SNSのつぶやきは詩の復活である! だから、いまこそ近代詩を代表する10人を読んでおこう。まずはハイネとホイットマンの解説から【『世界近代詩十人集』をちゃんと読む①】
メンバーシップ限定記事ではこれまで近代文学を中心に分析を重ねてきました。今月はSNSのつぶやきは詩の復活であると仮定した上で、いまこそ近代詩を代表する10人を読んでおこうという教養回になります。
ちなみに過去のメンバーシップ記事が溜まってきたので、各月の買い切りプランも始めてみることにしました。メンバーシップならすべての記事を読むことができるけれど、お試しとして、興味のある月だけでも是非是非。
とりあえず初回の『嫌われる勇気』の話だけでも!
☆SNSのつぶやきは詩の復活である
これまでメンバーシップ限定記事は近代以降の小説を主に見てきましたが、小説は文化史において新参者。古代〜中世は詩が中心ジャンルでした。文字を読める人が少なかったため、リズムや韻を踏んで、暗記しやすく、耳で聞いて楽しめる詩歌が主流だったのです。
例:ホメロス『イリアス』(ギリシャ)、『万葉集』(日本)
ルネサンス〜近世にかけては演劇が中心になり、大衆娯楽の時代がやってきます。都市が発展し、劇場という商業空間が生まれ、文字が読めない大衆でも、役者の動きとセリフで同時に文学を楽しんだのです。
例:シェイクスピア(イギリス)、近松門左衛門の浄瑠璃・歌舞伎(日本)
そして、19世紀から小説の時代が始まりました。印刷技術の発展で本が安くなり、学校教育の普及で文字を読める人が爆発的に増えたことが要因です。文学は「みんなで聴く・観る」ものから「一人で静かに読む」ものへと変化。さらに20世紀からは映画が登場し、21世紀にはインターネットの普及で動画やゲーム、SNSに文学の場が移りつつあるとも考えられます。再び「みんなで聴く・観る」に戻りつつあるのです。
以上の流れを踏まえたとき、いまのところ小説が文学の中心ではあるけれど、それだけを扱っていては文学理解が不十分となってしまいます。そこで今月は文学の基礎にして王道である詩について、近代でどのように発展・進化してきたかを探ります。
SNSのつぶやきが詩の復活であるとするなら、そのあり方を知ることはこれからの社会を知るヒントになり得るかもしれません。
☆参考資料は伊藤整 編『世界近代詩十人集』
今回の参考資料は伊藤整 編『世界近代詩十人集』です。

伊藤整(1905-1969)は北海道出身(小樽高商の1学年上の先輩に小林多喜二がいた)の作家。東京商科大学(後の一橋大学)卒業。自費出版の詩集で注目を集め、欧米で流行っていたモダニズム小説の手法(特にジョイス)を日本語で実践しようとしました。戦後、D・H・ロレンス著『チャタレイ夫人の恋人』の翻訳がわいせつ文書にあたるとして起訴。表現の自由をめぐる裁判(チャタレー事件)を戦い、有罪判決を受けたことで有名です。
そんな伊藤整は河出書房新社が世界文学全集(グリーン版)において、西洋の近代詩人十人の訳詞をまとめる担当者に任命されます。
一般的に詩はリズムや韻が重要なので、訳すことに無理があるとされ、訳詩をまとめることに意味があるのか疑問視されることが多いです。しかし、伊藤整は森鴎外や上田敏、堀口大学らの訳詩が明治〜大正の青年たちに与えた影響の大きさを考えると、ちゃんとまとめる必要があると考えたようです。結果、1963年、『世界近代詩十人集』という画期的な訳詩集が完成しました。
というわけで、そこに掲載されている世界近代詩十人の代表作をどんどん見ていきましょう。男性かつ西洋人しかいないあたりが20世紀の選出らしいです。

☆ハインリヒ・ハイネ
甘い叙情を歌いつつ、現実を冷徹に語る
ロマンティック・アイロニーな詩人
ハインリヒ・ハイネ(独・1797-1856)

ハイネは1797年、デュッセルドルフの裕福なユダヤ人家庭に誕生。商業を学び銀行員を目指すも、才能がなく破産。大学で法律を学びつつ、大失恋をきっかけに詩を執筆。1827年、美しくも皮肉に満ちた詩集『歌の本』が大ヒットし、一躍スター詩人となります。
ロマンティックな作風でしたが、政治批判や社会批判を共存させたことで、民族意識が高まり、保守化の進んだ当時のドイツ社会でハイネの作品も発禁処分を受けてしまいます。30代半ばでパリへ移住し、二度と祖国に帰らぬ覚悟で亡命生活を始めました。ショパンやバルザックなどの芸術家と交流しつつ、ドイツ政治を痛烈に批判し続けました。
50歳を前に脊髄の病気(一説には梅毒とも)で倒れ、全身マヒに。58歳で亡くなるまで、「布団の墓穴」と呼んだベッドの中で、失明寸前になりながらも、口述筆記で死の間際まで創作をやめなかったそうです。
日本では森鴎外が翻訳し、萩原朔太郎や佐藤春夫などの詩人が広く親しんだことに加え、芥川龍之介が猛烈に敬愛し、最も愛した詩人兼ジャーナリストとしてハイネを挙げています。
代表作『ローレライ』(別名:おのが心)
なじかは知らねど 心わびて
昔の伝説は そぞろ身にしむ
さびしく暮れゆく ラインの流れ
入り日に山々 あかく映ゆる
美わし乙女の 巌に立ちて
黄金のくしとり 髪のみだれを
ときつつ口ずさむは 歌の声の
くすしき魔力に 魂もまよう
こぎゆく舟びと 歌にあこがれ
岩根も見やらず 仰げばやがて
波間に沈むる ひとも舟も
くすしき魔歌 歌うローレライ
ハイネの最もよく知られている詩がこれ。ドイツのライン川に実在する巨岩ローレライに関する美しき魔女の歌声に魅了された船頭が、理性を失って激流に呑まれていく悲劇の伝説がモチーフ。
曲も作られドイツ国民の間で大ヒットし、日本でも近藤朔風の訳が音楽の教科書に載るなど定番化。
なお、ナチスはユダヤ人の血を引くハイネを否定したが、『ローレライ』をドイツ国民全員歌えてしまったので、この詩は作者不詳なんだと事実を歪める形で対応したと言われています。
銀座のドイツ風居酒屋ローレライの名前の由来にもなっている。
次に、ハイネの相反する特徴であるロマンチックとシニカルがよく見える詩をご紹介します。
ロマンチックな『君が瞳を見るときは』
ここから先は
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
