家出PART5
様変わりした工場跡地。
ガラス張りの無機質な高層ビルと取って付けたように綺麗な緑地。警備員に会釈をしてから床の木目を追い掛ける。目を瞑ると、ヘルメットを頭に載せて黒く汚れたエプロン姿で働く男達の息遣いが聞こえる。もう何もないのだな。
大理石のベンチに腰を下ろし、雲一つなく高さばかりが目立つ空を見上げる。石を伝って衣服越しに体温が逃げていく。指先の感覚も薄れる。今はまだ暖かいが、長くは居られないだろう。白々しい街灯が凍えるように辺りを照らす。
暗闇を見つめていると、緑地を周回するジョギングの影が目に入った。走り込むには丁度いい広さなのだろう。乾いた空気に足音が響き、人影が近づいてくる。白いキャップ、黒いジャージ。そのショートヘアに、見覚えがあった。
視線を向けられる。記憶の底を探るような瞳。まだ住んでいたらしい。十年以上経つ。この暗さだ、気付かないだろうし、気付かなくていい。
ばつが悪そうに何も知らない顔でベンチを離れ、夜の中に向かう。止まっていると寒い。上がらない靴底。君は止まらずそのまま走り続けるといい。
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きっといいことありますよ