カクテルと余白:32【江戸の燕⑩】工学部vs理学部Season3
前回のお話しはこちら🔽
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二人が最期の覚悟で微笑み合った、現実の時間にして、わずか0.02秒が経った。
死を覚悟した源内はおくみの手を強く握り締め、静かに眼を瞑る。
おくみ、銭平、田沼、そして数乃も皆、同様に身体を焼く火傷の激痛を必死に堪えつつ、最期の覚悟を決めていた。
🎼🎹ここからのストーリーに相応しいと思われる曲を選んで参りました。
宜しければ、お聴きになりながらお読みください。
✏️明治大学応援曲『神風』
(作曲 : 大矢 忠慶)
(演奏 : Symphonic Wind Ensemble21)
訪れるはずの火花の散る音、江戸の街中に轟くであろう爆音、そして耳を聾する地鳴り。
しかし、その時源内の脳裏を過ったのは、想像していた爆発とは明らかに質の違う、不気味に地深くから響いてくる地鳴りであった。
「地鳴り………地鳴り………んっ?!
地鳴りだとッ!?」
源内は弾かれたように目を開いた。
その異変に気づいたおくみもまた、驚愕に目を見開いて源内の顔を見る。
爆発は起きていない。
一瞬、一同が呆然と顔を見合わせた直後、大地を激しく揺るがす巨大な地鳴りと轟音とともに、沈黙していた井戸の奥底から、天を衝くもの凄い竜巻と激しい水しぶきが狂暴に巻き上がった。

爆煙一色だった空へ向けて天高く突き抜けた巨大な水柱は、上空で一度不気味に静止した。
刹那、塊を維持できなくなった水柱は空気抵抗によって激しく粉砕され、大粒の狂暴なシャワーへと姿を変えて真っ直ぐに逆流し、地面に伏せる源内たちの背中へと容赦なく叩きつけられたのである。
まさにそれは、焼けつく地獄に降った天の恵みの水であった。
強烈な冷水が火傷の肌を激しく叩いた瞬間、泥の中に伏せていた一同から
「ぎゃあああああああ」
「痛ああああああい」
「うおおおお!」
と狂ったような悲鳴と咆哮が上がり、現場に激痛が走る。
その凄惨な叫び声の中で、源内は激しいシャワーのような水を全身に浴びながら絶叫した。
「洗え!みんな!痛えかもしれねぇが、身体に付いた酸を洗い流すんだ!」
と声を限りに叫んだ。
「うおおおお!痛え!痛えが洗うぜ」
「洗い流せばいいんですね?源内さん」
数乃たちの応答。
「そうだ!我慢して、兎に角洗え!
何だか知らねえが神の恵みだ。
そして、もう爆発は無えぞ!」
「……という事は?」
激痛の雨の中、目を瞑りながら田沼が笑った。
「そうですよ!田沼様。俺たちは助かったんです」
「きゃああああ🎵やったー‼️」
謎の豪雨の中、一同は狂ったように踊りながら、身体にこびりついた酸を洗い流した。

「やったぜ!!これで2、3日もすれば皆んなの火傷は綺麗に消えるぜ!」
「うほほーい」
やがて雨が止んだ。
数十年の間、井戸の奥底で沸いていた、美しい水である。
一同は、足元に綺麗な水の水溜りができていたので、手で掬って執拗に身体を洗った。
雨が止むと、一同は一気に力が抜けて、泥の上にへたり込んだ。
天からの激しい水が降り注ぎ続けたことで、ガスを生み出していた樽の中の酸も一瞬で薄まり、恐るべき化学反応も完全にその収束を迎えていた。
やがて、あれほど世界を揺るがしていた爆音と白煙が嘘のように引き、ただ泥まみれでずぶ濡れになった一同の荒い息遣いと、お酢の焦げた匂いだけが静まり返った江戸の空き地に漂う。
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🎼🎹このシーンに相応しい曲を探して参りました。宜しければ、お聴きになりながらお読みください。🔽
✏️ただ愛に生きるだけ
(曲 : アンドレ・ポップ)
(演奏 : レーモン・ルフェーブル・グランドオーケストラ)
源内はおくみの手を強く握ったまま、ゆっくりと顔を上げた。
その視線の先、完全に沈黙した井戸の底からは、もうハイドロジエンの不気味な陽炎は立ち上っていなかった。
「そうか………そういう事か…」
源内は1人頷いた。
何が起きたか説明をしよう。
最初の火花が井戸の真上で、ハイドロジエンガスに引火し、デトネーション(「爆轟」という。要するにトンデモナイ爆発)現象が起こった)
爆発したガスに猛烈に押し出され、狂暴な衝撃波が生まれる。
それは、あたかも巨大な空気の拳のような音速を超えるスピードの空気の壁となった。
その圧倒的な破壊の塊が、江戸の地深く、634メートルの深さを誇る井戸の底へと一気に直下していった。
直後、行き場の無くなった空気はトコロテンのように井戸から押し出され、巨大なピストンの如く地下水を巻き込んで急上昇へと転じ、凄まじい水柱となって井戸の口から真っ直ぐに吹き出した。
その噴出の瞬間、今度は井戸の周囲に滞留していた残りのハイドロジエンガスが音速未満で急速に燃え広がるデフラグネーション(「爆燃」という、これも爆発)を引き起こし、水蒸気と共に周囲のガスを完全に拡散させていった。
こうなるとハイドロジエン(=水素)は、宇宙で一番軽い元素である。
あっと言う間に拡散してしまった。
これらは「奇跡」ではなく、単なる「必然」だったのだ。

