タンパク質は1日どれくらいとればいいのか|筋肉と長寿で答えが変わる理由
筋トレを始めて17年。タンパク質は、ずっと多めにとってきた。筋肉を増やすなら、少ないより多いほうがいい。ここは今も変わらない。
ところが2026年、タンパク質を減らす研究をまとめた総説が出た。タンパク質や一部のアミノ酸を減らすと、血糖や体脂肪が改善する。動物では寿命まで延びていた¹⁾。
筋肉には多め。長寿には少なめ。
では、1日にどれくらいタンパク質をとればいいのか。
少し前、ホエイプロテインの一部をソイプロテインへ替えた記事を書いた。あの記事で考えたのは「何からタンパク質をとればいいか」。今回は「1日にどれくらいタンパク質をとればいいか」だ。
筋肉と長寿の両方を考えたとき、現実的にはどのくらいがよさそうか。今回は、この総説を手がかりに考えてみたい。
多めにとると、筋肉と減量には有利
米国で長く使われてきたタンパク質の推奨量は0.8g/kg/日。2005年から続く数字だ²⁾。2025–2030年版の米国食事ガイドラインは1.2〜1.6g/kg/日を新しい目標として掲げた³⁾⁴⁾。
体重70kgなら、0.8gで56g。1.2gで84g。1.6gで112g。2.0gで140gになる。
時代のトレンドとしては、タンパク質はだんだん多めにとるよう勧められるようになってきている。
多めにとる利点は、満腹感を得やすく、減量中にも筋肉をキープしやすいことだ。
筋肉を増やしたい人では、もう少し多めの1.4〜2.0g/kg/日がよく勧められるけれど、メタ解析では、筋肥大への上乗せは1.6g/kg前後でだいたい頭打ちになった⁵⁾⁶⁾。
もちろん、1.6g/kgはあくまで平均で全員の上限ではないから、筋肥大を最優先する人、トレーニング量がかなり多い人、あるいは地上最強の生物を目指している人なら、もう少し多めにとるのも個人的にはアリだと思う。

ここまで読むと、「なら、タンパク質は多めにとればいっか」と思う。
実際、筋肉のことだけを考えたら、多めが良いのは間違いない。
ただ、健康や長寿のことまで考えると、話はそこまで簡単ではない。
タンパク質や一部のアミノ酸を減らしたほうが、代謝がよくなり、寿命が延びるかもしれないという研究が増えてきたからだ。
少なめにすると、血糖や脂肪には有利。動物では寿命も延びた
ヒトの試験でも、タンパク質や一部のアミノ酸を少なめにした側で、体重、体脂肪、血糖、インスリンの効きが改善した報告がある。
2016年の試験では、たんぱく質を制限すると、カロリーが増えたにもかかわらず、体重、体脂肪、空腹時血糖が下がった¹⁾⁷⁾。2025年の健康な男性の試験では、タンパク質を炭水化物に置き換えた群で、インスリンが効きやすくなった⁸⁾。メタボリックシンドロームの人を対象にした試験でも、体脂肪、血糖、脂質、炎症の指標が改善している⁹⁾。
さらに動物では、代謝だけでなく寿命まで延びた。
タンパク質全体を制限したマウスでも、寿命延長が確認されている¹⁰⁾。別のマウス研究でも、最も長生きしたのは、タンパク質が少なく炭水化物が多い食事だった¹¹⁾。これは個人的にはかなり意外だった。

