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スタジオは家だったし、パンツは読まれた日に

第一章 喉の行方とスタジオの行方

 喉の調子は万全だった。なぜなら、事前に専属看護師モスキート エリより“たたかうマヌカハニー”を処方されていたからだ。

 横浜で集合した我々は、ここから1時間30分の旅を一緒に電車で共にすることになる。目指すは、埼玉県。

 東急東横線から直通で向かえるため、横浜集合は合理的な判断のはずだった。

 しかし、この時点で違和感はあった。

 どう考えても最寄り駅から直行した方が良いはずのマイトン氏がわざわざ逆走してきて横浜にきているのだ。時刻は朝7時30分。

「エリさん一人じゃ危ないんで」

 彼は、そう言った。

 なぜだろう。

 マイトン氏は、モスキート エリと二人で会うことがあるはずなのに、なぜ私が二人で会うことは危険になるのだろうか。そして、それに何も反論しないモスキート エリもいったいなんなのだろうか。

 私は、この日ラジオに出演する。

 路地裏になぜだか存在する女優、谷英美さんとの縁から、「ナナコライブリーFM ラジぽて縁結び」への出演が決まった。

 看護師としての責務か、それとも私への愛からなのか、モスキート エリは、私にマヌカハニーを差し出す。私は、真剣に喉を守るため、それを舐める。

「この飴、全然溶けませんね」

「ほんと。全然なくならない」

 なぜかラジオ出演しないはずの二人も、同じように喉を潤している。

 この二人は、いったいなんのために舐めているのだろうか。

 本気で問いただしたかったが、10分おきに“溶けない確認”を繰り返す二人を前に、私は黙るしかなかった。

そりゃそうだろう?アナタたちは、一度でも真剣に舐めたことがあるのかと言いたかった。

 6回目の確認の頃、最寄り駅に到着した。

「ここから、歩いて15分くらいですね」

 モスキート エリはスマホを片手に、長い髪を耳にかける。ペールピンクのインナーカラーが、やけに綺麗に見えた。

 その案内に従い、我々は最近流行りの焼き菓子を頬張りながら歩く。

 集合時間には余裕を持つ。それだけが、社会人コニシ木の子としての唯一の誇りだった。

「エリさんのインナーカラーは、ドンピシャです」

 マイトン氏は、インナーカラーの話になると止まらない。

「ZINEを出してからというもの、みんな入れるんですよ。はるちゃんも、すのうさんも、エリさんも」

 本当にそうなのだろうか。

 本当にマイトン氏のリクエストに女性は、みんな応えているのか。他にもそんな女性たちが存在しているのだとしたら、その真偽を確かめたい。

 インナーカラーを入れた方がもしいるのなら、ぜひ連絡が欲しい。あんなに一生懸命作ったのに、どうやらこのZINEのキャッチコピーは、「読めばインナーカラーを入れたくなる」というキャッチコピーが一番売れるのかもしれない。

「ここです」

 モスキート エリに案内された場所は、どこから見ても「家」だった。私は、こんなところでも「なんのはなしです家」ネタをブッ込んでくる変態看護師に少し嫉妬を覚えたのだが、時間にはまだ余裕があるので、フザけて聞いていた。

「ここは、もう少ししたら我々が一緒に住んだりするようなお家じゃないかい?」

 マイトン氏も笑っている。

「本当にここなんです」

 モスキート エリは、私のプロポーズにも動じずに、冷静に伝えてくる。事態は、思ったよりも悪い方向に進んでいるのではないかと感じた瞬間だった。

 もしかしたら、この家の中にスタジオが隠された秘密の部屋があるかもしれない。そう思うことにしようと、この日のマネージャー役のマイトン氏にインターホンを押すようにアイコンタクトで促したのだが、マイトン氏は敏腕だった。

「押してください」

 明らかに私に言っている。私が押すしかないのか。こういう時は女性の笑顔が、インターホン越しに見るには一番良いのではないかと、モスキート エリを見たのだが、モスキート エリは、何やらペールピンクの輝きを魅せながら電話をしている。

