カクテルと余白:18【江戸の燕①】工学部vs理学部Season3

🎼🎹Season3 まずはオープニングの曲です。宜しければお聴きになりながらお読みください。
✏️ キッス・オン・マイ・リスト
(ダリル・ホール&ジャナ・アレン)
歌 : ホール&オーツ
Kiss on My List
Written by Daryl Hall and Janna Allen
Sung by Daryl Hall & John Oates
【江戸の工学部=平賀源内】
「どうだいおくみちゃん!この源内が水の理(ことわり)を操りゃあ、寿司も酒も勝手に店内を泳ぎ回るって寸法よ。
江戸中の美食家が列をなしてやがるぞ🎵」
この時30歳の平賀源内は、自慢げに胸を叩いた。
宝暦8年(西暦1758年)、江戸駿河台坂上に、その店はあった。
源内は、神田川の段差部分の激しい落下水流を利用して回る水車を作り上げ、店内の卓上の清水を動かして舟盛りを回す『からくり水流回転寿司・大傳寿司』を誕生させた。
源内は、この、自宅隣の寿司屋に住み込みで働く「おくみ」に心を寄せており、彼女もまた密かに彼を慕っていた。
しかし、おくみには決して結ばれぬ深い事情があった。
「本当に……。この水車の力を伝える歯車の動き、天下一品でございますね。美しい!」
「おう!さすが おくみちゃん。ただのべっぴんさんじゃねぇや。
それはな、『遊星歯車』っていうんだ。俺の発明だぜ」
『俺の発明』というのは嘘である。
『遊星歯車』(Planetary Gear)は、源内がかつて西洋の本から見つけた原理であった。
和蘭(オランダ)語、英吉利(エゲレス)語、中国語……源内の凄さは、むしろその堪能な語学力と記憶力。
そして超高速回転の分析力にあった。
もちろん、時代を超えた豊かな発想も。
「べっぴんさん……なんて……」
おくみは頬を赤らめた。
「お星さまの名前?素敵……」
おくみは溢れる恋心を隠すため、ひたすらからくりの仕組みを褒め称える。
『なんて素敵……源内さま。お慕い申しております』
心の中の声が叫びを上げている。

源内の家の隣の寿司屋にやって来た
大傳寿司は、珍しいものが大好きな江戸の町人たちで連日大繁盛であった。
店主は感激した。もともと立ち食いの、おやつ的な食事だった寿司が、ゆっくり座って酒を楽しめるレストランになったからだ。
直前に、2回の博覧会のプロデュースで大金を手にしていた源内は、売り上げ3倍増の寿司屋からのお礼でさらに潤った。
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前作・【カクテルと余白Season2・一華の受験相談】もぜひお読みください。最後にドンデン返しを仕掛けておきました🔽
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ある夜、喧騒が引いた閉店後のこと。
店の裏口では、人目を忍ぶように変装したひとりの男が、おくみと密かに言葉を交わしていた。

男の名は、田沼意次(おきつぐ)。
当時はまだ「御側(おそば)御用取次(ごようつぎ)」の座にありながらも、すでに隠せぬ才覚を現し始めていた。
後に老中へと登り詰め、幕政の全権を掌握する未来の権力者である。
昼間、深編笠の奥からじっと水車を観察していた田沼は、店の二階からこっそり抜け出て来たおくみに指示を下した。
「見事なものだ。あの男の才能、本物かどうか真に試す時が来たのではないか。
九三よ、あの男にやらせてみろ」
と、田沼は密かに指示を出した。
おくみは
「しかし田沼様、あれは禁忌の……」
と困惑した。
田沼は、おくみの言葉を遮った。
「構わん、やらせろ。九三、ぬかるなよ」
そう言い残し、彼は風のように去っていった。

おくみの正体は、田沼意次の配下に属する『くのいち』=女忍者であった。
源内の家の隣店に入り込んだのも、実は彼の非凡な才能に目をつけた田沼からの密命によるものだった。
彼女に下されていたのは、江戸市中に天才の名を轟かせていた源内の動向を監視し、その技術を詳らかにするという隠密の任務であった。
おくみにとって、当初は単なる調査対象に過ぎなかった源内ではあった。
しかし、日を追うごとに、彼の人柄と、溢れんばかりの才能が放つ魅力に、彼女は深く取り憑かれていった。
しかし、この恋は身分を偽った上での禁断の恋である。
宿命ゆえに、いずれは何も告げぬまま、彼の前から忽然と姿を消さねばならない。
それは、誰であろう彼女こそがよく知っていた。
「所詮は叶わぬ恋。源内様への想いは断ち切るの。私はただ、与えられた任務を冷静に全うするのみ」
そう自分に言い聞かせ、自らを厳しく制すれば制するほど、裏腹に胸の高鳴りは激しさを増していくばかりであった。

