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喫茶アンブレラ 心がないドーナツ 【短編小説】


 「たまごっ、お砂糖っ、ミルクッ、バタァッ、

  小麦粉っ、BPッ、トントントン♪」

キッチンから聞こえてくる楽しそうな声。

今日はどうやらあのまあるいあま〜いおやつをつくっているようですね。
あなたはご自身で作ったことがありますか?
油は惜しみなく使いましょう。
それがぼくからのワンポイントアドバイスです。


おやおや?

夏の空は高く晴れているのにココロに雨フル人間が、今日も迷っているようですね。

本日のお客様は14歳のお嬢さん。

一体どうしたのでしょうか。

本日も喫茶アンブレラ開店でございます。


 

 〜心がないドーナツ〜


中学生の園子は、部活に励み、学校行事にも積極的に取り組む、優等生道を走る女の子。
勉強もできるし、先生からも気に入られている。

これで、周りに友だちが居てくれれば最高なんだけどな。

園子は部活の帰り道、いつもの十字路で同級生と別れ、一人になると、考えるのであった。

部活は楽しいけれど、仲間とは違う気がする。
学校でも誘い合ってトイレへいくとか、ちょっと理解できない。
みんなが輪に必死に見えてしまう。
そんな自分だって、あの時変なこと言ってしまったよなぁと後悔の連続。
何がたのしいのだろうか。
仲良しとか、友だちとかって実感はどこからがそうなんだろう。
私がそんな事を考えてしまうから、仲良しと思える友だちがいないのかな。
そもそも友だちとはなんなのかな。
私が変なのか。

でも、やっぱり、みんなが楽しそう。

私って寂しい人間なのかな。

可哀想なのかな。

どうしたいのか。

どうすればいいのか。

私にはわからないや。

孤独は最高なのかな。

、、、いや、、寂しいよな。


いつものように下を向き、寂しさを纏い、とぼとぼと歩く園子。


「あー、もう考えるのやーめたっ!!」

と、顔を上げると、そこには見たことのない住宅街の一本道が続いていた。


その先のT字路の隅に、小さな白い立て看板が見える。


「なんだろう。赤い矢印みたいなものも見えるな。ちょっと見に行ってみるか」


そこに書かれていたのは

 〝心がないドーナツあります。
         喫茶アンブレラはこちら〟



「何!?心がないって寂しすぎるでしょ(笑)
って、、私も寂しい人間なんだった。だめだめ。
でも、今日の部活は激しめだったし、小腹も空いてるからちょっといってみようかな」

園子はその看板の矢印が指す方へ進んだ。

「心がないってさ、美味しくないんじゃないの?こんなにお腹が空いてるのにマズイとかやめてほしいなぁー」

それでも歩みを止めない園子。

すると、遠くに木々が生い茂る森のようなものが見えてくる。

「あれ?道、間違えたかな?でも、、ずっと一本道だったし、間違えてはない。はず、、?」

不安ながらも、森の中を進むことにする。

蝉の大合唱と生暖かい空気。

それでも木が影となり、進む先からも涼しい風が吹いていた。

両腕を広げて、大きく深呼吸をする。

「なんかパワーもらえるって感じだなー。
昔、パパと蝉取りしてて、パパは蝉におしっこかけられたりしてさ、あの時は笑ったなぁ。
蚊に刺されたら十字に爪跡つけたら痒くなくなるんだーとかよく分からないおまじないを信じていたり。本当楽しかったよなぁ。。」

軽くスキップするように進む園子の前に、
白い建物がみえてくる。

「あっ!あれが寂しいドーナツ屋さん!?」

名前が少し変わってしまっていますが、
喫茶アンブレラはもうすぐそこです。

白い門を括ると見えたのはまるで物語に出てくるような丸々とした可愛い建物でした。

入り口の前には白い手作りの看板に


  〝本日のおすすめ
       心がないドーナツ〟


と書かれていた。


恐る恐るドアノブに手をやる。

そっとドアを開くと、小さくカランコロンと小粋なドアベルが鳴る。

ドアからひょこっと中を覗くと、

「こんにちは。喫茶アンブレラへようこそ。
今日は外が暑いですな。
さあさあ中へお入りください」

と割烹着を着た店員らしき女性と目が合った。

「あのぉ、、看板にあったココロがないドーナツってまだありますか?」

「はて?ココロがない、、?
本日のおすすめは中心がないドーナツだったと思うのですが、、」

「うそ!?私が見間違えたのかも!すみません!
ちょっと見てきます!」と慌ててドアを開けて、看板に目をやる。

「いや、心がないって書いてありますよ?(笑)
ほら!」と上半身が隠れるほどの看板を担いで、中の店員らしき女性に見せた。

「あらあらまあまあ。これはこれは失礼いたしました。ワタシが間違えていたようですね」

「あ!でも住宅街にあった1つ目の看板にも
〝心がない〟と書いてありましたよ!
だって、私は〝心がない〟って自分みたいだーと思って、ここまで来たもん」と頭を掻きながら舌を出す園子。

「、、、、っ!!」
目をまんまるにする割烹着の女性。

束の間の沈黙のあと、
ぷっと笑い声が溢れた。

「なんなんですかー、もう。店員さんおっちょこちょいですねー。まだ何も食べてもないのに笑って満足して帰れるぅー」
久しぶりに人の目を見て互いに笑う喜びを感じる園子だった。

