1.hiyori童話【ハクサンチドリとタンポポの綿毛】
また会おうね。
ヒメジョオンさんとお別れをしたタンポポの綿毛は、ふわりと舞って、飛んでいく。
いろんな人の側で咲いたよ。
優しいヒメジョオンさん。
楽しいシロツメクサさん。
恥ずかしがり屋のヒメフウロさん。
あとは誰だっけ。
花が終わって綿毛を飛ばせば、新しい僕になれるんだ。
そして一緒にいた人の事、みんな覚えてる。
旅をしながら、たくさん出会うんだ。
あの湿原に咲いてた、綺麗な君。
綺麗な君?
そうそう、ヒメフウロさんは、恥ずかしがり屋だったんだ。
ちゃんと覚えてたよ。
もう夏が来たっていうのに、春みたいに強い風が吹いたんだ。
こんなに高くて、とてもこわい。
背の高いヒメジョオンさんよりもっと高い。
早く地面に降りたいな。
こんにちは、やっとお話ができるね。
僕に話しかけてきたのは、紫色の、しゃんと立った、綺麗な人。
僕の身体はいつの間にか、葉っぱが生えて、茎が伸びて、黄色い花が咲いてた。
そっか、僕は種から大きくなって、やっとおしゃべりできるようになったんだ。
始めまして。
僕はタンポポです。
あなたは誰ですか?
私はハクサンチドリです。
ハクサンチドリさん。
綺麗な人。
なんだか寂しそう。
どうしてそんな顔をしているの?
僕はそう聞いた。
何でもないの。
そう言って笑ったから、きっと気のせいだったんだ。
空を見あげると、夏のお日様が光ってる。
でも何でだろう。
僕はあんまり力が入らなかった。
雪解け水に湿った土は、あなたには合わないんだよね。
ハクサンチドリさんはそう言った。
あたりをよく見渡してみると、ここはとても高い高い山の上。
うわぁ。
僕は少し怖くなって、ちょっとしぼんだ気分だった。
僕はあの町から来たんだよ。
ふもとの町には人が暮らしてて、僕は時々踏んづけられたんだ。
でも僕は強いから、全然平気だったのさ。
ハクサンチドリさんは微笑んで、僕の話をじっと聞いてる。
あの町には、ヒメジョオンさん、シロツメクサさん、ヒメフウロさんっていうお友達がいるんだよ。
君にも紹介してあげるよ。
ハクサンチドリさんは言った。
私はね、綿毛になれないの。
いつか君の町にいってみたいな。
僕たちはすごく仲良くなった。
山の上は、あの街より寒いって事を教えてくれた。
風が吹いた時はどんな姿勢がいいのか、夜寒くて凍えそうな時はどうやって眠ればいいのか、そんな事をいっぱい教えてくれたんだ。
タンポポ君って、明るくて面白いね。
そうとも。
僕の黄色いお花は人の子どもに大人気で、いっつも取られちゃうけど、僕の根っこは1mもあるから全然へっちゃらなのさ。
そしたらハクサンチドリさんはいっつも笑ってくれたから、僕はだんだんこの人とずっと一緒にいたくなった。
でも僕は、なんだかずっと調子が悪いんだ。
本当だったら花なんて3個も4個も5個も咲かせられるはずなのに、1個しか咲かせられない。
高い山って、大変だ。
夜はとっても寒くて僕は震えたし、水はベチャベチャしてて僕はすぐに転びそうになった。
なのにハクサンチドリさんは、すっと立って、綺麗な紫色で、とっても強かった。
次に僕が綿毛になったら、君をあの町に連れてってあげるね。
僕たちは約束した。
だから、たくさんたくさん花を咲かせて、綿毛をいっぱい作らなきゃならないのに。
どうしたらいいんだろう。
ハクサンチドリさんはいつも優しくて、ちゃんと立てない僕に、小鳥の鳴き声に、どんな意味があるのかを教えてくれた。
ウグイスって鳥。
そんな鳥なら僕の町にもいるよ!
って僕は笑ったんだ。
だけど、ウグイスがホーホケキョって鳴くのは、実はドロボウが来ないようにしているとか、素敵な恋人を探してる事とか、そういう事は知らなかった。
ハクサンチドリさんはとっても物知りで、綺麗で、僕はハクサンチドリさんが大好きになった。
だけどなんか、ウグイスがホーホケキョって鳴く理由を、なんだか僕は前にも聞いた事があったような気がするんだ。
何でだろう。
僕の、たった一つだけ咲いた黄色い花も、やっと綿毛ができた。
だからハクサンチドリさんと一緒に、町に行こうと思ったんだ。
だけどやっぱり綿毛が足りなくて、全然飛ばなかったんだ。
ハクサンチドリさんは僕の綿毛より重かった。
タンポポ君はいつもデリカシーがないね。
そうやって寂しそうに笑ったんだ。
僕たちはもうすぐお別れしなくちゃならないから、僕はもっと頑張って花を咲かせようとした。
だけどだんだん葉っぱに力が入らなくなってきて、ペタッと萎れてきたんだ。
ハクサンチドリさんが言った。
私の事はいいから、もう行って。
僕は、次に強い風が来る日を待って、思いっきり綿毛を広げたんだ。
さようなら。
ハクサンチドリさんはお別れの言葉を言った。
そんな事を言わないで。
また会おうね。
ハクサンチドリさんとお別れをしたタンポポの綿毛は、ふわりと舞って、飛んでいく。
いろんな人の側で咲いたよ。
綺麗なハクサンチドリさん。
優しいヒメジョオンさん。
楽しいシロツメクサさん。
あとは誰だっけ。
一緒にいた人の事、みんな覚えてる。
ハクサンチドリさんには強い根っこがあって、ここで何年も何年も暮らすんだって。
でも僕は綿毛を飛ばすから、少しこの場所に慣れてきたと思った頃には、もう枯れちゃう。
だから僕は、何回も綿毛になって、またハクサンチドリさんに会いに来て、今度は勇気を出して、好きって言おうと思った。
ハクサンチドリさんは僕の方をみて、悲しそうな顔をした。
はじめて会った時から、ずっと悲しそうな顔をしてた。
だから僕は、いつもハクサンチドリさんを笑わせたいって思ったんだ。
バイバイ。
また会いにくるからね。
おわり
