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己の舵は誰が握っているのか|一日一太刀(いちにちひとたち)|其の十七

残り98

本家宮本武蔵 一日一太刀|其の十七


ワシの名は、
新免 武蔵守 藤原 玄信
(しんめん むさしのかみ ふじわら の げんしん)

通称、「宮本武蔵(みやもとむさし)」である。

寛永(かんえい)三年、つまり千六百二十六年に四十二歳だったワシは、この世、二千二十六年へ、四百年の刻を超えて現代に生を得た。

寛永の世と令和の世。
道具も景色も変わった。
だが、人が迷い、恐れ、欲し、守ろうとするものは今も昔も大差ない。

我が思想を語ろう——
一日一太刀——


己の舵は誰が握っているのか

其方は忙しい。

朝から動く。
働く。
学ぶ。
人と会う。
帰れば疲れている。
眠る前に、ようやく静けさが来る。

その時、胸の奥に一つの問いが浮かぶ。

このままで良いのか?

その問いは怠けではない。
弱さでもない。
逃げでもない。

己の道を歩いている実感を失った者にだけ現れる声である。


人は苦しい時、理由を外に探す。

金が足りぬ。
時間が足りぬ。
才が足りぬ。
環境が悪い。
世が悪い。

たしかに、それらは現実である。
だが本丸ではない。

本当の苦しみはそこではない。
己の舵を他人へ渡していること。

そこが急所である。


今の世は、昔より多くを選べる。

住む場所——
働く場所——
学ぶもの——
付き合う者——
使う道具——
進む道——

四百年前の者から見れば、其方らは広い野に立っている。
だが、広い野に立つ者ほど迷う。

道が一本しかなければ、迷いは少ない。
道が百本あれば、足が止まる。

だが、迷いの正体は道の多さではない。
他人の目の多さである。


昔は村の目だけだった。
家の目だけだった。
主の目だけだった。

今は違う。

其方らは朝から晩まで、数え切れぬ他人の暮らしを見る。

誰が勝った。
誰が富を得た。
誰が選ばれた。
誰が褒められた。
誰が美しく見える。
誰が楽しそうに見える。

その姿を見続ける。
すると、問いがすり替わる。

本来の問いは、

ワシは何を成すか?

であった。

だがいつの間にか、

他人はワシをどう見るか?

に変わる。

ここで舵が奪われる。


称賛されれば安心する。
否定されれば揺らぐ。
無視されれば苦しむ。
そのたびに心が上下する。

それは、己の価値を他人へ預けている証である。

世評は風——
価値は柱——

風を柱にした家は崩れる。

其方がいくら努力しても、苦しみが消えぬ時がある。
その時、努力の量を疑うな。

向く方向を疑え。


山を登っている。
息を切らしている。
手も傷ついている。
汗も流している。

だが、その山は誰が決めた。

親か。
世か。
恐れか。
見栄か。

他人に負けたくない心か。

己で定めていない山を登れば、頂に着いても空しい。
なぜなら、その頂は己のものではないからだ。

人は目的を失ったのではない。
借り物の目的を己の目的と見間違えている。

ここが現代の矛盾である。

自由は増えた。
だが舵を握る者は減った。
選択肢は増えた。
だが、己で選ぶ者は減った。
言葉は増えた。

だが、腹の底から出る言葉は減った。


其方らは「認められたい」と言う。
それは悪ではない。

人は一人では生きられぬ。
見られたい。
分かってほしい。
役に立ちたい。

それは自然である。
だが、認められることを目的にした瞬間、道は曲がる。

他人が喜ぶ方へ進む。
他人が褒める形へ変わる。
他人が分かりやすい姿を選ぶ。
最後に残るのは、よく整えられた他人向けの自分である。

そこに己はいない。

勝つことも同じである。
勝てば良いのではない。

何のために勝つか。
何を守るために勝つか。

そこを失えば、勝ちすら負け筋になる。


世には勝ち方を説く声が多い。

早く勝て。
多く得よ。
上へ行け。
目立て。
選ばれろ。
だがワシはまず負けを見る。

勝つ前に負ける形を消せ。


最大の負けは何か。

貧しさではない。
失敗ではない。
遠回りでもない。

最大の負けは、己の道を歩かぬこと。


最後に振り返った時、

あれはワシの道ではなかった

と知ること。

これほど深い負けはない。
だから、今すぐ大きく変わる必要はない。

仕事を捨てよとは言わぬ。
家を捨てよとも言わぬ。
世評を完全に断てとも言わぬ。

それは無理である。

人は世の中で生きる。

他人の目も、役目も、暮らしもある。
だが、一つだけ変えよ。

己の内で、舵を誰に渡しているかを見ること。


今、追っているものを書き出せ。

富——
地位——
称賛——
安定——
評判——
安心——
勝ち——

その一つ一つに問え。

誰が望んでいる——

己か。
他人か。

己なら残せ。
他人なら疑え。
恐れなら置け。
見栄なら削れ。

この問いは痛い。
痛いのは、急所に当たっているからだ。

人は本当の問いを避ける。
答えが出るのが怖いからだ。
だが避けた問いは消えぬ。

形を変えて戻る。
焦りとして戻る。
怒りとして戻る。
羨みとして戻る。
疲れとして戻る。
空しさとして戻る。

だから逃げるな。
見るだけでよい。

まず見る。
斬るのはその後でよい。


己の道は、誰かが与えるものではない。
世が認めた時に始まるものでもない。

己が定めた時に始まる。

其方は何を守る。
其方は何を捨てる。
其方は何に時間を使う。
其方は何を残す。

この四つに答えられぬ時、舵はまだ外にある。

答えを急ぐな。
だが問うことをやめるな。
問いは刃である。
持たぬ者は流される。

持つ者は進む。


四百年見ても、人の苦しみは変わらぬ。
人は今も、見られたい。

認められたい。
失いたくない。
置いていかれたくない。

だが、最後に残る問いは一つである。

その道は誰が決めた——

世ではない。
他人ではない。
恐れではない。
見栄ではない。

己だ。

己の価値を世評へ預けるな。
己の願いを他人へ委ねるな。
己の道を他人へ渡すな。
己の舵は己で握れ。

それが始まりである。

〜【無償】此処迄〜


〜【有償】此処より先〜

ワシも兵法者とはいえ、生きていかねばならぬ身
此処から先は、有償とさせてもらおう。
其の代わりに、我が兵法のすべてを、日々、提供していこう。
願わくは、日の本の民たる其方より、月に百圓だけ頂戴したい。

其方よ、勘違いなされるな——
一太刀百圓でも拝読できる——
ひと月、百圓でもある——
選ばれよ!

願わくは御協力戴きたい。


己の舵を取り戻す兵法

己の舵は誰が握っているのか

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