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大塚あみさんの#100日チャレンジが、想像してたのと違った

ChatGPTを駆使して100日間毎日アプリを作って投稿してたら、一躍有名になった人。

『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』を読む前に、大塚あみさんについて私が知っていたのはそれだけでした。

へー、AIを使いこなしたら、1日1本ペースでだってアプリを作れちゃうんだな。AIネイティブ世代がChatGPTを駆使してアプリを作る、そのコンセプトの目新しさで話題になってるんだな。


・・・・


そんな風に思っていた、のですが。

この本の中にあったのは、もっともっと普遍的でクラシックな成長物語でした。




軽い気持ちで「毎日1本ずつアプリを作ってXに投稿する」と決めた大塚あみさん。

最初は、ChatGPTに書いてもらったプログラムをよく理解せずに使ったり、うまく動かないアプリをスクショだけ投稿してごまかしたりしていたものの。

次第に「このやり方を続けてても限界が来る」と焦りが生まれ、用語を調べ、アルゴリズムを学び、プログラミングの腕を上げていく、の、ですが。


その上達スピードが、とにかくすさまじいんです。



途中で振り返ったとき、「再利用するつもりで作ったものが過去20日間で43個もあったのに、今見返すとほとんどが出来が悪く、1つしか使えなかった」とか言うんです。

2週間前に20時間かけて作ったものよりもっと良いものが、今なら30分かからずに作れる、とも。


2年前とか2ヶ月じゃなくて、2週間とか20日とかですよ?


短時間で目に見えて変化するなんて、赤ちゃんの特権だと思っていました。数週間見ないうちに寝返りできるようになってたり、ハイハイをマスターしてたり、あの人たち変化スピードすごいですからね。

でも大人になってから、たった2〜3週間で自分がそこまで変わることってあります?




その上達スピードも、彼女のルーティンをきいて納得です。というのも彼女、毎日10時間をプログラミング、2時間を問題の整理や文書化、合計12時間をこのプロジェクトに費やしてたっていうんですよね。



いやまじか。12時間って。「ChatGPT使えば毎日だってアプリも作れちゃうんだ〜」とか軽々しく思ってごめんなさい。



これを聞いて思い出したのが、マルコム・グラッドウェルの『天才! 成功する人々の法則』

「1万時間の法則」で有名な本で、結成直後のビートルズが1日8時間ステージに立っていた話や、中高時代のビル・ゲイツが1日8時間プログラミングに費やしていた話がでてきます。

続けた期間が全然違うとはいえ、この100日に限ればビル・ゲイツよりも大塚あみさんの方がプログラミングに時間費やしてるんですよね。

シンプルにすごい。


クラシックな成長物語

もちろん大塚あみさんの物語には、現代ならではの味つけもあります。

知りたいことを逐一教えてくれ、コードも書いてくれるAIのおかげで上達が加速したこと。自分にプレッシャーをかけ、締め切りを課す道具としてSNSを活用したこと。

「100日チャレンジ」が始まった2023年は、「チャットGPT」が流行語大賞にノミネートされた年でもあります。彼女のチャレンジがあと1年遅ければ、ここまでの追い風は吹かなかったかもしれない。



だけど彼女がやったことの本質は、1960年代の成功者たちとそう変わらないんですよね。圧倒的な量をこなし、量を質に転化させるという、クラシックな成長物語がそこにありました

