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ピーター・ティール(トランプ政権の影の大統領)の終末論

前稿で少し書いたように、今回のイラン戦争の原因には、ユダヤ教シオニズムとキリスト教シオニズムの終末論があり、付け足すならシーア・12イマーム派の終末論もあります。
トランプ政権に関して言えば、シオニストは、資金的にも票としても強力な支持勢力です。

ですが、トランプ政権には、別の支持勢力があり、そこには「影の大統領」と呼ばれる人物がいます。
テック右派のピーター・ティールです。
彼は、非宗教的で文化的な終末論を持っています。

今回の戦争は、軍事的AIシステムの使用が加速している戦争でもあります。
その中心にいるのは、パランテイアの共同創業者のティールです。
彼は、トランプを支援するテック右派の中心人物でもあり、新軍産複合体の中心人物でもあります。

ティールは、PayPalやOpenAIの共同創業者でもあり、哲学の学位を持ち、テック右派の思想的中心でもあります。

また、漫画・アニメ「ワンピース」の世界政府・終末論のテーマに興味を持ち、それと左派のグローバル・エリートが進めている世界政府計画を重ねつつ、それを「反キリスト」的なものとして反対しています。

ティールは思想的にルネ・ジラールの影響を受けていますので、本稿では、ジラールの終末論も扱います。

また、付論として、かつて、トランプ政権の「影の大統領」と呼ばれた、もう一人の人物、反グローバリストのスティーブン・バノンの終末論も紹介します。
彼の終末論も、文化的な終末論です。

前稿では宗教的な終末論を幅広く取り上げましたが、本稿が扱うのは、近未来にカタストロフ的事態が起こりそうだと考え、それを抑止するための技術、方針を主張する、という意味での「終末論」です。

←ピーター・ティール →スティーブン・バノン
from wikipediawikipedia


テック右派とAIと終末論と戦争


ティールに限らず、多くのテック系の大物起業家は、終末的カタストロフを真剣に懸念し、対策を考えていることは、知られています。

例えば、AI開発者達が、AIの暴走によって人類に破滅的事態が起こることを、きわめてリアルに考えています。
それ以外にも、核戦争、感染症(生物兵器)のパンデミック、社会的分断、気候変動など、様々な原因の可能性が考えられます。

そのため、彼らの中には、ニュージーランドの広大な土地に、終末を生き延びるためのシェルターと自給自足のインフラの準備をすでにしている者たちもいます。

また、イーロン・マスクの火星計画には、地球に住めなくなった時のバックアップの準備という側面があります。

これらの避難計画は一部の人間のためのものなので、ナオミ・クライン&アストラ・テイラーは、テック右派(テック・リバタリアン)の思想を「終末ファシズム」として批判しています。
ですが、この批判には、左派的な立場からの強引な曲解があると思います。

テック右派には、人間全体や国のカタストロフを避けようとする考えもあります。


テック左派(グーグル、アップル、メタなど)は、社会的リスクを恐れて、技術を制御すべき、国際協調を重視すべき、といった主張をする傾向があります。

それに対して、テック右派(ティール、イーロン、ベソスなど)は、アメリカがAIなどの技術開発の遅れによって、他国(中国)との戦いに敗退することを恐れます。
そのため、技術開発を加速させ、国防と連動させることを主張します。

ティールが創業したパランティアは、アメリカの諜報機関や警察、軍隊に国防、安全保障の基盤となるシステムを提供しています。

米軍に提供しているシステムは、衛星・ドローン・通信・諜報などの膨大なデータを統合し、敵の位置、行動パターン、脅威評価を抽出し、標的候補の提示や優先順位付けまで行います。
つまり、戦場オペレーティング・システムであり、意思決定支援プラットフォームです。
このシステムによって、従来の人力での作業に比べて、数十倍以上の速度で、従って、一定時間に数十倍以上の規模の対象を判定して、攻撃が可能となります。

