18.私の日記【ニセアカシアは首を垂れる】
通勤路の農道は霧に包まれ、朝の日差しから私の横顔を守ってくれた。
田んぼには水が張られており、いつの間にか稲が植えられている。
昼は鏡の様に向こうの丘を写したものだが、今は白に近い灰色に染まるだけ。
太陽に温められた田んぼの水は水蒸気を漂わせ、朝、冷たい空気が降り立つと共に白い世界を作った。
向こう側の、霧に景色が遮られた場所まで、8秒。
しかしその境界線は、追いかけても追いかけても同じだけ遠ざかる。
水田地帯を抜けて林に入ると、霧は薄まり、代わりに右と左をニセアカシアが遮った。
私はこの花が好きだった。
ブドウのように垂れ下がる白くて小さい花々は、若草色の木々を飾り、暖かくなれば蜜を求めて蜂が飛び回るのだろう。
けれどまだ昆虫たちは眠ったままで、全てを私が独り占めできる気がした。
車を停めて、その花を見上げたいと思ったけれど、会社に遅れてはならないから、私は名残り惜しくもアクセルを緩める事はしなかった。
人は外来の植物を遠ざけようとするだろう。
でも、この霧の中に咲く君たちが、本物のアカシアより美しい事、私だけは知っているんだ。
