見出し画像

カクテルと余白:11【一華の受験相談①】Season2

3月・東京の曇り空

🎼🎹今回のテーマ曲です。
✏️ダンシング・クィーン
今回の主人公、一華から娘『雅』(みやびこ)に贈るテーマ曲として、とても似合う曲をみつけて来ました。
宜しければお聴きになりながらお読みください。(音量にご注意下さい)

Vocals: Ai Ninomiya /
Original: ABBA /
Composers: Benny Andersson,
Björn Ulvaeus

🥃🍒
【大手町での再会】
 金曜日の昼下がり、オフィス街の喧騒が程よく落ち着いた丸の内。

香取プロデューサーは、少しゆとりのある足取りで街路を歩いていた。
急ぎの用件があったわけではないが、移動のためにタクシーを拾おうと足を止める。
この界隈は空車が多いため、あえてタクシーアプリを開く手間もいらないだろう。

そう判断して右手に目を向けると、一台のタクシーがハザードランプを点滅させながら、滑り込むように香取へと近づいてきた。

その時、背後から切羽詰まった女性の声が響いた。

「すみません!とても急いでおりまして……あの、タクシーを譲っていただけませんか?」「え?ああ……いいですよ」

香取は反射的に応じながら、声の主を振り返った。
どこか聞き覚えのある、耳に馴染んだ響きだった。振り返った先にいたのは、案の定、赤坂のバー『OLD TIME』の常連客である一華だった。

「あら?!香取さん!!」
一華の方は、より一層驚いたような表情を浮かべている。

いつもの雰囲気とは違う、ビジネスライクな装いの彼女は、言葉通り相当に急いでいる様子だった。
二人の目の前で、タクシーが静かに停車した。

「どこまで行くんだい?」
「神保町まで」
「それなら僕と同じ方向だ。途中で降ろすから、相乗りしてください」

香取に促されるまま、先に彼が、続いて一華がタクシーの後部座席へと滑り込んだ。

昼のオフィス街で香取は一華と遭遇した

「ありがとう!ご迷惑をお掛けしてごめんなさい。上司がプレゼン中なのだけれど、追加のサンプルが必要になってしまって、急いで届けるところなの」

一華は、神保町駅の真上に位置する、街のランドマークとも言える出版社の名前をドライバーに告げた。

「いや、偶然だね。お役に立てて良かった」
「香取さんはどこまで?」

「ああ、僕は春日。久々に母校に用事があって。ちょうど私の通り道だったね」

改めて香取は一華を見た。
そこには、夜の赤坂で見せる顔とは全く雰囲気の異なる彼女がいた。
視線に気づいた一華が、ハンドバッグから一枚の名刺を取り出した。

「あ……改めて……自己紹介しないと。私の本職はこちらです」
差し出された名刺には、旧財閥系の巨大企業の名前が記されていた。

「秘書課なのか。一華さん、エリートだったんだね」
「そんな……」
一華は照れたように頬を赤らめた。

「それなら僕も……」
香取も自身の名刺を差し出した。
「え?塾の先生……なの?」
「そうだよ。言わなかったっけ?」
「家庭教師センターのプロデューサーと聴いたわ」
「そっちも本職だけど副業なんだ。メインはこちら」

「そうだったの!まあ、私も赤坂の仕事は副業だから」

わあ……算数の先生なんだ。
それじゃあ今度、娘の事を相談させてね。
小4の受験生なの。
そう言いながら、一華は興奮したように香取の名刺をハンドバッグにしまった。

「へえ?娘さん……居たんだ」
「ええ。バツイチのシングルマザーよ」
「へえ……それじゃあOLD TIMEでまた会おう。僕で良かったら何でもアドバイスするよ。ダイデン大佐も同業だし」
「ダイデン大佐も?!そうだったんだ。
嬉しいな。来週会えますよね?
今日はありがとう」
タクシーは一華の目的地である出版社の前に滑らかに横付けした。