「はい。そうです。よろしくお願いします。見どころは…」

 電話をしながらも、そのしなやかな指先は器用にも、早く押せよコニシ。と、私に向けて指示している。

 家。ここは絶対に家だ。

 誰しも理解しているのか、急に二人とも遠ざかる。ここに来ての他人のフリは、いったいなんなのだろうか。何のために喉を潤した仲間だったのか聞きたくなっていた。

 私は、押した。

 起床してから、5時間。見知らぬ土地で、見知らぬ人の家のインターホンを押した。

 薄々は気付いていた。ここはスタジオではないと。だけど、どこかにそれを認めたくない自分がいた。

 だって、もう集合時間の5分前だからだ。

 閑静な住宅街には、土曜日のインターホンは響き渡るように設計されている。もしかしたら、隣の家からこんにちわがあるかもしれないと覗いてみたりもしたのだが、何の反応もなかった。

 反応がないことに安心したのだが、それは気休めにしかすぎない。

 だって、何も解決していないからだ。

 ここは、どこなんだろう。

 私は、はじめてどこに来てしまったのか知りたくなっていた。

俳優コニシ木の子
電話をかける

「白井さん。はじめまして。コニシです。おそらくなのですが、私、白井という表札のお家の前にいます。私、大丈夫でしょうか」

「コニシさん。はじめまして。ディレクターの白井です。そこは、自宅です。ナナコライブリーのスタジオに来てください」

「ほう」

「今からでもスタジオに来てもらうしか方法はありません。そっからだと1時間くらいかかります」

「10時の待ち合わせですもんね。私の時計を今から1時間戻すので、ギリギリ間に合うと思います。すみません。向かいます」

 今できる最大限の冗談を伝え、私は電話を終えた。なんなら、社会人としての人生も同時に終えた気分だった。

 スタジオだと思っていた場所は、ディレクター白井さんの自宅だった。

 頭には、「なんのはなしです家」とさっきのインターホンが鳴り響いていた。

 なお、モスキート エリとマイトン氏との距離はさらに遠くなっていた。


第二章 川越の妖精と、「なんのはなしです風」

ブース越しの謝罪

「はじめまして。すみません。遅れました。コニシ木の子です。私と白井さんの仲なので、つい出来心で白井さんの自宅収録なのかと思っていました」

 はじめましてで謝罪するのは、これで何度目になるだろうか。いつになったら私は謝罪に慣れることが出来るのだろう。

 「なんのはなしですか」を通して、明らかに謝罪人生を歩んでいる。

 名刺を渡しながら、この日一番の謝罪をし、持ってきていた「なんのはなしです珈」を「みんなも謝りながら描いてるんですよ」と、メッセージを添えてそっと渡す。もしかしたら、この日の謝罪のために珈琲コラボをしたのではないかと、少しだけ感動していた。

 珈琲を温かく受け取っていただき、それと一緒に今後は謝罪銘菓「なんのはなしです菓」などがあったら良いのになと、新しいアイデアが浮かんだりもしていた。

FM775ナナコライブリーエフエム
ラジぽて縁結び
金曜日 21:30〜21:59

 私が出演するのは、
5月1日(金)、15日(金)になる。

 リアルタイムで聴くには、コチラの専用のアプリから聴ける。

 アーカイブ放送もYouTubeでしてくれるという親切さもしっかり同居してくれている。

 番組MCの松本さんは、川越を拠点にラジオMCを勤める帽子屋さんであり、カフェのオーナーでもある。

 お店は、いつも開いているのだが、実際は妖精を見れるピュアな方しか訪れることが出来ないと伝えられた。社会的に言うなれば不定休ということみたいだ。

 ちょっと何言ってるかわからないが、すでに素敵だ。私は、初対面にして松本さんを「なんのはなしですか」の記事のように、本人ごとすぐに回収してしまいたくなってしまった。

