見出し画像

カクテルと余白:04【数学の詩人①】雪のベルリン・巨匠の門を叩いた少女Season1

前回記事はこちら⬇️
【カクテルと余白3】
数学を愛「さ」なくていい

🎼🎹今回のイメージ曲
✏️約束の地
(リー・オスカー)
 主人公、ソーニャ・コワレフスカヤのイメージ曲を、勝手に選んでみました。
宜しければ、お聴きになりながらお読みください。(音量にご注意下さい)🔽

【BGMのご案内】
 本作をより深く楽しむための「BGMの聴き方」については、本ページ巻末に詳しい解説を掲載しておりますので、ぜひご参照ください。

❄️❄️❄️

【軍靴の音と、孤独な求道者】
 1870年のベルリン。
街は開戦されたばかりの普仏戦争の熱狂に包まれていた。

ちらつく雪の中を、プロイセン宰相ビスマルクの戦功を讃える号外が舞い、雑踏には軍靴の音が規律正しく響いている。

人々が国家という巨大なうねりに酔いしれる中、その喧騒を背に、重厚な石造りの建物の前に立ちすくむ一人の女性がいた。

 ソフィア(ソーニャ)・コワレフスカヤ。年齢は20歳。

豊かな知性をたたえたその瞳は、誰もが振り返るほどの美貌とは裏腹に、鋭い決意を宿していた。

「ここね…」
彼女は小さく頷いた。

「ついに着いた。この家に」
ベルリンの雪は、心なしか彼女の故郷モスクワの雪よりも冷たく感じられた。
芯まで冷えた身体には、サモワールで淹れた温かい紅茶が恋しかった。

 ドアを前にして一瞬立ち止まると、ソーニャは意を決して、ひと呼吸置いた後にその家の呼び鈴を鳴らした。

ソーニャは、憧れの師匠の家に辿り着いた

【出会い:巨匠と「フロイライン」】
 ドアを開けたのは召使いではなく、その家の主人、現代解析学の父と称されるカール・ワイエルシュトラス教授本人だった。

「カール・ワイエルシュトラス先生のお宅ですね?!」
「フロイライン(お嬢さん)……貴女は?」
教授は戸惑った。

突然目の前に現れた少女の美しさは強烈だったが、それ以上に、彼女が纏う切迫した空気が、老学者の知的好奇心を揺さぶった。

「ヘル プロフェッサー(教授先生)ああ!ワイエルシュトラス先生……ご本人でいらっしゃいますね!!本当に、本当にお目にかかりたかったのです。
わたくし…ロシアから参りました。どうか私を弟子にしてください」

初対面の女性からの突然のマシンガン・トークに、ワイエルシュトラス教授は面食らった。

「なんと!弟子にじゃと?!女性である君が?」
若きソーニャは、頭に乗った雪を払おうともせずに教授の目を真っ直ぐにみつめた。

🥕ここで注釈を付けておく。
「女性である君が?」と発言した数学者ワイエルシュトラスは、現代で言う女性差別主義者などではなかった。

そうではなく、1870年という時代にはロシアもドイツも、女性に対する理数系の教育は全く行われてはいなかった。

むしろ、『高度な数式は女性の脳を破壊する』とまで言われ、知識人たちにすらそれが本当に信じられていた時代だった。

また、当時のベルリン大学は、女性の入学を一切認めていなかったのだ。

この時、ワイエルシュトラスは55歳
生涯独身を貫いた

ワイエルシュトラスは、瞬時に判断した。

『確かにこの美しいフロイラインはロシア人のようだ。

しかし、なんと流暢なドイツ語を話すのだ!さぞや身分が高い女性なのだろう。女性としての高等教育を受けてはいるようだ。

しかし……数学者であるこの私の弟子に、あろうことか女性がなりたいと希望するとは?』

二人のドア越しのやり取りを、通りかかった軍人たちが物珍しそうに眺めて行った。

教授は咳払いをして周囲を見渡した。
「フロイライン……弟子にしてくれと言われても、私は神学者でもピアニストでもない。
数学者だよ。女性である貴女に、数学の基礎教育が受けられたはずがない。

なんであれ、何かの間違いでは無いのかな?」

"Also, auf Wiedersehen."
(これまでだ。失礼する)
数学者はドアを閉めて、室内に戻ろうとした。

その時、閉じかかったドアの向こうから、少女の叫ぶ声が聞こえた。

「イプシロン!デルタ!」
「なんだと!?」

ワイエルシュトラスはドアノブに掛けた手を止めた。
「なぜ?それを知っている?!男でも、ギムナジウムを出たぐらいでは知らないはずだ!」
閉めかけたドアを開けると、そこには雪だるまのようになった少女の美しい顔があった。

