3.友達は彼方【1回しか生きなかった男】3/13
※連載作品です 前話はこちら
※第一話はこちら
ぶっころを実家に乗せていく道中は、愉快だった。
あと、ぶっころは思ったよりバカじゃなかった。
経験豊かで、ユーモアがあり、私が知らない事をたくさん知ってた。
そして思慮深く、さまざまな事を丁寧に考える男だった。
私はぶっころの実家にいく道中、最初のあたり、ぶっころに釘を刺した。
「悪いけど、俺、結構無口だからな。
車の中、シーンとなる事が多いと思うけど、気にすんなよ。
機嫌悪いとかじゃねーから。」
そういうと、ぶっころは言った。
『俺もだよ。
むしろ、そう言ってくれて助かる。
気が楽になるわ。』
お前みたいな愉快な奴の、どこが無口なんだ。
道中でぶっころは、転校してからの日々を教えてくれた。
引っ越してから間も無く、親の都合で友達と無理やり離れ離れにさせられた事をきっかけに、父親と反発したようだった。
そして一人暮らしを始めるも、自分だけで生活を成立させられるはずもなく、親の支援を受けて暮らした。
そんな生活の中で、今度はクラスメイトと馴染めなかった。
結果として、引きこもりになったらしい。
どれほど苦しかったのか、私は良く分からなかったけど、私は、
(ぶっころはぶっころなりに苦しかったんだろうな。)
と思った。
「レジェンド覚えてるか?」
私は聞いてみた。
ぶっころは、
『ああ、あのゲームボーイのな!』
と愉快そうに答えた。
続けて聞く。
「クリアできた?」
『無理だった。』
私は笑って、
「だろうな。」
って言った。
それから私もまた、お前がいなくなってちょっと寂しかったとか、卒業してから友達がバラバラになって寂しかったとか、そんな話をした。
あと、20歳から付き合ってた彼女が、既婚者のクソ野郎に奪われて、めっちゃ悔しかった話とかをした。
ぶっころは言った。
『それはお前が悪い。』
は?
『お前がちゃんとしなかったから、その女は他の男に騙されたんだろ。』
図星すぎて、何も言い返せなかった。
私が無言でいると、
『スマン。』
と言った。
じゃあ何で言ったの?
と思ったけど、
「いいよ、実際、そうだし。」
と私は答えた。
ぶっころは、正直で、男らしくて、でも不器用で、ちょっと変だった。
あと、読書が好きらしかった。
何なんだオマエ。
その風体で読書なんかすんな。
ジムに行け。
ぶっころは私に図書館戦争を読む事をオススメしてきた。
自分はヴァルキリープロファイルやらなかったくせに。
ぶっころの実家はそんなに大きくはなかったけど、品のある二階建ての家だった。
お父さんは銀行マンらしかったので、なるほど、めちゃくちゃなコイツの奥に見え隠れする、豊かさ、立ち振る舞いは、ここがルーツなんだろうな、などと思った。
「じゃあ俺、帰るわ。」
私がそう言うと、
『泊まっていけよ、親父に喋ってくる。』
と言って、私を引き留めた。
ご両親に挨拶をし、私は彼の家に足を踏み入れる。
私の格好、大丈夫なのか?
汚くない?
いかにも貧しい田舎育ちって感じしない?
私はそんな引け目を感じながら、招かれるままにダイニングのソファに座った。
上を見上げると吹き抜けになってる。
モデルハウスか?
そしてぶっころはトイレにいった。
何で一人にするんだよ。
テーブルを挟んで向かい側に、彼の父親が腰をかける。
『わざわざ息子を送って頂いて、ありがとうございます。』
律儀かよ。
気まずいわ。
ちゃんとした人なんだな。
早くも帰りたくなった。
少し離れた所で、ぶっころの母親も言う。
『本当に、こんな格好で電車で来ようとしてたなんて、迷惑かけてすみません。』
親めっちゃまともやん。
あいつ本当にこの家の子?
トイレを済ませたぶっころが戻ってきて、私の隣に腰掛ける。
そしてぶっころは言った。
『何か飲むか?』
そう言うので、
「いや、お構いなく。」
私は若干ビビって、そう答えた。
さっきまではコイツと一緒に田んぼで泥でも投げ合ってたような気分だったのに。
なんか急に、
『じゃあフレンチでも行こうか。』
って言われた気分になった。
そんな私に気付いてんだか、気付いてないんだか、ぶっころは、
『親父、酒もらっていい?』
といって、でっかいテレビの下にあるテレビボードーから、ウイスキーを持ってきた。
そこにウイスキー入ってるんだ?
っていうか親の酒かよ。
しかも高そう。
もうコイツと友達になるのやめよっかなって思った。
『どうやって飲む?』
知らねーよ。
飲み方とかあんのか?
飲んだ事ねーよ。
「…ああ…よくわかんないからオススメで。」
オーセンティックバーか?
何だオススメって。
そしてコイツはバーテンダーか?
するとぶっころは、おそらくシングルモルトの12年は超えているであろう感じのスコッチっぽい、何らかのウイスキーを、ストレートでグラスに注いだ。
飲み方はと聞いてきたのに何もしてねぇ。
これ原液だ。
今でこそ私はウイスキーに詳しくなっているが、当時の私は田舎の畑のジャガイモがようやく肉じゃがになれた程度の人間だったので、この家に来てから一挙一動全部にツッコミ所しかなかった。
分からないけど、飲んでみる。
喉の奥に、カァーっとした熱を感じると共に、くぐもった煙のような味わいと、多少の甘さ、そして、飲み込んだ後に喉の奥から、ふわりと漂ってくる柑橘のような息が抜けていき、
「これ、何?」
と聞いた。
ぶっころは、
『××××だな。』
と言った。
お酒をご馳走になった後、二階にあるぶっころの部屋に行った。
部屋はがらんとしてて何も無かったが、隅に一冊だけ、絵本が置いてあった。
【100万回生きたねこ】
もうほんっとうに、何なんだろう、コイツは。
知れば知る程、面白くて仕方がなかった。
私にないものをたくさん持っていた。
私はみるみる彼に憧れていった。
こんな男の隣に並び歩きたいと思った。
その後、私はすぐにウイスキーを飲むようになった。
だけどこの時に飲んだウイスキーが何であったのか、どう頑張っても思い出す事が出来なかった。
4/13へ続く
まとめはこちら