しかも大塚あみさん、量が質に変わっていくプロセスをマメに記録しているんですよね。

ダニング = クルーガー効果を地でいく成長の様子を、タイムラプスよろしく追体験できてしまう。そんな楽しみ方のできる本です。



「SNSで成功したストーリー」ではない

それからもう一つ、想像と違っていたこと。


本書を読む前に想像していたのは、「毎日アプリを作る様子を投稿してたら、Xでバズって有名になった」という成功ストーリーでした。

100日というキーワードからは、やはりTwitter(当時)で話題になった「100日後に死ぬワニ」が思い浮かびますし。



でも、そうじゃなかったんですね。この投稿がバスったとか、これだけフォロワーが増えたみたいな話は、本書にはほとんど出てこない

彼女に締め切りを課し、モチベーションとプレッシャーを与える装置。この物語の中でXは、それ以上の役割を与えられていません。



これはメンターの物語でもある

代わりに大きな役割を果たすのは、「佐々木先生」「伊藤先生」というメンターの存在です。

そもそも「#100日チャレンジ」を始める前の時点で、彼女は教授の目に留まり、学会発表をし、さらに2度目の学会発表まで打診されてるんです。

大学生が、教授と学会を通じて成功する話。その意味でもこれは、クラシックな成功ストーリーと言えるかも知れない。



始まりはプログラミングの授業中。2週間前に講義で紹介したばかりのChatGPTでオセロを作っている学生が、佐々木先生の目に留まります。

授業で取り上げているプログラミング言語でアプリを作っていたとはいえ、講義の指示を無視していたことには変わりません。

頭のかたい先生なら、「ちゃんと授業をきけ!」と怒って終わりだったかもしれない。

そこで「面白い学生がいるんです」と別の先生 〜 伊藤篤教授 〜 をひっぱってきた佐々木先生も、初対面の学生に翌月の学会発表をもちかけた伊藤先生も、その場で「やらせてください」と即決した大塚あみさんも、全員すごい



先生たちはその後も、「まともなエンジニアなら数学ができるのは当たり前だよ」と数学書を差し出したり、AI関連のコミュニティに彼女を連れていったり、MacBook Proまで進呈したり

助言、道具、人脈、機会と、彼女の成功や成長に必要なものを惜しみなく与えます。

彼女が話題になったきっかけも、先生の紹介で知り合った角川アスキー元編集長が自身の連載で取り上げたこと。さらにその元編集長の人脈を介して、本書の出版に至ったようです。



だからこの物語は、「若者がメンターの目にとまり、アドバイスや人脈を授かる中で、普通の大学生には真似できない伸び方をした話」でもあるんです。

劇的な成功をする上で、メンターがいかに大事か。そしてメンターに「応援したい」と思ってもらえるのはどんな人か。そんな観点で読んでも面白い本だと思います。



ちなみに、先生から見た大塚あみさんの印象はこちら:

本書で描かれている同じ場面が、先生目線ではどう見えていたか。突き合わせて読むと面白いです。



ちなみに。余談ですが、以前取り上げた『サードドア 精神的資産の増やし方』でも、メンターの存在はめちゃくちゃ大きかったんですよね。

こちらは「成功者にインタビューしてその内容を本にしよう」と思い立った大学生のストーリー。

とにかく人脈がモノをいうチャレンジなんですが、やはり良いメンターに巡り合ってから一気に道がひらけている。



SNS時代の終わり

それにしても。

タイトルにハッシュタグが含まれるベストセラーで、ここまでSNSが脇役に追いやられてるのも珍しいんじゃないでしょうか。

この物語におけるSNSはあくまでも、「Xで宣言することで、勉強せざるを得ない状況に自分を追い込むための装置」。それ以上でも以下でもありません。

承認欲求に振り回されるでもなく、SNSのアルゴリズムをハックするでもなく、自分の目的に沿った機能だけを上手に利用する絶妙な距離感。

これを読んだ時、「あぁ、SNSは時代の主役の座をAIに譲って、インフラポジションに収まったんだな」と感じました。




もちろんこれまでにも、フォロワー増やしに必死な人からSNSアカウントを持たない人まで、人それぞれいろんな距離感があったと思います。

だけど。

人一倍時代の空気に敏感であろう書籍の編集者が、「SNSへの連続投稿」というトピックを扱っていながら、SNSの反応に重きを置かない構成にゴーサインを出したこと

そして実際、この本がベストセラーになったこと。

それはとても象徴的な出来事のように思えます。



一冊の本から時代を論じるのは、飛躍しすぎかも知れません。

でも10年後くらいに「時代の主役がSNSからAIに切り替わったタイミングってどんなだったかな?」と振り返った時、私はきっとこの本を思い出すんじゃないか。そんな気がしています。


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