8.私の日記【紫陽花は罰を求めない】
桜は徐々に散り、春も中旬へと向かい始め、私の庭先にはつくしが増えた。
やがてスギナをはじめとした草がここを埋め尽くし、私を悩ませるのだろう。
この庭は、一人の人間の目が届く限界を超えている。
私は毎年、大きな水槽で除草剤を攪拌し、ジョウロで雑草を殺すんだ。
そろそろ、その支度もはじめていかないと。
確か去年の、夏前のころだったと思う。
私が除草剤を撒いている姿を見た娘が、
『お花さんにお水あげてるの?』
と尋ねてきた。
私は少し迷った。
けれど嘘をつくような事ではないと思って、
『これは除草剤を撒いているんだよ。』
と教えた。
続けて娘は、
『なにそれ?』
と言う。
私はなるべく穏やかに、
『これは、お薬を撒いてるんだよ。
お庭に生えている邪魔な草を、枯れさせるお薬なんだよ。』
と教えた。
『かわいそうだよ!』
『お花さん枯れちゃうの?』
『もうパパの事、絶対許さないんだから!』
と駆けていってしまった。
やっぱりこうなったか。
私は何とも複雑な気分になり、ジョウロを地面に置く。
そして、歩いて娘を追いかけた。
娘は、少しずつ勢力を増してきた紫陽花の前にしゃがみ込み、少しむくれている様子だった。
そんな後ろ姿に、言い訳の言葉が口をつく。
『ごめんね。
パパ、綺麗なお庭で、みんなに遊んで欲しいと思ったんだよ。』
娘は、
『いいのよ。次からは気をつけてね。』
と優しく言いながら、紫陽花をへし折って、
『ほら!枯れちゃう前に、取ってあげたよ!』
と笑った。
私は、
『綺麗だよねー。』
と微笑みかえしたんだ。
私の娘はいつだって優しいし、草と、花と、木の区別なんてまるでついていなくて、私はそれがとても愛しくて、後ろから抱きしめようと思った。
でも、両手が除草剤で汚れていたから、まずはこの作業を全部終わらせて、それから手を洗って、改めてこの子を抱きしめようと思ったんだ。
