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今日のジャズ: 9月27-29日、2012年@NYC “Stop This Train”by Joshua Redman

“Stop This Train”
by Joshua Redman, Brad Mehldau & Brian Blade at Avatar Studio, NYC for Nonesuch Records (Walking Shadows)

以前聴いた時には、耳を素通りしてしまっていた演奏が、ふとしたきっかけで改めて耳に入り、息を吹き返したかのように蘇って愛聴曲になる事があります。その時の気分に合わなかったり、集中力を欠いていたり、自分の感受性が十分で無かったり、聴いたオーディオや環境によって左右されてピンと来ないという事が多分にあったりします。

この演奏がまさにそれです。ジャズテナーサックスの主流派として王道を歩み続けるジョシュアレッドマンによる、オーケストラを交えたバラードのスタンダード曲が主体のアルバムに含まれる一曲で、最初に聴いた時には、アルバム全般的に淡々とした大人しめのトーンのため、曲を飛ばして聴くほどの退屈さを感じて、あまり楽しむことが出来ませんでした。

それが海外出張中のホテルで、ジャズチャンネルをケーブルテレビ経由で聴いていたら、流れて来た音楽に心を惹かれて、調べてみると先のアルバムからの一曲でした。

その曲は、新三大ロックギタリストの一人とされる、ジョンメイヤーによる名曲”Stop This Train”で、ジャズ流にアレンジされた演奏は、レッドマンの奏でる物憂いたようなトーンのサックスに絶妙にマッチしています。ホテルで耳を惹いたのは、同曲の抒情的なメロディーなのだが、そのホテルがアメリカでも歴史が比較的長い、幽霊が出ることが噂されているホテルだったため、その気分を紛らわせるためにも、深夜に何回も繰り返し聴いたのが懐かしく感じます。

では、先ずメイヤーのグラミー受賞の名盤”Continuum”(2006年)収録の原曲、4分45秒の演奏をどうぞ。

帰国後に改めて、この曲のレッドマンによる演奏を自宅のオーディオで対峙してみたら、演奏はさることながら録音も素晴らしく、抒情的な楽曲にトリオが溶け込んだように共振共鳴して涙腺が刺激されるではありませんか。この演奏だけのためにアルバムを購入しても損はしないと思うほどです。因みに日本語ライナーノーツの解説には、カルテット演奏と記載されていますが、ベースレスのテナーサックス、ピアノ/鉄琴とドラムで編成された変則的なトリオ演奏です。では、その原曲とほぼ同じ長さ、4分43秒の演奏をどうぞ。

冒頭から流れる、ブライアンブレイドのドラムが、列車が線路を走るような姿を、これ以上は望めないような多彩な表現力で歌うように奏で、レッドマンが感情を抑え気味にシンプルな旋律をなぞり、そこにブラッドメルドーの高音域を主体としたピアノに荘厳な大聖堂の鐘のような鉄琴が究極美を追い求めるかのように絡んでくるものだから、たまりません。

その歌詞は、このような内容です。

No I'm not colorblind
いや、色の区別がつかない訳じゃないけれど
I know the world is black and white
世の中が白黒ハッキリしているのは分かってる
I try to keep an open mind
何でも受け入れるように心掛けているんだ
But I just can't sleep on this tonight
でも、これは耐え難くて今夜は眠れない
Stop this train
この列車を止めてくれ
I want to get off and go home again
降りて、また家に帰りたいんだ
I can't take the speed it's moving in
迫り来る時の速さについていけない
I know I can't
出来ないことは分かってる
But honestly, won't someone stop this train?
でも本当に、誰かこの列車を止められないの?

Don't know how else to say it I don't want to see my parents go
どう言ったら良いか分からないけど、両親を失いたくないんだ
One generation's length away
それは世代ひとつ先のこと
From fighting life out on my own
自力で生活できるようになってから
Stop this train
この列車を止めてくれ
I want to get off and go home again
降りて、また家に帰りたいんだ
I can't take the speed it's moving in
迫り来る時の速さについていけない
I know I can't
出来ないことは分かってる
But honestly, won't someone stop this train?
でも本当に、誰かこの列車を止められないの?

So scared of getting older
老いることにやけに怯えてる
I'm only good at being young
若いことだけが取り柄だから
So I play the numbers game
それで、数字遊びをして
To find a way to say that
言う術を探してる
Life has just begun
人生はちょうど始まったばかりだって

Had a talk with my old man
親父と話したんだ
Said, "Help me understand"
教えてくれと
He said, "Turn 68"
親父は言った「68歳になって
"You’ll renegotiate
また定めに逆らってみれば
Don't stop this train
この列車を止めてはいけないよ
Don't for a minute change the place you're in
お前がいるこの場所も一瞬たりとも変えてはいけないんだ
And don't think I couldn't ever understand
それから、俺が理解出来ていないだなんて思わないでくれ
I tried my hand
俺もこの手でやってみたんだ
John, honestly
ジョン、本当のことさ
We'll never stop this train.”
この列車は誰にも、絶対に止められないんだ」

Once in a while
たまにね
When it’s good
うまく行っている時は
It'll feel like it should
そうあるべきだと感じてた
And they're all still around
そして、両親はまだ側に居て
And you're still safe and sound
さらに、あなた方は無事で元気で
And you don't miss a thing
そのうえ、何ひとつ失っていない
Till you cry when you're drivin' away in the dark
あなた方が暗闇で消え去る際に泣き出すまでは

Singing
歌うんだ
Stop this train
この列車を止めてくれ
I wanna get off
降りたいんだ
And go home again
そしてまた家に帰りたい

