黒い砂
卒業式が流れるように終わった。寂しさも解放感も無く、感慨が形にならないまま胸の奥に沈んだ。
仄暗い洞穴のような校舎を抜けると、体育館や廊下のざわめきが嘘になった。春先の空気は冷たく、軽い。その自由は頼り甲斐がなく思えた。
誰かが笑っている。曖昧さを持て余した一団が、近所の公園に向かう。気付けば流されて、その中にいた。
ブランコの柵に腰を下ろすと、鉄の温い感触が制服越しに伝わる。靴で砂を蹴る音と会話が混じる。学校、近い遠い、電車。途切れ、途切れ。この時間が終わってしまうのか、言葉が止まりそうになると、不自然に話が繋がる。
日が陰ってきた。黄色い公園。やわらかく光る砂。風に揺れた黒髪が光を含んで淡い琥珀になって、横顔が夕陽に照らされている。
名前を呼ばれて、下から覗き込まれる。ビー玉の目は夕陽を受けて奥がよく見えない。小さく笑う鮮やかな声がステンドグラス越しに光に溶けて、やわらかく耳に落ちる。すこし、整い過ぎた声。
「じゃあね」
また一瞬、目が合う。彼女は小さく手を振った。足音が黒い砂に吸われて、遠くなっていく。その仕草が焼き付くみたいに残る。やっと、すこし手が上がった。
いいなと思ったら応援しよう!
きっといいことありますよ