その次の日の夕刻、おくみは意を決して源内を誘った。
決行の日であった。田沼の命に背く事は許されない。
「源内さま、少し歩きませんか」
「お安い御用だ!おくみちゃんとなら、どこへだって合点承知よ!」
「嬉しいです。源内さま」
源内は、有頂天になり導かれるままに、歩を進めた。おくみとは初のデートである。
すると、おくみは、とある古寺の前で足を止めた。
あちこち老朽化したその寺には、そもそも人は住んでいるのだろうか。
おくみは、ごくんと唾を飲み込むと、源内を誘い、その古寺の門をくぐった。
門の内側には、二人の到着を待ち受けていた男が居た。
源内は驚いた。
「あれ?確か……おまいさんは……」
男は源内を遮って自己紹介をした。
「へい……手前、生国は江戸神田。明神下に根を張り、呉服橋は北町奉行所より十手を預かっておりやす、浅形平吉と申しやす。以後、お見知りおきを」

「おお!街の有名人。浅形平吉こと、『弾き銭』の、ぜにへい親分じゃねぇかい?」
源内は歓声を上げた。
「こりゃまた結構!光栄なこった。『おうとぐらふ ぷりーず!ぎぶみー』」
("Autograph, please. Give me!")
思わず源内の口をついたエゲレス語ではあったが、当然平吉には通じない。
「嘔吐!蔵(おうとぐら)? 気分見(きぶんみ)?ゲロを蔵にするんですかい? よしてくだせえや」平吉は慌てた。
おくみは何となく意味がわかり、思わずくすりと笑った。こういう所も自分と源内は波長が合ってしまう。
「どうぞお控えなすって」
平吉は真顔で答えた。
源内は首を傾げた。
「それで……何だってぇんで親分がこんな門の陰に?」
源内がふと平吉の足元を見ると、そこには大きな布袋が2つあった。
「ぜにへい親分……その袋は?」
科学者特有の好奇心から、源内が尋ねた。
『銭平』はニヤリと笑った。
「武器……ですよダンナ。あっしら平民は刀が持てねえ。この十手だけだ。
だから、あっしはこの技を身につけたんでやす」
「おお!得意の弾き銭に使う銭だね?」
「へい。今日は、どうもこれ(弾き銭)を派手に散らすことになりそうな予感がしやすんで……呉服橋から借りて来やした。真鍮で作った試作品ですがね」
「え?!派手に散らす……?」
源内は訝しんだ。
源内を遮るように、おくみが平吉の顔を見上げて頷いた。
「親分さん……ご苦労様でございます」
「おう……おくみさん。店以外で会うのは初めてだな。
とにかく、何だか知らねえが、今日は一人でここを守れという、呉服橋からの沙汰でぃ。
あんたら以外の人間は、何人たりとも蟻一匹通すんじゃねえとのお達しだ。
とにかくおいらにここは任せて、中にお通りな」
言葉こそ優しかったが、平吉はどこか探るような目で、おくみの全身を凝視した。
『寿司屋に来た時から、立ち居振る舞いが怪しかったが、今夜この女から出ている殺気はただ事じゃねえ。この女……忍びか?』
平吉は、おくみの正体にうすうす勘付いていた。
「それでは……」
首を傾げたままの源内を促し、おくみは門の奥に歩を進めた。
何となく、異常な雰囲気に疑問は持ちつつも、源内にとっては惚れた女性との散歩である。とりあえずは成り行きに任せよう。
寺の奥に続く細い参道を歩きながら、源内が尋ねた。

