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2.友達は彼方【片道5時間日帰り温泉】2/13

※連載作品です 前話はこちら




ぶっころ君と再会したのは、高校を卒業してからだった。

私が22歳か、23歳くらいの頃だったと思う。


その間、私は一度も連絡を取り合っていなかったけれど、共通の友達のフグタ君を介して、機会は訪れた。


その日はフグタ君の家に集合して、格ゲー大会をしていた。

私の操作するアイヌの女の子は、実力ではフグタ君の操る筋肉ムキムキロシア人より強かった。
間違いない。

なのに、筋肉の必殺技は強力で、すぐ体力が同じくらいにまで戻されて、イライラしてた。


休憩中、ソファで寝転んでいると、フグタ君の電話が鳴った。


フグタ君が言う。

『今からぶっころ来てもいい?』


ぶっころ?

高校1年の時に転校した、あのぶっころ君?


断る理由がなかったので、

「いいよー。」

とやる気のない返事をした。



それから1時間くらい、炎を操る学ランのキャラでコンボ練習してると、

『ぶっころ来たよー、外いこー。』

とフグタ君が言った。


庭に出た。

そこには身長180センチを超えの、革ジャンとレザーブーツの男がいた。

アメリカンなバイクに跨って、タバコをふかしている。

そしてバイクなのにショルダーバッグ。

何なんだコイツは。
去り際に5人はころせそうになってた。


『おっすー。』

あいさつ普通かよ。


30分くらいだべってると、ぶっころ君は用事があるから帰るって言い出した。

何しに来たの?

私たちは連絡先を交換した。




同じ年の、数ヶ月後。

ぶっころ君から電話が来た。


私は電話に出る。

「もしもし?」

『おっすー。』

「おう。どうしたの?」

『今日ってさ、ヒマ?』

「ヒマだけど、どしたの?」

『遊びに行ってもいい?』


あまりに唐突だった。


「いいけど、急だな。フグタは?」

『あいつ電話でねぇんだよ。』

理由それだけ?
もっと理由に努力させろ。

「そうなんだ、まぁ俺は構わないけど。
今どこ?」

『仙台。』



仙台!?

高速道路を使ってもここから5時間はかかるぞ!?


「えっ、何?ふざけてる?」

『ふざけてねーよ、今から遊びに行くんだよ。』

「あ、そう。で、何しに来んの?」

『暇だからお前と遊ぼうと思って。』


何なの?

フグタ君と連絡とれないから、5時間かけて俺と遊びにくるの?

フグタ君の家、俺の家から20分しか離れてねーけど。

あ、だから俺なのか。

まぁ、ぶっころの方がこっちに来る分には何も困る事はない。

「じゃあ、夕方な。」

と言って、電話を切った。



その日の夕方、バイクに乗ったぶっころが現れた。

半袖のシャツで、全身は濡れている。

そしてあからさまに顔色が悪い。
大丈夫かこいつ?


『近くに温泉ない?』

道中、雨に打たれたらしい。

「上着どうしたんだよ?」

『濡れるから脱いだ。』

おかしいだろ。



私はこれまでのやり取りで何となく気づいてたんだけど、確信した。


「ぶっころ君さぁ、すげーな。」

『そうか?』

「普通さ、人間はそんな事しないんだよ。」

『こんなもんじゃね?』

全然こんなもんじゃねーよ。
何言ってんだこいつ。

どこの世界に濡れた半袖で夕方の高速道路を飛ばしてくる奴がいるんだ。


私たちは、二人で温泉に行った。

服を脱ぐと彼は鍛えられた筋肉を備えていて、

(いくつキャラ付けすれば気が済むんだコイツは。)

と思った。



温泉からあがったぶっころは、フグタ君の家に行った。
俺と温泉入る為に来たんかコイツ?

私は翌日仕事だったので、その日はそれでお別れだった。




それからぶっころと再会するまでは、結構時間が空いてたと思う。

多分、私が25歳か26歳くらいの頃のはずだ。


ある日、何の前触れもなく、ぶっころから電話が来た。

電話で話を聞いていると、県外での仕事に見切りをつけて、地元に帰ってくるらしい。


「こっち戻ってきて何すんの?」


『自衛隊だな。』

お前みたいな自由人、自衛隊なんて一番向いてない説さえあるぞ、と思った。
大丈夫なのか?

そんな事を考えてると、ぶっころは言った。


『本当に申し訳ねぇんだけどさ、駅まで迎えに来てくれない?』

「まぁ、それはいいけど、電車なの?
バイクどうした?」

『自衛隊に入ると乗れなくなるから、売った。』


何で帰ってきてから売らねーんだよ。

やると決めてから行動が早すぎるだろ。
移動手段を失ってんじゃねーか。


「まぁ、別にいいけど。」



私は駅でぶっころを待った。

少しすると、ぶっころが改札を通ってやってくる。

レザーのショルダーバッグを肩に下げて、クソデカいボストンバッグを持ってた。

おそらくこれが、コイツの全財産なのだろう。
クロネコヤマトとかご存知ないの?