「もうワタシも歳なのよ。お年寄りには優しくしてくださいませ。おほほ」と目尻を下げて微笑む割烹着の女性。

「そんなことより、お座りになってくださいな。
ご注文は中心がないドーナツ、あっ、いやっ、ココロがないドーナツでよろしいですかな?」

「ははは。はい!〝ココロがないドーナツ〟を、お願いします!もうっ、店員さん面白すぎ!」

お腹をかかえて笑う園子に、
割烹着の女性は

「ここいらでワタシはあんこと呼ばれているのだよ。
だから、あんこと呼んでくださいな」

「え?あんこ?なんで?あんこさんは和菓子も作るの?」

「いえいえ。漢字では杏子と書くんだけども、初めてだときょうこと呼んでもらえなくて、もうあんこでいいのよと言ってるうちに、あんこが定着してしまったのよ」

にこにことした空気に包まれる店内。

園子はカウンターの左から2番目の席に座った。

杏子の背中越しにあるコンロには、レトロな花柄の白いホーロー鍋が見え、
横にはまあるいドーナツが行儀よく大きな皿の上に並んでいた。

ジュッジュッと耳心地のいい音がして、思わず立ち上がり、鼻の下を伸ばして様子を伺う園子。

杏子は菜箸を両手に1本ずつ持ち、つんつんとドーナツを揺らす。

 「たっぷり油船(ゆぶね)でゆらゆらり〜♪

  初めぶくぶく、後ぷくぷく♪

  焦りは禁物、きつね色〜♪」

踊るように菜箸を振っている。

「ねぇねぇ、あんこさん!ちょっと見せて!ドーナツなんて作ったことがないから、私見てみたい!」

「ええ、ええ、いいですとも。
油が跳ねるかもしれないから気をつけるんだよ。
左にあるその扉を押して、こちらにおいでなさい」

黄金色に透き通る油の中をぷかぷかと歌いながら幸せそうに浮かぶドーナツ。
だんだんと周りの泡が細かくなり、甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「そろそろひっくり返してもよさそうだ。
そらいくよ!」

と菜箸でひっくり返してみせる。

見事に返ったドーナツはるんるんと揺れて踊り、
油跳ねの音がサビにかえる。

「きゃー」と手を叩き嬉々とする園子。

すると、ある疑問が頭に浮かぶ。

「ねぇ、あんこさん。なんで中心がないドーナツっておすすめに書いたの?これは普通のドーナツにしか見えないよ?穴があいてるからってこと?」

「ふふふ。それはね、中心がない、と言うことが大切だからなのだよ」

「中心がないということが大切、、??」


ドーナツには最初は穴がなかったのだ。
穴がないことで中が生焼けになったり、
破裂したり、焼きムラがついたりしてね。

そこで考えられたのが、
火を通りやすくするための「穴」なのだよ。

穴を開けることで、
穴からも火が通り、見事に生焼けすることがなくなった。

穴は「先を見通す」という縁起物。

皆が穴から向こうを覗いたもんさ。

あなたの心には穴が開いているかい?

「え?、、穴、ですか、、?
穴は開いてないと思いますが、、、」

ふふふ。ではあなたの心は膨らみっぱなしなのだね。
何事もあなたの心のなかだけで膨らみ、そろそろ破裂するのでないかい?
美味しくいただくには、中心に穴が開いていなければ。

「そうなんですよ!あんこさん!
聞いてくれますか?
私は友だちがほしいんです。
でも、友だちってどこからが友だちと言えるものなの?
何をしたら友だちと言えるの?
私は人に迷惑はかけたくないし、面倒なことも嫌です。
だから、相手の様子を伺って話すんですけど、、
なんか気疲れというか、本当の友だちだったら、こんな事にはならないのかなぁとか考えちゃって。
でも、周りで仲良さそうに話してる姿とかを見るといいなぁと思うの」

では、あなたの心にも穴を開けてみては?

今あなたが思うその思いたちを通すのだよ。
通して、相手を見るのさ。
きっとあなたの周りの人たちは受け取ってくれるよ。
あなたが逆の立場ならどうかな?
今のあなたのような子が側に居たら、どうしてほしいと思うのかい?

「それは、、何を考えてるのか分からないから、
もっと自分のことを話してほしい。かな。。」

大切なことは穴が開いているということ。
溜め込みすぎないことも大切なのだよ。

さあさあ、お上がり。

園子は揚げたてのドーナツに齧り付いた。

その歪な穴から杏子を覗き、微笑む園子。

それは、甘くてやさしくて、お砂糖がジャリっとおいしい味がした。


それから、杏子はそっと園子に手渡した。

「あなたが、またここに来たいと思ったときは
この石を握り、〝月のしっぽ〟と心の中で唱えるといい。必ず、道は繋がるよ」

月の形をした黄色い石には不思議な模様も描かれていた。

「月の、しっぽ、、、?」


この続きはまた次回。

今日はこの辺で閉店のお時間です。


今日は気を遣いすぎて疲れてしまっていたと、今なら思える子ども時代の自分に向けて、
おばちゃんになった私からのメッセージを物語にしてみました。

溜め込みすぎるとどんどんネガティブ眼鏡が加速してしまう気がします。

ほどよく吐き出し、また、その思いを言葉にする力も大事だな、と今の私は思います。

なかなか難しいんですけどね。

そんな時は喫茶アンブレラで雨宿り🐌🌧️


過去の私が少しでも誰かの共感やクスクスになれると嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました🙇‍♀️


物語を書くにあたり、マカロニさんのこの動画を見ながらぷかぷか揺れるドーナツに癒されていました☺️
ドーナツ作ってみたい!!笑



喫茶アンブレラの第一話はこちら🕊️


その他の物語はこちら🕊️

自分の絵に物語をつけたりもしています。

ゆっくり不定期ですが、喫茶アンブレラはこの先も書いていきます🐌🌧️

よろしくお願いします🫧

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