな手触りは、
日々を健やかに、
しなやかに生きていくための、
秘訣なのかもしれません♪
ここまで読んでいただいて、
本当にありがとうございました。
この旅だけでなく、
素敵なフォロワー皆さま方の、
出会いと物語、そこには、
また違う旅の情景が広がっています。
ぜひ、こちらの扉も開けてみてくださいね♪
コニシ木の子さん
深く敬愛し、
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恩人と心を通い合わせる、
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