「一華さん……忙しそうだったな。でも、夜と昼間とで、変われば変わるものだ」
香取は、彼女が降りた後の静かな車内でぽつりと独白した。

🍸🍸🍸🍸

2日後の日曜日。
香取は日用品を買い求めるため、自宅近くのスーパーマーケットへと足を向けていた。
彼がこうした店に足を運ぶのは珍しい。
普段の買い出しは、もっぱら奥方が一手に引き受けているからだ。

すると、またしても店の前で、ばったりと一華に遭遇した。
「わ!あれ?一華さん」
「わお!香取さん。偶然すぎます。もしかして、私のストーカーですか?」
一華は弾けるような笑顔を見せた。

「いやいや、バレてしまっては仕方ない。実は大ファンなんだ」
「それは光栄です」
一華は愉快そうに笑い声を上げた。

スーパーマーケット前で再び遭遇

一華は微笑みを浮かべながら、2日前のタクシーのお礼を香取に告げた。

「しかし、凄い偶然だわ。私たちご縁があるのね」
「それはこちらも本当に光栄だ。一華さんはこの辺にお住まい?」

「偶然すぎるわよね。私、東雲なの」
「そうだったんだ。俺は豊洲。そうか、それなら、こんなご近所なのだからいつかは必ずお会いしていたね」

一華の手元には、食材がぎっしりと詰まったレジ袋があった。袋の口からは牛乳や長ネギが覗いている。

「そういえば、今週はいつOLD TIMEに?」
「そういえば、今週はいつOLD TIMEに?」

異口同音に発せられた二人の言葉が重なり、思わず顔を見合わせて笑い合った。
「それでは、火曜日の夜に」

二人は丁寧にお辞儀を交わし、それぞれの家路へと向かった。

🍸🍸🍸🍸

赤坂OLD TIME

🥕「おや?今夜のお二人は、何やら随分とご機嫌がよろしいようで?」
ダイデン大佐が目を細めて問いかけると、一華は弾んだ声で応えた。
🍒「ええ……実は、驚くようなことが分かったんです」
🥃「俺たちご近所繋がり…」

一華と香取プロデューサーは、自分たちの間に起きた二つの偶然について大佐に打ち明けた。
話を聞き終えたダイデン大佐は、愉快そうに声を立てて笑った。

🥕「それは素晴らしい。何とも不思議なご縁があったものだ」
🍒「そうそう、お二人は塾の先生だったのですね?先日香取さんに名刺をいただいたんです」

一華の言葉に、ダイデン大佐が頷きながら歴史を紐解くように語り出した。

🥕「平成元年、ある大手学習塾『A』が立ち上がったのだが、香取と私はその創業時からずっと同じ職場でね。今はお互い違う塾だが」

🥃「その前身となる大手塾『B』が分裂して『A』ができたのですが……実を言えば、私たちはその『B』の時代からずっと一緒だったんですよ」

香取プロデューサーが補足すると、大佐はさらに声を弾ませた。
🥕「それだけじゃない。何と我々は、高校まで同じだったんだ」
🥃「はい、先輩!」
香取がいたずらっぽく、にっこりと微笑む。

🍒「明大明治ね」
🥕「……『めいめい』と呼ぶのはやめてくれ。ヤギじゃないんだから」
🍒「あら?でも世間ではそう呼ぶでしょう?他には『めいなか』『めいはち』今度、明大世田谷『めいせた』もできましたね」

🥃「私たちは『めいこう』と呼ぶんです。ね、マスター?」
香取に水を向けられ、カウンターの端にいた横瀬マスターが穏やかな笑みを浮かべた。

🍒「あら?マスターは青山学院大学のご出身だと伺っていたけれど……別の学校の附属高校だったの?」
🍸「ええ。明大への推薦は受けずに、外部を受験したのです。それは香取さんも同じですよね?」

