ホエイ一択で17年。40代でソイプロテインを買い直した理由
大学2年生の時、部屋に10kgのソイプロテインの袋が鎮座していた。
袋が大きすぎて、飲み物というより土嚢。部屋のドアに立てかけるとちょうどよく止まるので、しばらくドアストッパーとして働いていた。
当時の自分はお金がなかった。筋トレはする。プロテインも飲む。
だから一番安かったソイプロテインを、何も考えずにバルク買いした。
ところが、アメフト部の先輩に言われた。
「それ飲み続けたら、エストロゲン出まくって弱くなるぞ。女性化乳房になるぞ」
真顔だった。翌日、入部したばかりの後輩に10kg全部あげた。部屋に10kgの土嚢を置いていかれた後輩の困惑した表情だけ、今でも妙に覚えている。
それから17年。自分はほぼホエイ一択で来た。トレーニング歴も17年になった。プロテインに使った金額は、怖いので計算したくない。
ソイは安いだけ。ホエイの下位互換。筋肉を増やすならホエイ。ソイは節約したい人の選択肢。自分の中では、長い間そういう扱いだった。
でも、最近の論文をまとめて読み直して、その考えが変わった。
「ソイも意外と悪くない」ではなかった。17年間、大事な選択肢を捨てていた。自分が見落としていたのは、安さ以外の価値だった。
なぜ、17年も疑わなかったのか
先輩の一言だけで、17年間も考えが固定された。そう書くと、自分でもかなり単純に見える。
ただ、当時の自分には信じやすい条件がそろっていた。先輩は真顔だった。女性化乳房という言葉は怖かった。ソイには「植物性だからなんか弱そう」という印象もあった。
その後に飲み始めたホエイで、特に困らなかったことも大きい。筋トレは続いた。ソイをもう一度調べる理由がなかった。
健康情報の思い込みは、間違った瞬間より、その後に困らないことで長生きする。
先輩の真顔は覚えているのに、反対側のデータは一度も確かめなかった。ソイの成分より、そのことのほうが引っかかった。
ソイプロテインでは筋肉がつかない。本当にそうか
ソイの話をすると、今でも同じ反応が返ってくる。
「筋肉つかないんでしょう?」
「テストステロン下がるんでしょう?」
昔の自分も、まったく同じことを信じていた。

1: 大豆タンパクと乳タンパクで筋肉量の増え方に差はなかった
2025年の系統的レビューでは、植物性タンパク質と動物性タンパク質を比べた43本の臨床試験がまとめられた。植物性全体では筋肉量がわずかに不利だった。ただし、米やエンドウなども含めた結果だ。
大豆タンパク質と乳タンパク質を直接比べた17本に絞ると、筋肉量の増え方に統計的な差はなかった。差の大きさはSMD−0.02。ほぼゼロである。¹⁾
もちろん、ソイとホエイがまったく同じという意味ではない。ホエイはロイシンが多い。飲んだ直後の筋タンパク合成も立ち上がりやすい。トレーニング直後の1杯なら、今でもホエイは優れている²⁾。
一方、数カ月単位で実際の筋肉量を比べると、大豆タンパク質が乳タンパク質に劣る結果は確認されなかった。筋肉は、飲んだ直後の反応だけでは決まらない。1日の総タンパク量。トレーニングの質。睡眠。続けられるかどうか。そちらの影響も大きい。
「ホエイのほうが直後の反応は大きい」。これは正しい。
「だからソイでは筋肉がつかない」。 これは言いすぎだ。
2: 通常量のソイでテストステロンは下がらなかった
ソイを飲むと男性ホルモンが下がる。大豆イソフラボンで女っぽくなる。この話も、ネットに長く残っている。
2010年のメタ解析では、総テストステロンと遊離テストステロンなどが解析された。男性ホルモンに関わる指標への影響は確認されなかった³⁾。2021年に対象を増やした更新版でも、結論は変わっていない⁴⁾。
2025年には摂取量ごとの解析も出た。高用量では一部のホルモン値がわずかに動いたが、「ソイで男らしさが失われる」を支える結果ではなかった⁵⁾。
臨床試験の範囲では、食品やプロテインとして普通にとる量でテストステロンが下がる結果は出ていない。何杯でもいいという話ではないけど、1杯を怖がる理由にはならない。
昔の自分は、この区別ができなかった。動物実験。極端な症例報告。ネットの強い言葉。それを全部まとめて飲み込み、10kgのソイを手放した。
ここまで調べて、少なくとも「筋肉がつかない」「男性ホルモンが下がる」という理由でソイを避け続ける必要はないとわかった。
それでも、すぐに買い直したわけではない。ホエイで困っていなかったからだ。
それでも、筋肉のデータだけならソイプロテインは買い直さなかった

買い直す決め手になったのは、筋肉ではなかった。
LDLだった。
外来でよく会うのは、健診でちょっと引っかかる人だ。LDLが少し高い。血圧が130台。薬を始めるかどうか、まだ迷う。本人も「生活で何かできますか」と聞いてくる。
こういう人に、生活を全部変える話をしても続けにくい。会食をゼロにする。毎日自炊する。酒を完全にやめる。そこまでできる人は多くない。一方、毎日飲んでいるプロテインを替えるだけなら試せる人はいる。
2024年に、牛乳を豆乳へ置き換えた臨床試験のメタ解析が報告された。17本の試験、計504人。中央値で1日500mLの豆乳を飲み、大豆タンパク質として約22gをとっている。⁶⁾
LDLコレステロールは約7mg/dL下がった。上の血圧は8mmHg、下の血圧は4.7mmHg低下した。ただし、血圧は5試験だけだった。研究間のばらつきも大きい。LDLほど確かな数字としては扱えない。
この研究は、ソイプロテインパウダーそのものを試したものではない。牛乳を豆乳へ置き換えた短期間のデータだ。確認されたのは、心筋梗塞や脳卒中が減ったことではなく、LDLや血圧という途中の数字の変化である。薬の代わりになる話でもない。
約7mg/dLは参加者全体の平均で、全員に同じ変化が起きたわけではない。ソイプロテインへ替えて、同じ結果になるとも限らない。
20代の自分なら、この程度の差だけでは買い直さなかったと思う。
でも40代に入ると、プロテインに求めるものは筋肉だけではなくなる。LDLが下がり、血圧も良い方向へ動く可能性があるなら、長い目では血管にも少しプラスかもしれない。
普段飲んでいるホエイの一部をソイに替え、次の健診や採血でLDLを確認してみる。自分には試す価値があると思った。
それが、17年ぶりにソイを買い直した理由だった。
買い直した。でも、ホエイはやめなかった
20代で筋肉を最優先するなら、ホエイ中心でいい。40代になり、LDLや血圧も気になり始めたら、トレーニング直後はホエイを残し、朝や間食で飲む分をソイに替える。
40代なら全員ソイという話ではない。優先するものが20代のころとは変わっただけだ。
トレーニング直後はホエイ。朝や間食ではソイも使う。自分の答えは、使い分けだった。
🚩ここから先はメンバーシップ限定です。ソイに少ないBCAAとメチオニンを、長寿研究ではどう考えるのか。イソフラボンは1日1杯で気にする量なのか。ホエイを飲むべき場面と、ソイにすべき場面を決める考え方まで書きます。
ソイのBCAAとメチオニンが少ないのは、本当に弱点なのか
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