「極限値で微分を理解するような、そんな感性に頼ったいいかげんな数学ではなく、連続性の真理を……イプシロンとデルタによる厳密性を、あのアイザック・ニュートンも到達できなかったワイエルシュトラス先生の美しい数学を、私は、ヘル プロフェッサー ワイエルシュトラス先生から直接学びたいのです!」

「どこで……それを学んだ?あり得ない」
ワイエルシュトラスは立ち尽くした。
ソーニャはにっこりと微笑んだ。

それは、初めて教授に見せた、二十歳らしい微笑みだった。

「ε-δ!ソーニャは叫んだ」

既に「現代解析学の父」として、その名を世界に轟かせていた天才数学者は驚愕した。

突然ドアの前に現れた、ロシア人の美少女が叫んだその言葉……

「イプシロンとデルタ」

それは、彼が孤独に守り続けてきた数学の聖域を指し示す言葉だったからだ。

🍒Wird fortgesetzt (続く)

🎼🎼🎼
【カクテルと余白』BGMの楽しみ方】
 本作では物語の世界観をより深めるためにBGMを取り入れていますが、もちろんBGMなしでそのまま読み進めていただいても全く問題ありません。

もし音楽と共に物語を味わいたい場合は、以下のSpotifyプレイヤーをご活用ください。
【Spotifyでより深く楽しむために】
Spotifyへの無料登録やログインをお薦めいたします。

ログイン状態で再生すれば、物語を彩る楽曲を「冒頭からフルコーラス」で、最高の音質にてお楽しみいただけます。

もちろん、ログインなしのままでも再生は可能です。

その場合は、楽曲の最も魅力的な90秒間(ハイライト)が自動で流れますので、まずはその雰囲気だけでも感じてみてください。

【操作のコツ】
 再生ボタンを押した際、もしお使いの端末でSpotifyの画面に切り替わってしまった場合は、お手数ですが再度このnoteの画面に戻ってきてください。

バックグラウンドで音楽を流しながら文章を読み進めていただくことで、言葉と音が重なり合う特別な没入体験をお届けできるはずです。🎹🎹🎹

😀😀😀
 なお、このお話しは、史実にある程度は基づいた、ダイデン大佐のいいかげんな空想です。

〈家庭平和維持軍ラインハルト・ダイデン大佐〉

🥃「今夜は一体何の話しやら……この酔っ払いウサギめが?」
🥕「何だと?香取!私のどこがウサギに見える?眼科に行け!」

🥃「はいはい。それで今夜は、「コーシー&コワレフスカヤの定理」のコワレフスカヤですか」
🥕「そう……数学を愛する男ならば、誰しもが憧れる数学の女神の話しだ」

🥃「あれ?大佐は数学を愛していたのでしたっけ?」
🥕「ああ?!……いや。それは……うーん……秘密だ」
🥃「ふーん。そうですか」
香取プロデューサーはニヤリと笑った。

🥃「コワレフスカヤの定理……大学で習った事は習ったけれど、そもそも何のことやら……ちんぷんかんぷんで終わりましたよ。」
🥕「実は私も…ね」
二人はニヤリと笑った。

🍸「お待たせしました。『ダイキリ』です」
赤坂のバー『OLD TIME』のオーナーバーテンダー横瀬氏が、カウンターに並んで座っている二人の男にカクテルグラスを差し出した。

静寂と知性……この言葉が似合うBAR
赤坂OLD TIME

次回【カクテルと余白5】はこちら⬇️

【カクテルと余白】総合マガジン
全話のご案内はこちら⬇️


家庭教師管制塔『無限堂』】
🌐 公式ホームページ
https://mugendo1977.com/
無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。

📸 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mugendoofficial?igsh=MTh5ajg3ZGhyMHZ4NA%3D%3D&utm_source=qr
無限堂は、電話・メール等による勧誘を一切行っておりません。

無限堂のページはこちら🔽
指導例などがございます。

🥕ダイデンのイラスト・ひがしりょう

【あとがき:執筆時のイメージ曲】著者が本編の背景としてイメージしていたテーマ曲です。お時間があれば読後の余韻と共にお聴きください。⬇️

いいなと思ったら応援しよう!