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カクテルと余白:16【一華の受験相談⑤】終戦・後編Season2

【前回のあらすじ】
 一華は、娘雅(みやびこ)のカンニングの問題を、家庭平和維持軍に相談した。
ダイデンらの答えは明確だった。
生徒のカンニングについて、わざわざ親に連絡をして来る塾は少ない。
しかし、雅の塾長からはそれがあった。
一華は娘や塾に対してどう振る舞えばよいのか?
前回のお話しはこちら⬇️

🎼🎹一華が娘に贈る気持ちをイメージした曲②です。宜しければお聴きください。
✏️ 二人だけ(邦題)
歌 : 二宮 愛

We're All Alone
Vocals by Ai Ninomiya
Composed by Boz Scaggs

【レンチンの日】
🥕🥕ダイデン大佐の作戦
ダイデン大佐たちとの「OLD TIME」でのミーティングを終えると、一華は家路を急いだ。

雅はまだ起きているはずだった。
今夜は「レンチンの日」。
冷凍食品を温めて食べる日だ。
家に戻ると、雅はすでに夕食を済ませ、自室で勉強を始めていた。

🍒「びいちゃん……ちょっといいかしら?」
🍭「ママ、お帰りなさい」
二人は冷蔵庫からヤクルトを取り出し、ダイニングテーブルに向かい合って座った。

🍒「昨日の事なのだけど」
🍭「ああ……あれは……」
雅は何かを言いかけたが、一華はそれを遮った。

🍒「びいちゃん。聞いて。昨夜は叩いてごめんね。ママ慌ててしまった」
🍭「ううん……悪いのは、びいだから」
2人は真剣な眼差しで見つめ合った。

仲直りしよ

一華は雅に向かって語りかけた。

🍒「びいちゃん。ママ、もうひとつ謝らなきゃいけないことがあるの。
ママ、びいちゃんのことを疑ってしまった。

ごめんね。昨夜、ずっと考えて、そして決心したんだ。

もう、ママは永久に、びいちゃんの言葉を疑わない。

世界中の人がびいちゃんを疑っても、ママだけは、絶対にびいちゃんを信じ抜くから」

🍭「……………」雅は黙って深く頷いた。
🍒「でもね、わかって欲しいことがあるの。ママはびいちゃんを信じる。

でも、他人(ひと)たちはそうはいかない。ママだって、びいちゃんを守りたい。
だけど、『うちの娘を信じて!』と他の誰に叫んでも、それは取り合ってもらえないの。
なぜなら、それは親だから。

どうせ娘が可愛いだけの、親馬鹿な母親なのだから……って。

だから、あなたを信じ抜く事ができるのは、この世界でママまでなの。

これからも。

だからね、『カンニングした』と断定されてしまったら、どんなにママが頑張っても、ママの言葉には、誰も耳を傾けてくれなくなる…」
🍭「…………」

🍒「だから、今回のことは、結果として「カンニングした』ということになっちゃう。

机の中にテキストを入れていたのだから、ルール違反として仕方ないよね。

明日、ママからタヌーイ先生にお詫びの電話を入れておく。

でも、ママだけは、ママだけは貴女を信じるからね」

🍒(よーし!ダイデン大佐に叩き込まれたセリフ、完璧に言えたぞ🎵これで一件落着ね🎵)一華は心の中でほくそ笑んだ。

……今の、この子の年齢に合った対応はコレね!

だが、その言葉を遮るように雅が決然と話し始めた。

アマレット・ジンジャー
優しくすっきりした甘さのカクテルです。

🍭「ママ……ちょっと待って。
あのね……。
びいも、ママに謝らなきゃいけないことがあるの。
実はね、私……あの時、本当はカンニングしたんだよ」

🍒「えっ……!?」一華は思わず息を呑み、言葉を失った。

🍭「ママが、びいのことを信じてくれる。
そう言ってくれると思ってたからこそ、本当のことを今話すね。

社会の小テスト……クラスではずっと1位だったけど、満点が取れなくて、いつも90点台ばかりだったでしょ?あの時もそうだったの。悔しくて。
あと3つの問題の答えがどうしても思い出せなかったんだ。

