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カクテルと余白:27【江戸の燕⑤】工学部vs理学部Season3

【カクテルと余白:26】番外編
こちらの1編は本稿の巻末にてご案内中。
🥃🥃🥃
【前回のお話しはこちらです🔽】
【カクテルと余白:25】江戸の燕④

🎼🎹今回のテーマ曲
このお話しのイメージに合う曲を探してみました。宜しければお読みになりながらお聴きください。
✏️ 古事記 Reimei
(喜多郎)
シンセサイザー : 喜多郎
(音量にご注意ください)🔽

🥃🥃🥃
1758年9月、江戸。
無人の古寺から続く林の中に、その井戸は突然現れた。
九月特有の鋭い陽光が容赦なく射し貫いていた。

時刻は八つ下がりを過ぎたばかりの、未だ熱気の引かぬ午後二時。

平賀源内を、その井戸の前まで誘った九三の表情が一変した。

「驚かせてしまうかもしれません。私は、ただの娘ではありません。
お上のご命令で動く者……代々、幕府の影として、表に出せぬ事柄を処理してきた一族の者です」

「何だって!!」
源内は言葉を飲み込んだ。
「この古びた井戸が……幕府の要だと言うのかい?」

「はい。ここには、かつての数聖・関孝和様が遺した『秘伝』が眠っていると伝えられています。……源内様、時間がありません。

今、再び異国による『第三次侵略戦争』の足音が聞こえ始めています。
オイロッペの艦隊が、三たびこの江戸を侵略しようと向かっているらしいのです。

これに備えるには、どうしても今日中にこの井戸の封印を解き、中の知恵を手にせねばならぬのです」

「……今日中、か。ずいぶんと急ぐんだね」
源内は吐き捨てるように言った。

九三は、必死に源内の瞳を覗き込んだ。
「お願いです、源内様! あなたのその、常識を超えた閃きを貸してください! ……
私たちでは、どうしてもこの鍵を解けなかった。あなたなら、あるいは……!」

(九三の心の声)
『本当は、今日中に開かなければ、
私は『公儀の者』として、秘密を知ったあなたを消さねばならない。
………嫌。そんなこと、絶対にさせないで、源内様……!』

九三は続けた。
「5年前、母・九瓊(くに)が第ニ次日欧戦争の戦火に消えてからは、私がこの役割を引き継ぎました。

あの日英、日仏の、歴史に残る2つのオイロッペとの戦争において、どちらも幕府軍がわずか数日で勝利を収めた裏には、我ら一族が闇に葬った数多の真実がありました」

「むむむ…」
源内は黙って九三の言葉に耳を傾けた。

🕰️🕰️🕰️
ここで日本史の勉強の時間です。

🕰️1704年【第一次日欧戦争】
銅山水軍はエゲレスと密通し、幕府壊滅後にそのエゲレスをも裏切り天下を奪うという野心を捨てず、ついに品川沖へエゲレス艦隊10隻を進軍させた。
関孝和の事件から、22年後の事である。

エゲレス艦隊(Royal Edo Expedition)
アドミラル・オーガスタス・フィッツロイ

当時のエゲレス(=英国)は、まだアジアに主要な植民地は無く、途中でインドや清に賄賂を使いながら補給をするなど、まさに背水の陣ではあった。

テムズ川沿いデプトフォードを、8か月前に出帆した際には1000人居た兵士も、感染症やビタミン不足、黒潮との戦いなどで死亡者が続出し、その数は半数になっていた。

しかし、フィッツロイ提督は、ひたすら江戸城の地下に眠るとされる黄金を奪うことだけに取り憑かれていた。
エゲレスは、銅山水軍に騙されていたのだ。
この戦いは、戦争というよりは、まさにテロに近い行為ではあった。

しかし、これを事前に察知した幕府は、九三の一族に、隠密の指令を下した。

この令を受けた祖母、九一智(くいち・当時19歳)は、たった一人で敵方に潜入し、東京湾(当時は『品川沖』と言った)の海図を、自分の一族が作った偽物にすり替える工作を完遂した。

その結果、エゲレス艦隊は航路を誤り、陸から遠く離れた地点で全て座礁してしまった。
必然の結末として、兵糧攻めにより全滅。幕府軍の勝利となった。

一方で工作の痕跡を消した銅山水軍は追及を逃れ、幕府が冤罪で薩摩・土佐藩への処分を検討するという、九一智の暗躍が歴史の裏側で決定的な戦果を挙げた。

🕰️🕰️🕰️
🥃「この時の帆船の残骸は、いまでも復元されて残っている」
🥕「ああ……千葉の海岸にある、あの遊園地で乗ることができる奴だな。やーふー🎵」
🍒「良い子のみなさーん。騙されてはダメよおおお」

🕰️🕰️🕰️【幕府の戦後策】
第一次日欧戦争での勝利に酔いしれ、「欧州恐るるに足らず」と慢心した幕府は、国防を疎かにしたまま独裁的な暴政を加速させた。

特に反抗勢力である銅山水軍を経済的に追い詰めるべく、薩摩や土佐といった諸藩に対し「御手伝普請」(=おてつだいぶしん)の名目で無謀なインフラ工事を強行させたが、過酷な労働環境は自害を含む多数の犠牲者を生む惨状を招いた。

