6.私の日記【支配者はスイセンの陰に眠る】
朝、外に出ると、隣の荒れ果てた畑から、キジの鳴く声が聞こえる。
私の気配を感じての事だろうか?
私は彼等の生活に興味はない。
大きな鳴き声が子供達を起こしてしまわないか、心配になるだけだ。
彼等の暮らす畑は、私たちの土地ではない。
以前は時々、所有者がやってきて、草を刈ったり、土を耕していた。
しかし、もう何年もその姿を見ない。
管理者を失った畑は、今では植物達が勢力争いをしている。
秋、伸び散らかした草は枯れ、冬は降り積もる雪に潰され、春はスイセンが咲き乱れ、支配する。
しかしやがて、夏がくれば、それもわらびに覆い隠されるだろう。
そればかりか、どこからかやってきたイチョウ、ケヤキなどの若木がところ構わず伸びており、もう一度ここを畑として耕すには大変な労力が必要となる事を感じさせるのだ。
そんな豊かな土壌に、どんな小さな生き物が暮らしているのか、私はあまり真面目に考えた事はない。
いずれにせよ、そこにはキジが居付き、私達家族とは、干渉しない隣人となった。
この土地を、まだ人が支配していた時、どんな作物が育てられたのだろう?
その作物は誰を豊かにしたのだろう?
持ち主はどこへ去ったのだろう?
畑の向こうには栗の木が生えていて、秋に大量の実を落とすが、私は一度も拾わなかった。
だからきっと、たくさんの小さな生物を育てたのだろう。
土はここにある全てをそのまま受け止めて、支配者が変わった事に何も感じない。
その果てしない循環に儚さを抱くのは、隣人を思ってなのか?
それとも、かつてここを支配していた人間を思ってなのか?
確かな事は、私はここを支配できないという事だ。
もし可能だったならば、きっと私は隣人を追い出す事だろう。
娘のために果物を栽培したいんだ。