🥃「はい。殆ど全員が明大に上がる学校としては、珍しいケースですが、私は中央大学の理工学部へ進みました」
🥕「私はそのまま明治だ。当時は工学部と言った。今の『理工学部』を出たよ」

バーの穏やかな照明の下、図らずも始まった「改めての自己紹介」に、店内の空気はより一層和やかなものへと変わっていった。

一華の相談

🍒「それで、ウチの娘の受験の話し…できれば、時々ご相談に乗ってくださらないかしら。でも……厚かましいお願いなのですが」
一華の控えめな打診に、ダイデン大佐は鷹揚に頷いた。

🥕「いいでしょう。私たちが本当にお役に立てるかどうかはわからんが……」
🍒「嬉しいです。ただ、お二人はプロとしてお仕事をされているのだから、無料というわけには……」

一華が恐縮して言葉を濁すと、香取プロデューサーが名案を思いついたように提案した。

🥃「それではこうしましょう。一華さんは、娘さんの受験のことなら何でも私たちに訊いてください。そして、私たちのお答えが役に立ったと思えたときには、このお店のカクテルを一杯奢ってください。それでいかがでしょう?」

🍒「え!? それだけでいいのですか?
このお店のカクテル……そんなに高くありませんよ。むしろ赤坂ではこのバーは驚くほどお安い……私のような身分でも通えるくらいですから」

🥕「それはお互い様。みんなで横瀬マスターに感謝ですな。
最近ではこのお店のカクテル🍸一杯よりも、ラーメン🍜一杯の方が高いかもしれない。
でもね一華さん、私たちとていつでもご相談に対して完璧な正解が出せるわけではない。なぜなら教育の正解は、いつでも一つとは限らないからだ」

🥃「一回の相談ですべてが解決する、などということは本来あり得ません。むしろ、一緒に悩むというスタンスです。
一緒に頭を抱えて、そして上手く解決の糸口が見えたなら、その時に一杯奢ってください」

🍒「本当にいいのですか? 嬉しい! 私、自分も中学入試を経験したはずなのに、いざ親の立場になると何にもわからなくて……」

🥃「いつでもどうぞ……」三人は約束を交わすようにグラスを掲げ、静かに乾杯した。
夜のBARでの教育相談。契約は成立した。

🍸🍸🍸
📲📲📲

数日後、香取プロデューサーの携帯が鳴った。
画面には一華からの着信が表示されている。

🥃「あれ? どうしました、一華さん?」
香取が穏やかに応じると、受話器の向こうから切羽詰まったような声が返ってきた。

🍒「大変なことが起きてしまって……娘の塾のことで、ぜひ相談に乗ってほしいのです」

一華の尋常でない様子を察した香取は、即座に場所と時間を提案した。

🥃「わかりました。それならば、今夜いつものOLD TIMEで会いましょう」
香取は一華と待ち合わせの時間を決めると、すぐさまダイデン大佐へ状況を伝えるLINEを送った。
【次回に続く】

Vocals: Ai Ninomiya /
Original: ABBA /
Composers: Benny Andersson,
Björn Ulvaeus

🍸🍸🍸🍸🍸
次回【カクテルと余白第12話】はこちら⬇️

家庭平和維持軍
ラインハルト・ダイデン大佐

【家庭教師管制塔『無限堂』】
🌐 公式ホームページ
https://mugendo1977.com/
無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。

📸 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mugendoofficial?igsh=MTh5ajg3ZGhyMHZ4NA%3D%3D&utm_source=qr
無限堂は、電話・メールによる勧誘は一切行っておりません。

🥕ダイデンのイラスト・ひがしりょう

前回までの作品
【カクテルと余白・Season1】
第10話はこちら⬇️

【あとがき:執筆時のイメージ曲】著者が本編の背景としてイメージしていたテーマ曲です。お時間があれば読後の余韻と共にお聴きください。⬇️

いいなと思ったら応援しよう!