『おっすー。』

「よぉ、久しぶり。」


軽く挨拶をして、私はぶっころを助手席に乗せた。

すると、ぶっころはとんでもない事を言い出した。


『どっか泊まれるホテル知らない?』   


お前、本当に何のつもりなんだよ。

いきなり電話してきて、自衛隊になるから実家に帰ると言う。

バイクはもう手放してる。

引越しの為の手荷物を山ほど持ってきてる。

宿がない。



「……もうウチ泊まっていけよ。」

『いいのか?』

「いいも何も、何だその荷物。
電車とかキツすぎるだろ。」

『スマン。助かる。』

「いいよ。」


おもしれー奴。

あまりに自由奔放で、私は羨ましくなった。



次の日、車で2.5時間くらいかけて、私はぶっころを実家に送ってやった。




妻と子どもが実家に帰っていく時、私は39歳になっていた。

年齢が一つ増えても、まだ私の心は回復には程遠い状態だった。


その頃は、産後の妻のサポートの為、妻方の母が応援にきてくれていた。


支えを受ける事ができるようになった妻は、感情の乱れが随分と穏やかになっていたと思う。


私と言えば、その戦力に甘え、すっかりやる気を失っていた。

妻の母親がいるというのに、ずっと心ここにあらず。


少し居間で過ごしたかと思えば、0歳の次女を抱く事もせず、すぐに寝室に引っ込んで、布団をかぶって眠ろうとしていた。


私は、その頃の記憶が少ししか残っていない。


適応障害の診断書が出た私には、メイラックス錠という薬が処方されていた。

毎日眠たくてたまらなかったんだ。


薬の副作用なのか。

それとも私の防御反応なのか。

ともかく私はあの頃の事が、今でも全然思い出せなかった。


そんな私を、誰も待ってなどいられなかった。

子どもは成長していき、世界は前に進んでいった。



引越しの準備を整えた妻が、私に尋ねる。

『一人で大丈夫?』


私は答える。

「わかんない。
でも、一人の方が楽だと思う。
ちゃんと寝て、食べて暮らすから。
ママは子ども達の事だけ考えて。」

たぶんそんな感じの事を言ったような気がする。

2歳の娘とは、どんな事を話したのだろう?
何も思い出せない。

もう、誰とも話したくなかった。

何にも向き合いたくなかった。

母も、姉も、妹も、みんないらない。

妻からも、子ども達からも、早く離れたい。


一秒でも早く、一人になりたかった事は覚えてる。


『冷蔵庫におかずたくさん作っておいたから、食べてね。』

妻はそう言うと、妻の母が運転する車に乗り、この家を去っていった。


そのあたりからの記憶が、割と鮮明に思い出せる。

私は、玄関に立ち尽くしていた。


何分かして、

(あ、玄関に鍵かけなきゃ。)

と思って、鍵をかけた。


廊下に戻ってみる。

家の中は、シーンと静まり返っていた。

誰もいない。
私は一人だった。




「2歳ちゃん。」


「0才ちゃん。」


「ママ。」


半年間、この広い家で、私は一人なんだ。



「2歳ちゃん!!」



寝室へ行って、みんながいない事を確認した。

その後、居間に戻って、みんながいない事を確認した。

そして玄関へ行き、鍵をあけ、外に出た。

誰もいなかった。
私はようやく一人になれたんだ。



そして私は玄関に戻り、靴を脱いで、廊下に入った。


「2歳ちゃん!?」


返事はなかった。

私は、とても言葉に書き起こせないような声を出して、その場にしゃがみこんだ。




どのくらいの時間、廊下でしゃがみ込んでたのか、測ったわけではないので分からないけど、大した長さではなかったと思う。


私は高校時代に読んでたマンガの、あるシーンを思い出していた。

兵器になってしまった同級生の彼女が軍に連れて行かれ、一人になった主人公が、その彼女の洋服とかをかき集め、その中で寝てるシーン。


私は居間に戻って、同じ事をやってみようと思った。



まだ部屋には、ハンガーや物干しに子ども達の服が残ってた。

半年後に戻ってくる前提で支度をした妻は、必要なものしか持たなかった。

荷物の大部分がそのまま残されていたので、私は子どもたちの洋服を部屋の真ん中に集めて、その中で横になってみた。



子ども達を抱きしめた時の、柔軟剤の匂いがする。

敏感な子どもの肌を守るために、大人と子どもの柔軟剤を分けて使っていた。


そして私は、声も出さずに、そのままはらはらと泣いた。

涙は子ども達の服に染み込んでいった。


そんな時間を5分〜10分くらい過ごすうちに、ある思考が巡った。



なんだこの絵ヅラは。

あのシーンは主人公だから許されるのだ。

妻と子が出て行った後に残された、39歳の成人男性が同じ事をしてる事が、急に恥ずかしくなってきた。


みるみる冷静さを取り戻した私は、起きた。

もうやめよう。

これで家族が元通りになるわけじゃないし、私が元気になるとも思えない。

私は普通に、やるべき事をやろうと思った。


YouTubeでアニメを見ながら洗濯物を畳む。

涙で汚れたお洋服は、洗濯カゴに入れた。
余計な事をしたから仕事が増えた。


洗濯物を済ませた後、冷蔵庫を開けて、妻が作り置きしていってくれたご飯を食べた。

そしてシャワーを浴びて、寝る事にした。 


その日の夜、いつもみんなで寝てる、シングルベッドを二つくっつけたうちの、左側のベッドに潜り込んだ。

こんなに広いのに、それでも私はいつもと変わらない場所で、いつもの姿勢で眠りに落ちた。 



3/13へ続く

まとめはこちら

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