I can't take the speed it's moving in
迫り来る時の速さについていけない
I know I can't
出来ないことは分かってる
Cause now I see
今だと分かるから
I'll never stop this train
僕は絶対にこの列車を止めようとはしない

Nabe翻訳

如何でしょうか。重みのある歌詞ですよね。それを原曲はある意味、敢えて割り切って淡白に演奏を進行していくことによって抗えない宿命を演出しているのが肝かと思います。そして、ドラムによる一定に保たれたリズムが非情にも止められない列車の走り続ける雰囲気を醸し出しています。そのドラマーは現ロック界でも指折りの実力者、目下ローリングストーンズのツアーに参加しているスティーブジョーダンです。

サタデーナイトライブといった著名テレビ番組のバンドメンバーとしても登場して
一般的な知名度も高いスティーブジョーダン

このバージョンをジャズで感傷に浸った演奏にするとレッドマンのバージョンになりますでしょうか。感情を抑えるようなトーンで自分に言い聞かせるかの如く、呟くように紡いでいくレッドマンの旋律が無性に心に響きます。2:50位からの高音域を活かしたメルドーの奏でるピアノに加えた鉄琴とその残響を交えた旋律の美しさに、ブレイドのシンバルワークが重なり合ってレッドマンと昇天するかの如き展開が、耐え難い定めを受容するに至るカタルシスの転換点を表現しているかのようです。ピアノで始まり、鉄琴が加わり、その転換点から鉄琴にシフトして終焉するという演出も秀逸ですし、列車のリズムとビートの表現をドラムに集中させて干渉しないように、敢えて本演奏ではベースを外した、という判断も、あっぱれ、お見事です。

レッドマンの父はテナーサックスの巨人、デューイレッドマンであり、この歌詞、この曲を、希薄と言われていた関係にあって2006年9月2日に逝去した父親に思いを馳せる自分に重ねるようにしてレッドマンは演奏していると想像します。この曲を提案したのは、本作のプロデューサーでもあり、本演奏でも独特の雰囲気を演出しているメルドーだそうです。曰く、「叙情的な表現に長けたレッドマンには、このビートルズのような楽曲がマッチする」との読みがあったそう。その文脈を把握した上で、もう一回レッドマンの旋律を、先の歌詞をなぞりながら聴いてみると、特徴のあるこぶしを交えたアドリブも含めて新たな味わい方が出来るかと思います。

ジュシュアとデューイのレッドマン親子
シアトルのホテルでWall Street Journalを読んでいるジョシュアを見かけたことがある

ぜひ大音量でこの演奏を体で浴びてみてください。小音量では聴き得る事が難しい秘境の領域が堪能出来る筈です。そしてこの作品が、類稀なジャズによる秀でたロック曲のカバー演奏のひとつだと実感出来るかと思います。因みに録音は同年二月に本作と同じNYCのAvatar Studioで収録したパットメセニーによる”Unity Band”の作品でグラミー賞を獲得している名エンジニア、James Farberによるもので、静と動のメリハリを効かせたSN比と解像度の高い原音に忠実な録音が白眉です。

心に響きましたでしょうか。大音量で聴いても届かない、という方は、現時点で最高のドラマーの一人、ブレイドのドラムに終始耳を傾けてみてください。ブラシとハイハットとシンバル類が汽車の、バスドラムが線路のゴトゴト音を表したかのようなブレイド号に身を委ねてみると、聴こえる世界が変わるかもしれません。

録音当時の頃のブライアンブレイド御大

さて、話を膨らませて、曲名の単語“Train”にまつわる楽曲を取り上げてみます。先ずはジャズのスタンダード曲、“Take the “A” Train”です。エリントンとベイシーの両楽団による唯一の共演作はこちらからどうぞ。電車に乗ってジャズのメッカ、ニューヨークのハーレムに向かう高揚感が表現されています。

同曲のソロピアノバージョン、左手の低音による列車の疾走感が印象的なペトルチアーニの力強い演奏は、こちらをどうぞ。超絶メドレーがひと段落した直後のフィナーレ、35:35頃から始まります。

オスカーピーターソンによる名盤もあります。こちらは”Night Train”の曲名通り、ゆったり、しっぽりと優雅に、ピーターソンの故郷、カナダの大草原を列車が進んで行くイメージです。

コルトレーンの名曲”Blue Train”。こちらは機関車が力強く駆け抜けていく感じです。同アルバムには”Locomotion”という機関車にゆかりのある名前のオリジナル曲もあります。

そして、知名度の高いパットメセニーグループの名曲”Last Train Home”は、アムトラックをイメージさせる列車が疾駆する雰囲気を、線路の反響音も含めてドラムが演出している名曲です。

これまでの曲の共通項にお気付きでしょうか。そう、列車に乗っている作風なのです。それに対しての個人的な一推しは、鬼才ギタリストのビルフリゼールが、ロックドラムの巨人、ジムケルトナーを交えたトリオで共演した怪作、“Gone, Just Like a Train”からのタイトル曲です。こちらもやはり、列車の表現と相性の良いドラムがアクセントですが、列車が近付いて、通り過ぎて、去って行く姿を定点観測しているような作風です。列車がまるで嵐が来るかのように、あっという間に来ては去っていく様をフリゼール節をふんだんに駆使したギターで表現しているのが聴き所です。

列車に乗りたくなりましたか。乗っている方は降りて誰かに会いたくなりましたか。では、笑顔溢れる素敵な一日をお過ごしください。

最後に、メルドーに興味を持たれた方は、こちらもどうぞ。

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