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思い出の名文1 村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『レキシントンの幽霊』

 村上春樹の小説で好きなものはいくつもありますが、思い出深い名文を二つ紹介してみたいと思います。
 先ずは代表作の一つ『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の一節です。

 私自身はどこにも行かない。私自身はそこにいて、いつも私が戻ってくるのを待っているのだ。
 人はそれを絶望と呼ばねばならないのだろうか?
 私にはわからなかった。絶望なのかもしれない。ツルゲーネフなら幻滅と呼ぶかもしれない。ドストエフスキーなら地獄と呼ぶかもしれない。サマセット・モームなら現実と呼ぶかもしれない。しかし誰がどんな名前で呼ぼうと、それは私自身なのだ

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

 内省的な描写の中で、こういう「極め」に来た金言が要所で炸裂するので、村上春樹は「純文学」の作家だと言えるのだと思います。軽快かつハードボイルドな作品の中で、「絶望」「幻滅」「地獄」「現実」といった言葉と「私自身」を並べて見せるところに、作家としての凄みがあります。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は舞台化されていて、上手く演出されています。この作品の舞台化の難しさを考えれば、大成功と言えるのではないでしょうか。映画化も期待しています。

 長編以外でも、村上春樹は様々なジャンルの小説を短編として記しています。『レキシントンの幽霊』は長編6作目の『ダンス・ダンス・ダンス』~8作目の『ねじまき鳥クロニクル』と同時期に書かれたバラエティ豊富な短編集で、「トニー滝谷」が映画化されています。

 ただ『レキシントンの幽霊』の中だと、私が好きなのは、重松清さんの小説のような雰囲気を持つ「沈黙」ですね。

 僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言いぶんを無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、受け入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。彼らは自分が何か間違ったことをしているんじゃないかなんて、これっぽっちも、ちらっとでも考えたりはしないんです。自分が誰かを無意味に、決定的に傷つけているかもしれないなんていうことに思い当たりもしないような連中です。彼らはそういう自分たちの行動がどういう結果をもたらそうと、何の責任も取りやしなんです。本当に怖いのはそういう連中です。

村上春樹「沈黙」

 村上春樹の最新作『夏帆』(7月3日発売)については、8月1日(土)の14時より、三宅香帆さんと宇野常寛さんとお話しします。
 表題は「村上春樹と対幻想ーー家族をめぐる想像力と戦後日本」です。
https://unoshoten17.peatix.com/


 山手線・大塚駅最寄りの「宇野書店」開店一周年記念イベントで、オンライン配信もあります。

 三宅さんの名前と村上春樹の新作の名前が、漢字違いで重なるという偶然。村上春樹の新作『夏帆』は下の内容です。

私はこの世界の出口を見つけなくてはならない――。女性を主人公にした初の長篇小説。

「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだよ」

26歳の絵本作家、夏帆は初対面の男にいきなりこう告げられた。

とびきり美しくも賢くもなく、ただ少しばかり好奇心の強い彼女は、 怒りよりもショックよりも、ただ純粋に驚いた。

――この男はいったい何を告げようとしているのだろう?

しかしそれから彼女の周りでは、実にさまざまな奇妙な出来事が起こりはじめる

 過去の村上春樹作品を総まくりしながら、戦後~現代文学と比較するなど盛り沢山の話になると思います。ぜひ。
https://unoshoten17.peatix.com/

 それと楽天大学ラボの酒井信×三宅香帆×宇野常寛「変わる日本文学」でも村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』などの作品に言及しています。村上春樹をはじめ、数多くの現代小説を取り上げた「読書ガイド」としてお楽しみ頂けます。

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 宇野常寛さんと三宅香帆さんとの過去の対談については、下のリンクにまとめています。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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酒井信 『松本清張の昭和』講談社現代新書『吉田修一と『国宝』の世界』朝日新聞出版 ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!