ティールは、テック左派のグーグルが、倫理的問題から同様の事業から距離をとったこと、しかし、中国と協力していることを批判しています。

ちなみに、このシステムには、多数の層でAIが使われますが、その中には、アンソロピックのAIも使われています。
アンソロピックは、軍事標的への攻撃の最終承認を人間が行うこと、そして、国民の大規模な管理のために使わないことを、AI使用の契約条件にしていました。
これに対して、イラン戦争直前に、トランプ米軍が、この条件の撤回を迫り、アンソロピック側が断ったため、契約をOpemAIに切り替えたと、いう説があります。
ティールがこの件にどう反応したかは不明ですが、思想的にはアンソロピック側に近いのではないでしょうか。


ルネ・ジラールの終末論


ティールは、スタンフォード大学で哲学の学位を取得しています。
ルネ・ジラールを恩師としていて、ジラールの思想にきわめて大きな影響を受けました。
ちなみに、ジラールはカトリック、ティールはプロテスタントですがシオニストではありません。

ジラールは、欲望の模倣(ミメーシス)理論をベースにして、暴力(スケープゴート)と宗教(キリスト教など)の関係を独自に理論化したことで知られています。

ジラールの理論によると、人間の欲望は他者を模倣して形成され、同じものを求めて競争し、嫉妬が生まれるため、社会は不安定になります。
その時、集団でスケープゴート(供犠)に暴力を向けて、それを無意識に正当化することで、安定を取り戻してきました。

ですが、イエスの受難が、スケープゴートが無実であることを可視化して、そこに正当性がないことを暴露してしまいました。
それでもスケープゴートの暴力は必要なので、キリスト教世界では、その正当性が不安定化した形で継続されることになってしまいました。

ジラールは、「ヨハネ黙示録」が描く終末が、この従来のスケープゴートのシステムが機能しなくなって、暴力が制御不能なった状態だと解釈します。
「最終戦争」とは、スケープゴート的暴力を相互に増幅して全面化した状態です。

これに対して、「終末の救世主」は、この人間の暴力の連鎖を最終的に暴露しきって可視化することで、暴力の正当性を無効にし、抑制する存在です。


ピーター・ティールの終末論


ティールは、2025年に、サンフランシスコで、「反キリスト」と題した終末リスクに関する4回の集中講座を行いました。
また、その前年、同年に、「ニュー・ヨーク・タイムズ」などに掲載されたインタビューでも、終末に関して語っています。

ジラールは、「模倣」が社会の不安定と暴力を生むと考えましたが、それを受けて、ティールは「独創的なイノヴェーション」がそれを解決すると主張します。
ですから、彼にとって、イノヴェーションを規制するものが「反キリスト」なのです。

ハルマゲドンを避けるために、人間を管理し、イノヴェーションを規制すること、あるいは、スケープゴートのシステムを隠蔽することは、「反キリスト」的行為です。

これには、AIなどの技術の規制を考えるテック左派にも当てはまるでしょう。

また、ティールにとっては、環境保護思想も否定されるべきものです。
なぜなら、危機を強調して統制を正当化して技術を停滞させるものであり、また、化石燃料産業などのスケープゴートを作るものだからです。
ですから、グレタ・ドゥンベリについても、「反キリスト」勢力として批判しています。

もちろん、ティールは、他方で、福音派(シオニスト)の宗教的終末論も否定します。
それは、暴力的なハルマゲドンを生むものだからです。

トランプは、イランの暴力の抑止を理由としてはいますが、イランを悪として、自分をキリストのように暗示して戦争をしています。
ティールにとっては、こういう戦争にパランティアのシステムが使われることは、望まないことではないでしょうか。


ピーター・ティールの国家観とトランプ支持


ティールはリバタリアンとして出発したので、自由を制限する国家は望ましくないもの、必要悪的なものと考えます。

PayPalも、国家や銀行から独立した通貨送金プロジェクトとして構想したものでした。
それに、シーステディングという公海上(国家主権の及ばない海域)に浮かぶ都市を建設し、独自の統治を行うというプロジェクトに出資したこともあります。
これは、「ワンピース」の「世界政府に対する自由の海」というテーマに合致します。