ふと見たら、机の中でテキストが開いたままになっていて、答えが見えてしまった。
だから、それを写しちゃったの」

🍒「え?!……そ……そうだったの」一華の胸の内で、それまで必死に守り固めていた「冷徹な虚構」の壁が、音を立てて崩れ去っていく。

しかし、それは不思議なほど清々しい開放感を伴う崩壊だった。

その壁は、彼女自身が心の中に築き上げていた、虚飾と策略に満ちた無用な防御壁に過ぎなかったのだ。

🍭「びいね、やっとわかったんだ。
カンニングなんて、どれだけくだらないことか。

クラスのみんなに責められたことよりも、何よりママに、こんなに悲しい思いをさせてしまった。

今回のテスト、無効になっちゃったけど、ズルして取った100点より、実力で取った94点の方が、ずっと気持ちがいいって……今ははっきりわかるよ」

🍒「…………」
一華の瞳から、熱い涙が溢れ出した。気付けば彼女は、自らの策略やダイデン大佐のシナリオなどすべて忘れ、ただ一人の母親として、愛おしい娘を力いっぱい抱きしめていた。

🍒「……!?……そうか。そうだったのね」
一華の心の中から喜びが湧き出した。

🍒「ふふっ…ふふふ🎵」
🍭「どうしたの?ママ…」
🍒「ママ……嬉しいから」
🍭「そうなんだ!ママ大好き」

いつもの秘密の寄り道場所にて

数日後の放課後。
雅と仲良し三人組は、塾へ向かう道すがら、いつもの公園で足を止めていた。

一昨日の出来事について、友人の一人がたまらず口を開く。

「ねえ、雅。一昨日の話、本当にびっくりしたよ」
「私も。突然みんなの前で『私、本当はカンニングしました。ごめんなさい、もうやりません』なんて言い出すんだもん。驚いちゃったよ」

🍭「あはは、あれね?」
雅は悪びれる様子もなく、愉快そうに笑い声を上げた。

🍭「私、考えたんだ。結局、あれが一番いい方法なんだって気づいちゃったの」
友人は困惑した表情で雅を見つめる。

「え? 雅………でも、本当にカンニングしたんでしょ?」

🍭「あはは、やるわけないでしょ。
あれは嘘だよ。絶対大人たちに内緒だからね」
雅の言葉に、二人は信じられないといった様子で目を丸くした。

「えっ!? なんでそんな嘘ついたの?」
🍭「だってさ……社会のテストって制限時間20分で全50題でしょ? あれってただの知識クイズだし、スピード勝負じゃん?」

「そ、そうだよね」
「私も変だな、って思ってたんだ」

🍭「確かに、机の中にテキストを入れっぱなしにしてたのは私のドジ。
だから失格で無効になるのは当然でしょ? でもさ、机の中にある答えを探して写してる暇なんて、どこにあるの?」

友人は顔を見合わせて頷く。
「そうだよね。私なんて、いつも最後まで終わらないもん」
「びいちゃん、いつも全部解いてるし、90点台だからすごいなって思ってたんだよ」

「でも……じゃあどうして、あんな嘘をついたの?」
🍭「うん、それはね……ウチの塾の算数テキストの巻末にあった、思考パズルの問題を思い出したの。この間やったでしょ?」
雅は、種明かしをする手品師のような顔で二人に説明を始めた。

🍭「覚えてる? 『騎士と歩兵』っていう、正直者と嘘つきの話」
「ああ、あれね。タヌーイが説明してくれたやつ」

「面白かったよね、あの問題」
雅は、かつて自分が解いたその思考パズルの論理について、得意げに解説を始めた。

【再掲・騎士と歩兵】

騎士=正直者or歩兵=嘘つき

【問題】
ある島には、嘘つき(歩兵)だけが住む「嘘つき村」と、正直者(騎士)だけが住む「正直村」がある。この島にある村は、わずかにこの二つだけだ。

😎嘘つき村」の住民は、何を聞かれても必ず「嘘」だけを言う。

😄「正直村」の住民は、何を聞かれても必ず「真実」だけを答える。

さて……この二つの村へと続く分岐点に、どちらかの村の住民が一人立っている。

あなたは「正直村」へ行きたい、とする。
しかし、許された質問はたったの一回だけだ。

さて、目の前の男に何と問いかければ、確実に「正直村」への道を知ることができるだろうか?