全ては実験開始から2分以内に起きた事ではあったのだが、全員にとっては長い一日と言える時間だった。
その場にへたり込むと、今度はお互いに顔を見合わせ、そして、腹の底からの笑いが爆発した。
「わ……わはは」
「ああああああ…あははは」
豪雨が止んでも、しっかりと抱き合ったまま離れない2人の男女に、銭平は足元の泥水を手ですくい、そのまま思いきりぶっかけた。
田沼も数乃もそれに続いた。
それでも、泥まみれで笑い合ったまま、2人の恋人たちは離れなかった。

一同がようやく歓喜の興奮から醒め、泥水まみれの身体を起こし始めたその時、まるで彼らの油断を嘲笑うかのように、再び井戸の奥底から不気味な地鳴りが轟き始めた。
ウーパーワーパー
ウーパーワーパー
ウーパーワーパー
突如として静まり返った空間に、またしても井戸の暗闇から得体の知れない怪音が狂ったように湧き上がり始めたのだ。
「離れろ皆の者ッ!」
田沼が裂くような声で叫び、その警告に全員が咄嗟にその場へ身を投げ出し、必死に身体を伏せた。
ウパウパウパウパ
ウパウパウパウパ
奈落の底から響く怪音の間隔は、秒単位で狂暴に短くなっていく。
ウパパパパパパパ
ウパパパパパパパ
パパパパパパ………
異常な高周波となって鼓膜を震わせる音の渦に、源内は泥に塗れながら
「な、なんだ、ッ!?」
と井戸の淵を鋭く凝視した。
🍸🍸🍸
🎼🎹ここからのシーンに相応しい曲を選んで参りました。
宜しければお聴きになりながらお読みください。
✏️展覧会の絵
(作曲 : モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキー)
(演奏 : 東京フィルハーモニー交響楽団)
(指揮 : アンドレア・バッティストーニ)
ウパパパッパパーーー🎉㊗️
次の瞬間、空間の緊張を嘲笑うかのような突然のファンファーレとともに
ぽーーーーーーーん💥
と気の抜けた音を立てて何かが井戸の奥底から勢いよく顔を出した。
一同の目の前に出現した、それは………それは、見たこともない巨大な皿に乗った謎の卵であった。

あまりにも巨大な謎の卵であった。
「うぬぬぬ、ッ!?」
田沼はただならぬ気配に鋭く呻きながら刀の柄にガチリと手を掛け、銭平はいつでも放てるよう銭を数枚素早く左手に載せて身構えた。
この後、一体何が卵から飛び出し、何が起こるのかは、天才の源内を以てしても、皆目想像すらできなかった。
全員が息を呑んで身構える中、突如として巨大な卵が不気味に震え始めた。
びくびく、びくびく。
波打つような小刻みな震動が走ると同時に、滑らかだった表面に一本の禍々しい筋が現れ、その筋は一瞬で無数の網の目のようなヒビへと変わった。
バリバリバリ
激しく硬質な音を立てて、卵が内側から力任せに割れ始める。
臨戦態勢のまま凝視する一同は、あまりの怪異に言葉を失い、声すら出ない。
その静寂を切り裂くように、
「うああああああああああ」
と、突如として卵の内部から凄まじい大音量で響き渡ったのは、あろうことか一人の男性の、ひどく間の抜けた大きなあくびであった。
そして、その豪快な生命のあくびと共に、割れた卵の殻を派手に押し破って、中から一人の見知らぬ初老の男がのっそりとその姿を現した。