 隠せていない妖精感。正面にいるだけでフェアリーテイルを感じてしまう。

何かを私に届けてくれている

 番組の台本を受け取り、打合せをし、本番を迎える。私に課せられた使命は、「なんのはなしですか」を広めること。それしか出来なかった。

 ブースの外にいた、モスキート エリとマイトン氏にブースの中に居てくれるようにお願いした。外だと、2人でどこかに行ってしまいそうだったからだ。

 マイトン氏は、そういうところある。

 ブースに入ってきたタイミングで、ソっと「私の隣に座って良いんだよ」と、モスキート エリにアイコンタクトを送ったのだが、私のアイコンタクトは、一切見てもらえず、一人で恥ずかしくなり、ウインクを連発して誤魔化していた。

 番組がはじまり、自己紹介をし、いよいよ「なんのはなしですか」の魅力を語ろうとしたときに、松本さんからメッセージの紹介をいただいた。

 たくさんのメッセージをいただいたのだが、一発目からとんでもないことになったので、そのまま全文を掲載させてもらう。

「ラジぽて縁結び」をお聞きの皆様、そしてコニシ木の子さん、ラジオ出演おめでとうございます!コニシ木の子さんが提唱する「なんのはなしですか」という魔法の言葉のおかげで、私たちは「仕事の責任範囲」も「人生の過剰適応」も、すべて『パンツの美学』として語る自由を手に入れました。ラジオという目に見えない媒体で、コニシ木の子さんの声がどう「なんのはなし」を体現されるのか……。放送を通じて、この優しくておかしな連鎖がさらに広がっていくことを、パンツを整えながら応援しております!最後に……コニシさん、今日の収録の「ホールド感」はいかがですか?、、、なんのはなしですか?

ラジオネーム 「パンツ職人」より  

 松本さんの美声がヘッドフォン越しに聴こえてくる。間違いなく、「パンツ職人さんから」と言っている。

 ハガキ職人ではなく、パンツ職人。

 これは、なんなのだろうか。

 松本さんから語られるパンツのはなし。

 正面で真剣にパンツについて、読んでいる。

 これは、なんだ。

 番組的にオーケーなのだろうか。不安になり、ディレクターの白井さんを見たのだが、真剣な表情で仕事をしている。このディレクターも、どこかおかしいのではないだろうか。

 そして、もしかして、このメッセージが一番マトモで、もっととんでもないメッセージばかりなのだろうか。

 私は、不安になった。

 これはとんでもないことになった。正面に座りながら、私はモスキート エリとマイトン氏に助けを求める視線を送ったのだが、2人は笑いをこらえるのに必死な顔をしている。

 いい加減すぎる。
 なぜ、この2人はNGを出さないのだ。

 私は、この瞬間に覚悟を決めた。

 松本さんから、感想を求められた。

 私にできることは、一つだけだった。

「こんなの読ませてしまって本当すみません」

 この日、何度目かの謝罪はオンエアに乗ることになる。

 このあとも、立て続けに「なんのはなし」かわからないメッセージが読まれるのだが、自分が作ってしまった「なんのはなしですか」という世界を、あらためてどうかしていると思えた。

 収録後にモスキート エリが、涙ぐみながらディレクター白井さんに、「コニシ木の子にラジオ番組持たせたいんですぅ」と言っていて、連れてきて間違いだったと本気で恐ろしくなった。

 モスキート エリもそういうとこある。

 番組の一本目の収録が終わり、次の収録の間に松本さんにも変化が訪れてくる。

「コニシさん。私も、なんのはなしですかって思うことあるんです。聞いてくれますか?」

 本気で何言ってるんだろう。

 え。私が聞いて、ここでも回収するのだろうか。

 アホなメッセージ職人たちに感化された松本さんは、止まらなかった。世紀末で地球は滅亡すると本気で思っていて、滅亡しない世界を生きてしまい、気付いた時に自分はこの先何をすれば良いのかまったく分からなくなり、その結果帽子屋さんになったはなしをしてくれた。