ですが、ナショナリスト的側面も持つようになりました。
それは、無能な国家はよりは有能な国家の方がましだからです。

それに、ティールはグローバリズムを批判します。
彼は、現実のグローバリズムを「自由な市場」ではなく、「超国家的な規制ネットワークとエリート達の利権の体系」と見ていて、また、アメリカの国内産業を空洞化させるものだからです。

ティールは、暴力を防ぐために、高度な監視、情報統合・分析が必要だと考えます。
ですが、それによって、自由の制限や、情報の不透明性が生まれてしまいます。

それでも、中国や、左派グローバリストが進めようとしている世界政府(NWO)の管理主義に比べれば、ベターなものです。
そういった管理モデルでは、必要以上の自由の制限があり、権力の集中があり、情報の隠蔽があるからです。

現実においては、他国、他の管理システムに勝たなければいけません。
ですから、ティールは、国防・安全保障のために、政府と組むことを選択します。
つまり、軍事・安全保障のAIは、核と同様の、抑止的な必要悪なのです。


ティールは、トランプを支持しています。
彼の思想からすれば、民主党の大きな政府や管理主義、グローバリズム、リベラリズム、環境保護政策などは、支持できないものなので、トランプを支持することが理解できます。

ですが、ティールがトランプを支持する理由には、彼の終末論もあります。

トランプは、ほぼすべてのメディアから叩かれる存在、つまり、スケープゴート的存在であり、スケープゴートのシステムを可視化する存在でした。
そして、政治の世界の部外者であり、従来の政治システムを破壊できる者でした。
これが、ティールがトランプを支持した理由になっています。


付論:スティーブン・バノンの終末論


ティールには、一種のエリート主義があります。
イノヴェーションは、少数派者にしか望めないからです。
もちろん、これは開かれた能力主義のエリート主義ですが。

それに対して、スティーブン・バノンは、一般国民の立場から考える反エリート主義者です。
ちなみに、彼はカトリックであり、シオニストではありません。

バノンは、トランプ政権第一期に「影の大統領」と呼ばれた人物です。
彼は、初期のトランプ運動のイデオローグの一人であり、大統領選の最高責任者、ホワイトハウスの首席戦略官でした。

バノンは、反エリート主義右派、反グローバリズムの政治的論客であり、政治戦略家、そして、右派サイト「ブライトバート・ニュース」共同設立者です。

そのバノンも、文化的な終末論思想を持っています。

バノンは、歴史学者のウィリアム・ストラウスとニール・ハウの説に基づいて、アメリカ史を約80〜100年周期のサイクルで捉え、最終段階に「第四の転換」と呼ばれる大きな危機が訪れると考えました。
そして、この危機は、政治・経済的な制度の崩壊、大規模な対立や戦争などを経て、社会秩序の再編に至ります。

バノンの特徴は、ストラウスとハウの説を、文明衝突的な視点、ナショナリズム、宗教的な善悪対立の感覚を重ねて、より「終末論的」な語りにしたことです。
そして、「第四の転換」が、西欧文明全体の崩壊でもあるとしたことです。

バノンは、その原因となる主敵を、グローバル・エリートであるとします。
アメリカの政治・行政においては、それはディープ・ステイトになりますが。
ですから、彼は、ウォール街の金融資本家やダボス会議を批判します。

バノンの語りにある、分かりやすく敵を特定する二元論的な構造は、トランプ運動の大きな力になったのでしょう。

バノンの反グローバリズム終末論は、反NWOの終末論や、Qアノン系の終末論、あるいは、プレッパーと呼ばれる備蓄マニアの終末論と相性が良いと思えます。

ですが、バノンは、具体的な陰謀の主体を語るのではなく、原理的、構造的に語り、プレッパーのような個人的実践ではなく、社会的な問題を語る点で異なります。


*本稿では、トランプ支持者と親近性がある、反NWO終末論、Qアノン系終末論、またその逆の、左派グローバリストと親近性がある、環境変動終末論、パンデミック終末論、人口増加終末論などについては取り上げませんでした。
これらは、陰謀論と呼ばれるのに実際にはそうでなかったり、陰謀論を呼ばれないのに実際はそうだったり、単なる陰謀論だったり、妄想だったりするもので、いろいろと差し障りがありますので。



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