「おい、おくみちゃん。おまいさん、まだ本物の浄瑠璃ってやつを拝んだことがないだろう?『福内鬼外(ふくうち きがい)』っていう浄瑠璃のシナリオ・ライター知ってるかい?」
忍びの者として、おくみの頭の中には数々の情報がインプットされていた。
しかし、浄瑠璃だけはおくみにとって別格だった。
「え?!その作家さんならば、私……大好きです。大大大ファンです!
福内鬼外は、浄瑠璃ファンならば誰でも知っていますよ。斬新でスピーディー!他の作家とは一線を画しています」
おくみは興奮した口調で続けた。
「私、鬼外さんの『神霊矢口渡』……台詞を全部覚えちまうぐらい、小屋で何度も見たんですよ。終いのところでは、毎回いつも泣いてしまうんです」
おくみは本心で答えた。
彼女は浄瑠璃が本当に大好きだった。
「自分が惚れた男のために身代わりとなって、娘が父親の刀で命を落とすところ……」
誰のためでもない、自分のために心が動く。
極彩色の人形芝居はあまりに眩しく、優しい。
その愛らしい動きに目を細める、瞬きほどの時間だけが、殺伐とした忍びの者としての生を生きる彼女に許された、「人」としてのささやかな証であった。
「福内鬼外先生って、どんな人なんだろう?
私……あの人の作品の、言葉の一つひとつが好きなのです。
何と言うか……心の波が合うのです。
ああ、私、福内鬼外先生の『嘔吐蔵』欲しいなあ……あれ?でも、源内さま、『嘔吐蔵』って何でしたっけ?」
おくみはこの時ばかりは本心を隠せずにまくし立てた。
『ああ……心の波が合う……それは、源内さま、貴方様にも感じております。これは浄瑠璃限定です。浮気ではございませぬ』
おくみは言葉を飲み込んだ。
「ホントかい?!今度、福内鬼外の浄瑠璃の初日があるんだ。
今度の話しはな、江戸の連中が腰を抜かすような、見たこともない仕掛けを用意してあるんだ。
……どうだ俺と一緒に。特等席を空けておくが、その目で確かめてみる気はないか?」
源内はおくみを見た。
その時、穏やかな陽だまりを切り裂くように、鋭い銀光が空を抜けた。
源内の背後の林から、何者かが殺意を込めて放った死の礫。
それは、一直線におくみの喉元を狙って突如投げつけられた手裏剣であった。
超高速で殺到する一閃が鼻先まで迫ったその刹那、浄瑠璃を愛おしそうに語っていた彼女の瞳から温もりが掻き消えた。
死線を潜り抜けてきた彼女の忍びとしての本能が、冷徹な殺気となってその奥底でギラリと跳ねた。
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【カクテルと余白:18 江戸の燕② Season3工学部vs理学部】に続く
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🎼🎹おくみ のイメージ曲①
作者なりに、登場人物のイメージ曲を選んでみました。皆様のイメージを壊してしまったらごめんなさい。
✏️ パートタイム・ラヴァー
(スティービー・ワンダー)
歌 : 二宮 愛

Credit
• Artist: 二宮 愛 / Ai Ninomiya
• Song Title: Part-Time-Lover
• Original Artist: Stevie Wonder
(スティービー・ワンダー)
*原曲には、
2つ目のハイフォンはありません。
しかしここは二宮愛さんの表記を
レスペクトします。
The original song title doesn't have a second hyphen, but I've chosen to respect Ai Ninomiya’s specific notation here.
🥃「今度は江戸時代ですかあ?」
🍒「何でまた?」
🥕「今回も真面目な勉強の話しじゃよ。
中学生、高校生の数学学習のアドバイスの一環じゃ」
🥃「どこが?ですか?この酔っ払い」
🍒「おまわりさーん、ここでウサギさんがお酒飲んでます。違反でーす。罰金取って」
🥕「ゴルァ!私はウサギではない!チャリンコの違反でもないわい!」
🥃「んで?一応聴いておきますけど、どんな話しなんすか。今回は?」
🥕「うむ……今回も生徒諸君からよく受ける質問。『工学部と理学部はどこが、どう違うのか?」
🍒「あら?そうだったのですね。
私なんか文系だからホントにそれ解らない。でもなぜ江戸時代なの?」
🥕「まあ、それは読んでのお楽しみ」
🥃「あーーーそうだ!このお話しにはかなりの嘘800%があります。歴史的事実や科学的検証に、とても沢山背いております。どうかお怒りにならませんよう、笑って許してください」
🥃このお話しの続きはこちらです🔽

ラインハルト・ダイデン大佐
🎼🎹
筆者が勝手にテーマ曲にしちゃいましたこの曲。今回もお聴きください。
Nickolas Ashford & Valerie Simpson
アルバム『Street Opera』から
『Street Corner』🔽
【家庭教師管制塔『無限堂』】
🌐 公式ホームページ
https://mugendo1977.com/
無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。
📸 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mugendoofficial?igsh=MTh5ajg3ZGhyMHZ4NA%3D%3D&utm_source=qr
無限堂は、電話・メールによる勧誘は一切行っておりません。
🥕ダイデンのイラスト・ひがしりょう
【二宮愛 Ai Ninomiya 公式リンク】
• YouTube公式チャンネル
https://www.youtube.com/@AiNinomiyaCovers
• Official Website
https://aininomiya.net/
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