  🍭🍭🍭🍭【雅の解説】🍭🍭🍭🍭

雅は二人に、その論理の極意を解き明かすように語り出した。

🍭「答えはね……質問者はどちらか一方の村を指差して、こう聞くの。
『あなたは、こちらの村の人ですか?』
って。これがこのパズルの正解。

*指差したのが『正直者の村』だった場合、もし男が正直者なら当然『イエス』と答える。
また男が嘘つきだったとしても自分の村ではないから嘘をついて『イエス』と答えるでしょ?

*逆に、指差したのが『嘘つきの村』だった場合、正直者は本当のことを言って『ノー』と答えるし、嘘つきは自分の村なのに嘘をついて『ノー』と答える。

つまり、相手が正直者か嘘つきかに関係なく答えは必ず一致するの。

質問者が指差した村を男が『イエス』と言えばそこは正直者の村、『ノー』と言えばそこは嘘つきの村ということになるわけよ」

レイモンド・スマリヤン(米国)
(Raymond Merrill Smullyan)
1919年〜2017年
数学者でありプロピアニスト、マジシャン
この問題の出題者でもある。

🍭🍭🍭🍭🍭🍭🍭🍭

🍭「この話を聞いた時、答えとは関係ないんだけど、私、ちょっとだけ歩兵の嘘つきが可哀想になっちゃったんだ。

だって、騎士の正直者は自分のことを正直者だって言える。
でも、歩兵は自分が嘘つきだという真実を、誰にも伝えることが絶対にできないんだよ。

それってなんだか、すごく可哀想だなって。でも、現実の世界はパズルよりずっと簡単だった。

今回の事もね、もし私が『やってない!』って言い張ったら、みんなは一生、私のことを嘘つきだと疑い続けるでしょ?

それで思いついたの。あえて自分から
『やりました、私は嘘つきです』
って白旗を上げることを。

そうしたら、やっぱりみんな、私のことを『潔く罪を認めた正直者』だって勝手に信じ込んでくれたんだよ。あははは🎵

ママだってそうだった。
『ズルして取った100点より、本物の94点の方が気持ちいい』

……なんて、いかにも子供が反省しそうなセリフを添えてあげたら、勝手に感動して、もう二度と疑わないって納得してた。

これ、最近の中学入試に出題されるようになった『背理法』の応用なんだよ。

あはは🎵ママったら本当に信じちゃって。
あんなに強く抱きしめてくるんだもん、ちょっと苦しかったよ。
私のママ……可愛いな」

雅の淡々とした、それでいて愉しげな告白に、二人の友人はただ言葉を失い、幽霊でも見るかのように口をあんぐりと開けることしかできなかった。

🍭「サリーたちなんか相手にしない。
勉強で勝てばいいんだ。
それより、私はママが卒業した中学校・高校に入学したいの。

ママの学校に合格するためにはね、子供のまんまじゃだめ。

考え方や行動、全部が大人に近づかないと合格なんてできないんだ。
それから…もっともっと速く書けるようになって、もっともっと早口で喋れるようになること。頑張るぞ!」

左の頬に片エクボを浮かべて、雅は笑った。

赤坂OLD TIME
カクテル『カミカゼ』

その夜の赤坂「OLD TIME」。
カウンターには「家庭平和維持軍」の二人と一華が並び、静かに、しかし熱のこもった祝杯を挙げた。

🥕🍒🥃「乾杯!」

🥕「いやあ……それは驚いたなあ」
🥃「そう。まさか小4で、そこまで大人びているとはね」
🥕「偉いよ、雅ちゃん。大したもんだ」
🥃「理屈でわかっていても、なかなかできることじゃない。勇気もあるのだね」

一華は二人に向かって深々と頭を下げた。

🍒「今回は、お二人には本当にお世話になりました。
私……雅のことをまだ小4の幼児だと思い込んでいたから、あんなに取り乱してしまって」

🥃「それが、予想を遥かに超えて大人だった、というわけだね」
🥕「立派なお嬢さんだ。大人顔負けの知性を持っているよ」
🥃「もう、何も心配することはないね」

🍒「ありがとう。実はね……あの『涙の抱擁』の時、すぐに気づいてしまったから。
私、思わず笑ってしまったの。笑いを堪えるのに必死だった。
ちょっと背筋が寒いところもあったけど。