一同はただ唖然として、卵から現れた謎の男を言葉もなく見上げるのみであった。
男はゆっくりと、まるで誂えたような巨大な卵の殻が残る皿の上から、泥の上へと降り立ち、不思議そうに周囲の景色を見渡し、さらに泥まみれで固まっている一同の顔を一人ずつじっくりと眺めた。
「……………」
「……………」
誰一人として声を発する者は居ない。
しかし、あまりにも奇妙な形で卵から出現したこの老人は、その佇まいからも明らかに敵意は無いようであった。
その無害な空気を察し、田沼をはじめとする男たちは、ようやく刀の柄や懐の銭からそっと右手を離した。
老人は衣服に付いた泥を軽く払うと、「お歴々、お尋ね申す。今は、今年は天和何年かな?」
と、穏やかながらも威厳のある声で問いかけてきた。
「天和だとっ!?」
あまりに時代錯誤な問いに、銭平が真っ先に口火を切って答えた。
「今は宝暦八年(1758年)でい。天和の時代なんざ、とっくの昔に終わっちまっているぜ」
「すると、拙者がいた天和二年(1682年)から数えれば、一体今は何年になるかな?」
「76年後になるな」
田沼が驚きを隠せぬまま、頭の中で素早く算盤を弾いて答えた。
「76年!!おおおおおお!
僅か一瞬、心地よく眠っただけであったが、現実には既にそのような夥しい時が流れていたかっ!」
老人は驚きに自らの掌を見つめたが、ふと遠くの林の上に見える寺の屋根に目を留めた。
「ふむ……新築であったものが、確かに古くなっておる」
と、時の冷徹な重みを噛み締めるように低く独白した。
「お武家さま、お宅さまは一体、どちらの、どなたさまで?」
その底知れない存在感に、銭平がたまらず居住まいを正して尋ねた。
老人は一同を真っ直ぐに見据えると、深く一礼してこう名乗った。
「おおおおっ!これは失敬。拙者は甲府藩新番、関孝和と申す者でござる」
「関 孝和だと?!」
「関 孝和……」
「せき…たかかず!」
「関 孝和さま?!」
「関 孝和…あり得ない」
その歴史にその名を刻む最高峰の天才数学者の名を聞いた瞬間、その場にいた全員の叫びが、激しい地鳴りのように異口同音にシンクロして響き渡った。
【カクテルと余白33】江戸の燕⑩に続く

🎼🎹関 孝和のテーマ②を、作者が勝手なイメージでみつけて参りました。
宜しければお聴きください。
✏️ピアノマン
(作曲 : ビリー・ジョエル)
(作詞 : ビリー・ジョエル)
(歌 : 二宮 愛)
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次回は、久々に教育の話題に戻りまして……
🍒「えっ!?そうだったの?」
【カクテルと余白:33】
二次方程式の暗記法です。🔽
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【江戸の燕⑪】が気になる方はこちら🔽
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場所は、赤坂OLD TIMEに戻る。
今夜も、ダイデン大佐、一華さん、そして今回の語り部、香取プロデューサーが賑やかだ。

🍒「やったー!みんな助かったのね?」
🥕「初めの衝撃波は超音速。水素の爆発よりも速かった。
そして、水素は、放っておいてもあっと言う間に拡散してしまう。燃えるよりも早く」
🥃「いやーーこれでついに、70年の時を超えて、関 孝和と平賀源内の江戸時代の二大科学者が揃いました」
🍒「そうよ。『工学部vs理学部』の話しは、いつ始まるのよ!」
🥃「いやー、あははは、実は、それはここからなのですが、本題に入る前の伏線に時間をかけ過ぎてしまいました」
🥕「助長そのものじゃの?」
🥃「まさにそうでした!すみません。
…という訳で、『江戸の燕』いよいよ本題なのですが、まっ!本当にここまで引っ張り過ぎました。
そこで、一旦次回で最終回といたします」
🍒「えーー?なにそれ?」
🥕「テキトー、いんちき…まあ、いかにも我々明治高校じゃな(笑)」
🥃「まあ、お後もまだまだ控えておりまして」
🍒「まあ、なんでもいいわ。どうせ毎回思いつきで書いていたのでしょ?」
🥃「まあ、そんなとこです🎵」
一同の笑い声が、BARカウンターに響いた。
🥕「ところで、我がメイジのチャンテ(チャンス・テーマ)は良いのお」
🥃「応援曲『神風』今年も神宮を席巻した」
🎵
Go !Go !
Go Fight Win!
今だ 打て MEIJI (おー)
ここで一発 MEIJ I
チカラの限り MEIJ I
かっとばせー
🥃皆さん、ぜひ練習して神宮に行きましょう🎵
コンバットマーチ(早稲田)
ダッシュケイオー(慶應)
なんか、もう古いぞー🎵


ラインハルト・ダイデン大佐
【家庭教師管制塔『無限堂』】
🌐 公式ホームページ
https://mugendo1977.com/
無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。
📸 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mugendoofficial?igsh=MTh5ajg3ZGhyMHZ4NA%3D%3D&utm_source=qr
無限堂は、電話・メールによる勧誘は一切行っておりません。
🥕ダイデンのイラスト・ひがしりょう
【カクテルと余白】
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