【薩摩藩家老・平田靱負】

幕府の過酷な治水工事を完遂後、
多くの犠牲と借財の責任を
一身に背負い自刃。
散った部下を想い、異郷の地に魂を留めた
悲劇の指導者です。

しかし、この非道な弾圧は幕府の意図に反して諸藩の憎悪を煽り、皮肉にも討幕に向けた結束を決定的なものへと変えていく結果となった。

🕰️1753年:【第二次日欧戦争】
その半世紀後、仏蘭西国王ルイ15世の血を引く貴族、アミラル・ド・ロアン。彼はヴェルサイユの栄華を江戸に移すべく、黄金の蔵を狙って動き出した。

今度の出発点は、エゲレスと異なり、母国ではなく、仏蘭西東インド会社の心臓部、インドのポンディシェリであった。
これならば、わざわざ希望峰を回る必要はない。

経由地の清では皇帝の懐刀であるイエズス会宣教師の差配により、最高の食料と水を容易に入手できた。

さらに日本国内では、幕府の重税に喘ぐ銅山水軍の手引きにより、薩摩沖・土佐沖で新鮮な物資の補給ができた。

この時の仏蘭西艦隊の戦力は、最新鋭の戦列艦を含む20隻。
兵員は、訓練された精鋭兵1500名(脱落者ほぼなし)。
さらに、火器: 舷側に並ぶ大砲は合計800門。一斉射撃で江戸の町を文字通り火の海にする破壊力を備えている。

飢えも病もなく、最新の科学と宗教の加護を盾に、仏蘭西海軍は、品川沖へと悠々と進軍を始めた。

フランス海軍
ド・ロアン提督

1753年、初夏の品川沖を埋め尽くしたのは太陽王の末裔アミラル・ド・ロアン率いるフランス艦隊二十隻であった。

水平線を圧する八百門の大砲は泰平の眠りに耽る江戸城を射程に捉え、幕府の威信は未曾有の恐慌の中に瓦解しかけていた。

この絶望的な戦力差を前に、新月の深い闇と海鳴りに紛れ、一隻の小さな『べか』(手漕ぎの小型漁船)が静かに波を蹴立てた。

乗っているのは九一智の娘であり、九三の母、41歳の九瓊(くに)であった。

彼女の手元には血の滲むような演算が書き込まれた数理図表と江戸の潮汐を秒単位まで読み解いた「死の予測図」があった。

九瓊は自らの知性を研ぎ澄まし、艦隊の陣形が描く物理的な「死角」を見定めていた。

流体力学と潮の重なりが交差するただ一点の特異点。
そこは二十隻の巨大な軍艦が、遠浅の湾に侵入するべく、一直線状に並んだ瞬間だった。

巨大船が互いの存在ゆえに逃げ場を失い、物理的に最も脆弱になる『共振』の場であった。

「仏蘭西艦隊の大将どの、その完璧な陣形こそが、貴方自身の墓標よ」

九瓊は単身、絶望的な戦いへと臨んだ。
*満月は演出です。
本当はこの夜は新月でした。
…としておこう。

九瓊は小舟を先頭の旗艦の吸気口へと滑り込ませた。

彼女が放ったのは単なる爆薬ではなかった。
火薬の燃焼効率を劇的に高める触媒と連鎖反応を誘発するための精密な科学的仕掛けのある言わば化学兵器であった。

刹那、品川の海が山のように盛り上がった。一隻の弾薬庫から放たれた衝撃波は、九瓊が計算した通りの反射角で隣艦を直撃した。

ドミノ倒しの如く爆炎が次から次へと戦艦を貫き、誘爆の火柱が天を突く。

鉄と木材が内側から砕け散り、無敵を誇った艦隊はわずか数刻のうちに品川の深淵へと呑み込まれていったのである。

しかし……炎の渦に包まれた中心地、九瓊の姿もまたその光炎の中に消えた。
彼女の遺体は、ついぞ発見される事はなかった。

深夜、江戸の町民たちは、天に駆け上る龍の如き、何本もの日柱を見た。

九三は、日の本を救った母の壮絶なる死を心から嘆いた。

そして、母九瓊の名は、『20隻の戦艦を、たった一人で沈めた女』として闇の世界の伝説として語り継がれることとなった。

🥃🥃🥃

🥃「この二つの侵略戦争はね、テストにはなぜか出ないんだ」
🥕「受験生のバイブル、カワヤマの教科書にもなぜか出ておらん」
🍒「よい子のみなさん、こんなヨタ話しを信じる暇があったら、円周率でも暗記した方がまだマシよ」

