3.何でもない日記【ヤマザクラはただそこにいる】
農作業をしている人たちを横目に、海に向かって車を走らせた。
前から当たりをつけていた、釣りが出来そうな磯場を目指して。
車のオーディオとiPhoneを接続し、音楽を流して、ナビをかける。
時々、ナビの音声案内が、
『まもなく、右方向です』
とアナウンスを流す。
歌が遮られ、私は、今いい所なのに、と内心でナビに毒づく。
静かに暮らしていたい。
家庭も、仕事も、全部知らないふりして、何日も山を歩き回ったり、魚を釣ったりしていたい。
でも、誰もいない事にも強くないから、社会の中にいるんだ。
対向車がやってきたらとてもすれ違えないような、狭い道をゆっくり走る。
よくもまぁこんな道を選ばせたなと、また不満を抱く。
自分の記憶と経験だけで走れないから、地図に頼ってるのに。
道の途中、一本だけ桜の木が立っていた。
開ききっていない花は、それでも人の目を引くだろう。
何かによりかかりながら、よりかかるものには憤る。
一人で生きていけない事を嫌と言うほど実感してるから、誰かが作ってくれた、すれ違えない道を、私は進んだんだ。
