映画『国宝』は歌舞伎を「殺した」のか? 吉田修一&李相日監督の到達点を語り尽くす
批評家の宇野常寛さんと映画評論家の森直人さんと映画「国宝」について批評座談会を行ないました。
映画「悪人」「怒り」と比較しながら、吉田修一原作・李相日監督の作品の特徴について深掘りした充実した内容でした。
映画『国宝』は歌舞伎を「殺した」のか? 吉田修一&李相日監督の到達点を語り尽くす
https://www.youtube.com/watch?v=Y_q0gmNy7vY&t=1504s

批評座談会でお話しした森直人さんは、李相日監督とも親交があり、長らく李監督の作品を追っており、私は吉田修一さんの小説を『吉田修一論』(左右社)や書評、映画パンフレットの解説などで長らく追ってきました。
吉田修一さんの『逃亡小説集』(KADOKAWA)の文庫解説は私が書いておりまして、恐れ多くも、本の帯に、「小説の最前線に位置する短編集」(解説より) 酒井信(文芸批評家)、とご記載を頂いております。
映画「国宝」の批評座談会では、宇野常寛さんの司会が、上手く私と森さんを「焚きつけて」いて、映画「国宝」の批評として踏み込んだ内容になったと思います。
私も森さんも撮影監督のソフィアン・エル・ファニ(と彼を抜擢した李相日監督の感性)を高く評価しており、このあたりの話は、映画好きの方にも、納得できるのではないかと思います。曽根崎心中が映画で二度描かれ、吉沢亮が徳兵衛とお初の双方を演じる場面で、クローズアップを多用した滑らかなカメラワークが生きていました。
宇野常寛さんの、映画「国宝」は歌舞伎を殺したのか? という問いが刺激的な座談会で、「国宝」はこういう問いが成立するレベルの大ヒット作なのだと思います。宇野さんも森さんも、何気に映画「悪人」や「怒り」の評価が高く、吉田修一作品のファンなのだと思いました。
スタジオ収録ではなく、オンライン収録の動画ですが、再生数も伸びていて、日本映画史に残る大ヒット作、映画「国宝」への関心の高さを感じました。
映画「国宝」の歌舞伎の描写については、「鷺娘」も期待以上でしたが、「二人藤娘」「二人道成寺」に加えて「曽根崎心中」に焦点を当てるとは、さすがと思いました。喜久雄(吉沢亮)が、お初と徳兵衛の両方を演じ、二度「曽根崎心中」が描かれるという構成に、唸りました。
原作だと「阿古屋」がメインになりますが、「曽根崎心中」に喜久雄と俊介の人生を重ねたのが、大ヒットの要因だったと思います。長崎の料亭・花月の冒頭も良く、料亭・青柳前から丸山を見下ろしたシーンもあり、李監督らしい繊細な表現が生きた映画でした。
『国宝』については、朝日新聞出版の「小説トリッパー」(2018年秋季号)掲載の「「からっぽ」な身体に何が宿るか 吉田修一『国宝』をめぐって」という原稿で、詳細を論じています。
原稿用紙換算で50枚ほど。ちなみに「小説トリッパー」の編集長の池谷真吾さんは、朝日新聞のインタビューにも出られていましたが、吉田修一さんの『悪人』と『国宝』の担当編集者です。
「小説トリッパー」の原稿で詳細を論じていますが、『国宝』の冒頭で描かれる料亭「花丸」のモデルと考えられる、1642年創業の長崎丸山の引田屋(現・花月)は「地歌舞伎」の舞台として最古に近いものです。歌舞伎のルーツが庶民の芸能にあったことを考えれば、花月の「地歌舞伎」の舞台は京都の南座や歌舞伎座と共に、由緒あるものです。
この点を踏まえれば、花井半二郎・俊介の「血統」と、喜久雄の突然変異的な「才能」の二項対立は、解消できるものだと私は考えています。渡辺謙が演じる花井半二郎は、喜久雄の才能を見いだした時点から、「地歌舞伎」の文脈を頭に置いていたという点が、この作品のポイントになると私は考えています。
丸山の引田屋で卓袱料理を食べ、酒を飲むことはこのような長崎丸山の歴史を味わうことでもあります。三輪(丸山)明宏さんや吉田さんや私の実家もこの近くです。
丸山・花月は、長崎くんちや少年サッカー、町内会や婚礼などの宴席で、たまに行っていました(昔はお昼が安かった記憶があります)。近年は観光地になりましたが、映画「国宝」でも描かれた、丸山の奥座敷という風情の庭が良いです。
映画「国宝」の冒頭で「関の扉」が引田屋の舞台で上演される場面には、「地歌舞伎」の歴史を踏まえた、歴史的な意味があります。吉田修一さんは、こういう何気ない表現に深い意味を込めるのが上手いです。喜久雄は「鷺娘」や「曽根崎心中」など、1700年代から受け継がれてきた歴史ある演目を通して、半二郎の記憶とともに「地歌舞伎」の伝統を背負い、刷新を試みたのだと思います。
何れにしても映画「国宝」は、吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、高畑充希、森七菜、見上愛、嶋田久作(決めつけ刑事!)など、豪華な演者が生き生きとしていて、良い映画でした。
小説『国宝』については、「小説トリッパー」や『現代文学風土記』で論じて、長らく映画版に期待していましたが、大満足でした。3時間近い、戦後の歌舞伎の歴史を題材とした作品で、『悪人』を超える成功を収めたことが素晴らしく、「李相日監督、吉田修一原作」の次作が早くも楽しみです。
映画『国宝』は歌舞伎を「殺した」のか? 吉田修一&李相日監督の到達点を語り尽くす
https://www.youtube.com/watch?v=Y_q0gmNy7vY&t=1504s

吉田修一作品については、下の『吉田修一論』(左右社)や『現代文学風土記』(西日本新聞社)で詳しく論じています。
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