 そのまま勢いは止まらずに、モヤさまに二回も出演しているということ、カワイイみくじというおみくじをしていること、伊勢原の大山でUFOが目撃できることを私に丁寧に教えてくれた。

 ちょっと何言ってるかわからないです。

 私より面白いのはやめて欲しい。

 このままゲストを代わって欲しい。

 そう思いながらも、二本の収録を無事に録り終えることができた。

 多くのメッセージをいただき、「なんのはなしですか」を体現することが出来たと思います。

 収録後、玄関にて記念撮影をしている時に、松本さんに言われた。

「なんのはなしですかポーズで撮りましょう。こうです」

 最後まで何を言っているのか分からなかったが、言われるがままに、「なんのはなしですかポーズ」が決定した。

公式ポーズが生まれる
皆さんも真似してね
左。親友白井ディレクターと。
次は、ご自宅で
お会いしましょう。

  世の中、何が起きるかわからない。モスキート エリは、感動しながらインナーカラーを魅せ、ピョンピョンと公式ポーズをし、マイトン氏は、ウッスラと目に涙を浮かべて、局のティッシュで拭いていた。

 気付いたら、遠くなっていた2人との距離は戻っていた。

 帰り際、松本さんに言われたことがある。

「コニシさん。キノコの帽子作って良いですか?」と。

なんのはなしですか

 楽しい時間をありがとうございました。

 松本さん、白井さん。ナナコライブリーFMの皆さま。また、呼んでください。

 OA楽しみ。

モスキート エリ編

マイトン氏編



時間の都合上、放送に乗せられなかったラディのハガキ職人としての今後の活躍を祈り、全文掲載させていただく。

そして、カットされなければ、

パンツ職人
どうかしていると鹿
コハクシス
モスキート エリ
えむのマイトン
あわい雪

が、ハガキ職人デビューしたことを添えておく。

そして、ラディ。この人もいったい何を言っているのだろうかと、この記事のエンディングに添えさせていただくことにする。お疲れ様でした。


東武東上線沿線に20年以上前に住んでいた者です。東京に憧れた田舎者の私は、大学進学を良い理由に胸を躍らせて上京しました。……ところが、実際に住んだのは埼玉でした。当時の私は「東京に住んだ」と言いたい気持ちと「でも住所は埼玉だしな…」という微妙な現実の間で揺れていました。しかも都内に出るまでが意外と遠い。乗り換えや急行待ちを経て、やっとの思いでたどり着く東京。憧れはあるのに、物理的にちょっと遠いんです。

ある日、居眠りをしていたらそのまま寄居まで乗り過ごし「ここどこやねん!?」と軽い旅気分を味わったこともありました。東京に出るつもりが、だいぶ埼玉を満喫していました。

でも、住めば都とはよく言ったもの。広い空、ほどよい自然、気取らない人の距離感、そして都心にも行ける安心感。東武東上線沿線の埼玉は、驚くほど住み心地が良かったんです。

気がつけば「東京に憧れて来たはずなのに、埼玉が好きになっている自分」がいました。あの頃の私に言いたい。東京じゃなくてもいい、いや、むしろ埼玉最高だと。東武東上線沿線の埼玉、今でも大好きです。

俳優のコニシ木の子さんが「ラジオぽてと」さんに出演すると聞き、不思議な縁を感じております。本日を期に「なんのはなしですか」旋風が埼玉中にいや日本中世界中に拡がることを心から願っております。

ラジオネーム ユーカリ・ラディアータ

 読めば読むほど、「なんのはなし」かわからない。最高です。

 メールをくれた方。ありがとうございました。ご自分のメッセージは、記事に掲載しても良いそうです。ON AIRをお楽しみに。

最高の日になりました。

なんのはなしですか

 

 


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コニシ木の子🍄クラファンは8.31まで🐙次回回収は8.24から8.28まで🛸 いただいたお気持ちは「なんのはなしですか」に関連する活動に使わせていただき、人に会いに行ったり、呑んだり、遊んだりとそれをまた記事にして有効に活用させていただきます。