娘の温もりを胸に感じながら、それまでとは全く違う質の涙がこぼれて……。

ふふふ、いつの間にかあんなに大人に成長していたなんて、本当に驚きだわ。

まあ……とにかく私はあの子に『信じる』と宣言したのだから……。

🍸🍸🍸
『涙の抱擁』シーンに戻る。

一華の心の中の独白。雅をぎゅーっと抱きしめながらーー

🍒「ふふふふ。お見事ね、雅。上手よ!
最高の嘘よ。本当にありがとう。

『私は嘘つきです』
と嘘の告白をすることで、永遠の『正直者』の座を手に入れるなんて。

そして、貴女のこの嘘は、私を救うためでもあるのね。

『カンニングをした』という、この嘘が無ければ、私は永遠に貴女の中に化け物を探し続けることをやめなかった。

そして、貴女を信じたいのに疑ってしまう自分を、一生、嫌悪し続けていたはずなのよ。

貴女は、その醜いループごと、私を抱きしめて壊してくれたのね。

あのテストは、本当は94点? ……それも嘘ね。
真実は、あなたが勇気ある嘘で塗り固めて勝ち取った、紛れもない『本物の100点満点』のはずよ。

さすが雅。そして、この私の娘なら、そうでなくては!!
私は……小4の時にこんなことできたかしら。

ああ、なんて愛おしくて、なんて悍(おぞ)ましい……
将来を考えると、空恐ろしくもある子だわ。

だから、びいちゃん。
ママはずっと側にいるから。
私の母校を目指してくれるのでしょ?

だったら、ただ素直で上品なだけの『お嬢様』なんかじゃだめ。

見た目はそんな風でも、陰ではいつでも知性の刃を研いでいる。

そう……羊の皮を被りながら大きな刀を持つ……
そんな女の子が、ウチの学校…IJ(アイ・ジェイ)一番町女学院の理想なのよ」

刀を持った羊……これこそが理想

一華は娘をさらに強く抱きしめながら、その肩越しに、誰もいない暗がりに向かって、静かに、深く、含み笑いを浮かべた。

そのとき、一華の右の頬に片エクボが浮かんだ。

🍸【カクテルと余白:Season2 終わり】

🍹🍹🍹おまけ🍹🍹🍹

🍒「ちなみに、前回大佐たちが言っていた
『家庭内カンニング』って何ですか?」
🥕「ああ……それはな……」
🥃「ちょうど写真があります」

🥕「そうそう……この状態のこと」
🍒「え?子供の本棚。これの何が……」

ダメな本棚の例

🥕「過去問集じゃよ。子供の本棚に普通に並べている」
🥃「ひとつひとつの問題を分析するために使うならば問題はない」

🥕「しかしながら、時にこれを模擬試験代わりに家で時間を計ってチャレンジさせてしまう場合がある」
🍒「あ……そうか。子供は羊。そこに答えがあれば必ず見てしまう」

🥕「そう。既に全部答えを見ている。
この状態ならば、答えの数字まで覚えているケースもある」
🍒「制限時間を計って解かせる。その結果が良いと親は合格できると信じてしまうのね」

🥕「そう。子供に罪の意識はない。無防備に子供部屋に過去問を置いた親の責任だ」
🥃「だから、実力を試すための模試代わりに過去問集を使うならば、親が、自分の部屋に厳重に保管しないとダメですね」

🍒「羊が草食べるように、カンニングしてしまう……訳ね」
🥕「志望校を決める際にはくれぐれも気をつけて」
🥃「ひとつひとつのご家庭の、誠実な努力が報われますように」

赤坂の夜も更けて来た。そろそろ終電の時刻だ。
🥕「それでは、皆様おやすみなさい」

次回【カクテルと余白17】はこちら🔽

家庭平和維持軍
ラインハルト・ダイデン大佐

【家庭教師管制塔『無限堂』】
🌐 公式ホームページ
https://mugendo1977.com/
無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。

📸 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mugendoofficial?igsh=MTh5ajg3ZGhyMHZ4NA%3D%3D&utm_source=qr
無限堂は、電話・メールによる勧誘は一切行っておりません。

🍸🍸🍸🍸
【あとがき:執筆時のイメージ曲】
著者が本編の背景としてイメージしていたテーマ曲です。お時間があれば読後の余韻と共にお聴きください。⬇️

🥕ダイデン大佐のイラスト
ひがし りょう

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