🥃🥃🥃

【Part-time lover : 禁断の愛】
「おくみちゃん……あんた……」
源内は、うめくように声を絞り出した。

目の前に立つ、凛とした別人のような九三の姿が、今まで自分の傍にいた可憐な娘と重なり、そして無惨に剥がれ落ちていく。

これまでの献身的な振る舞いも、自分に向けられたあの柔らかな微笑みも、すべては幕府の都合で天才・源内を操るための「ハニートラップ」に過ぎなかったのか。

そう悟った瞬間、源内の胸の奥から煮えくり返るような怒りがせり上がった。

「源内様、申し訳ございません……。ですが、どうか……」
おくみは必死に声を震わせ、謝罪の言葉を紡ぐ。

しかし、源内はその言葉を鋭く遮った。
「どうせ、この鍵が開けられなければ、秘密を知っただけの役立たずとして俺を消すつもりなんだろう?
何のご一族様かぁ知らねえが、ずいぶんと効率的なやり方じゃねえか」

源内は自嘲気味に吐き捨て、おくみを真っ向から睨みつけた。

「俺は、あんたを本気で好いていた。心から好きだった。
そのおまいさんが、幕府の影だろうが何だろうが、そんなこたぁどうでもよかった。
俺を騙してここまで連れてきたことまでは許そう。

だがな……人の心を、恋心という一番脆いもんを弄んだことだけは、断じて許せねえ。

せめて、あんたらの思うようにはさせねえ。仕事だろ?
さあ、ここで俺を殺せよ。さあ、やれ!」
静寂の境内に、源内の叫びが虚しく響き渡る。

その言葉は刃となって、おくみの胸を深く抉った。
彼女の瞳に宿っていた冷徹な『職責』の光が、溢れんばかりの涙によって掻き消される。

おくみは、もはや公儀の者でも殺人マシーンでもない、ただの一人の女として覚悟を決めた。

「違います……想い人がいると言ったのは、嘘だったのです」
おくみは、絞り出すような声で告白した。

「でも……でも、浄瑠璃の話しは本当です。本当に福内鬼外様を慕っていましたから、だから、嘘をついてお断りしたのです。所詮は叶わぬ恋……」

「そうだったのか……」
「本当は……本当は、源内様、あなた様を心からお慕いしています。
もう自分を偽れない!その貴方様を殺すなんて、そんなこと……絶対にできません。

もし、もし今日中にこの鍵が解けなかったら、その時は私と一緒に逃げてください。

幕府からも、一族の宿命からも、私があなた様をお連れして逃げ切ってみせます。

一生を賭けて、死ぬ気であなた様をお守りしますから……!」
その瞳に宿るのは、偽りようのない、痛いほどの純愛だった。

「……まことか?」
源内が低く尋ねる。

その問いが終わるか終わらないかのうちに、おくみは耐えきれず、源内の逞しい胸の中へと激しく飛び込んだ。

恋人たちはいつでも
不思議な時計を持つ
永遠と一瞬(ひととき)が
となりあった文字盤
(呉田軽穂さんの歌詞から)
楽曲名: THE BLACK HOLE🔽

腕の中に伝わる、小さく震える彼女の体温。それは、冷たい影の世界に生きる彼女が、唯一手放したくないと願った「本物の愛」だった。

「そうかい……」
源内は、おくみの肩を優しく叩いた。

「よし、あいわかった。
どっちに転ぼうが、どうせオイロッペの野郎共に、この日の本を易々と明け渡す訳にゃあいかねぇ。

 あんたの本心がそこにあるってんなら、この平賀源内、その鍵を解いてやろうじゃねぇか。おくみ!俺はお前を信じるぜ」

源内の威勢のいい言葉に、おくみはただ黙ったまま、その胸に顔を押し付けた。

幕府の影として、あるいは殺人マシーンとして生きてきた己の宿命をしばし忘れ、このまま時が止まってくれたならどれほど幸せだろうかと、切ないまでの愛しさを噛み締めながら。

🥃🥃🥃

次回【カクテルと余白:28】はこちら🔽

🎼🎹
 今の おくみ の気持ちに相応しいと、作者が勝手に思う曲をみつけてまいりました。
宜しければお聴きください。

✏️THE BLACKHOLE
(曲 : 杉田 理)
(詩 : 呉田 軽穂=松任谷 由実の別名)
歌 : 須藤 薫
(音量にご注意下さい)🔽

【カクテルと余白:26】はこちら🔽

【カクテルと余白:998】はこちら🔽

家庭平和維持軍
ラインハルト・ダイデン大佐

【家庭教師管制塔『無限堂』】
🌐 公式ホームページ
https://mugendo1977.com/
無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。

📸 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mugendoofficial?igsh=MTh5ajg3ZGhyMHZ4NA%3D%3D&utm_source=qr
無限堂は、電話・メールによる勧誘は一切行っておりません。

🥕ダイデンのイラスト・ひがしりょう

🎼🎹
筆者が勝手にエンディング・テーマ曲にしちゃいましたこの曲。今回もお聴きください。
✏️Street Corner』🔽
(Nickolas Ashford & Valerie Simpson)
歌 : ニック&ヴァル

【カクテルと余白】
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