その後、「タンパク質の何を減らすのが大事なのか」を調べる研究が進んだ。そこで詳しく調べられてきたのが、タンパク質をつくる一部のアミノ酸だ。
例えば、筋トレをする人にはおなじみのBCAA。ロイシン、イソロイシン、バリンの3つをまとめた呼び名になる。筋肉をつくる材料として大切だ。
このうちイソロイシンを約3分の1まで減らしたオスのマウスでは、寿命が約33%延びた¹²⁾。BCAAとは別のメチオニンも、体に欠かせないアミノ酸だ。これを減らしたオスのラットでは、寿命が約30%延びた研究がある¹³⁾。
2026年7月には、BCAAの一つであるバリンだけを減らした研究がNature Agingに発表された。総カロリーは変えず、バリンだけを約3分の1まで減らした食事を、生後4週から一生続けさせた。
すると、オスの寿命は23.4%延びた。 血糖や虚弱など、健康寿命に関わる指標は雌雄ともに改善した¹⁴⁾。(不思議なことに、メスの寿命は延びなかった。論文では、メスは体内でバリンを保ちやすく、今回の減らし方では足りなかった可能性が考察されている。この性別による違いは今後の研究が待たれる)
自分が筋トレを始めた17年前はBCAAが大流行りで、みんな部活中や筋トレ中にガブガブ飲んでた。長年コツコツ飲みまくってきた自分としては、こういう研究を読んでちょっと心配になった。
とはいえ、たんぱく質を制限したら全部よくなるわけではない。血糖や長寿には有利でも、筋肉を増やすには不利になりやすい。筋肉を増やすことも、長く健康でいるためには大切だ。
このジレンマが、タンパク質の話を難しくしている。
なぜ、答えが逆になるのか
タンパク質の材料が入ると、細胞は「今は作っていい」と判断する。その合図の中心にあるのがmTORC1という仕組みだ。
mTORC1が動くと、筋肉を含む新しいタンパク質が作られ、細胞の成長も進む。筋トレ後には必要な反応になる¹⁾。
反対に、タンパク質や一部のアミノ酸を減らすと、mTORC1の働きが弱まり、細胞内の古い部品を分解して再利用するオートファジーが動きやすくなる研究が多い¹⁾。
多めにとると「作る」。少なめにすると「古いものを片づけて再利用する」。
タンパク質を減らすと長寿の方向に働くかもしれない理由が、ここにある。成長を少し休ませると、細胞内の古いものを片づける時間が増える。この片づけがうまく回らなくなることは、老化や加齢の病気とも関わるとされている¹⁾。
断食が注目される理由の一つも、栄養が入らない間にmTORC1の働きが弱まりやすいことにある¹⁾。
実際、mTOR経路を抑えるラパマイシンは、マウスで寿命を延ばした代表的な薬の一つだ。高齢になってから投与を始めても、オスとメスの両方で寿命が延びた¹⁵⁾。
ヒトでも加齢に関わる指標を調べた研究はある。ただ、ヒトの寿命を延ばすかはまだ分かっていない¹⁶⁾。
ただし、mTORC1だけで全部は説明できない。バリンを減らした最新研究では、肝臓のmTORC1はむしろ上がっていた。それでもオスの寿命は延びている¹⁴⁾。バリン制限には、mTORC1とは別の仕組みも関わっていそうだ。
成長の仕組みは、がん細胞も使う
mTORC1は、細胞の「成長スイッチ」に近い。悪者ではない。筋肉を増やすときも、傷ついた細胞を修復するときも必要になる。
ただ、このスイッチはがん細胞も使う。

正常な細胞では、必要なときだけスイッチが入り、役目が終われば下がる。がん細胞では、このスイッチがオンになり続け、細胞の増殖を支えることがある¹⁷⁾。
mTORを抑える薬が、一部のがん治療に使われているのはそのためだ¹⁸⁾。正常な細胞の成長と、がん細胞の増殖は、同じ仕組みを使っている。
食後や筋トレ後にmTORC1が一時的にオンになることと、がんで常にオンになり続けることは別だ。
これは、タンパク質やホエイを多くとると、そのままがんになるという意味ではない。ただ、少なくともこの点からも、タンパク質はとればとるほど良いとは言えない。
タンパク質を減らさないほうがいい人もいる
総説は、タンパク質制限で害が出る可能性のある人も挙げている¹⁾。
妊娠中の人。成長期の子供。すでにカロリーを減らしている人。怪我から回復している途中の人。食欲や体重が落ちている高齢者。
もともと足りていない人が、長寿研究を理由にさらに減らすと、むしろ害になりかねない。
外来で会う高齢の患者さんは、摂りすぎより不足を心配する場面のほうが多い。長寿のために減らす話が、いちばん減らしてはいけない人へ届くことがある。タンパク質が足りないままだと、筋肉が減っていくサルコペニアのリスクも上がる。
腎臓の病気などで食事指導を受けている人も、一般論だけで増減を決められない。病状や治療内容で前提が変わる。その場合は、主治医や管理栄養士から受けている食事指導が優先される。
ここまでが、研究から言えることだ。残るのは、自分の生活へどう戻すかになる。
何を優先するかで、量は変わる
タンパク質の量は、目的を決めないと決まらない。
筋肉を増やしたいのか。血糖や体脂肪も気にしたいのか。何十年後のがんを含めた病気のリスクまで考えるのか。20歳のアスリートと、80歳で筋肉も落ちている人に、同じ量を勧めるのは無理がある。
何を優先するかを決めないまま、一つの数字を全員の正解にはできない。
これを読んでいるほとんどの人は、20歳のアスリートと、80歳で筋肉も落ちている人の中間にいると思う。筋肉もつけたいけど、健康長寿でもいたいはず。

自分も40代に入り、筋肉だけでなく、血糖、体脂肪、がんを含む将来の病気まで一緒に考えるようになった。周りで生活習慣病になった人、若くしてがんになってしまった人も増えてきた。最愛の家族や子供もいるし、筋肉のことだけを考えて生きていける年ではなくなったように思う。
自分も含め、そういう人がどうすればいいのか。今までの研究を総合して、現時点での自分の思う最適解を書いてみたい。
🚩ここから先は、40歳を過ぎた自分が最終的に何gを選んだのかを書きます。海外の有名な健康情報の発信者たちがどうしているのかと比べながら、量以外にタンパク質で意識していること、肉やホエイだけに頼らなくなった理由までまとめました。
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