ロンドン不動産市場での高級物件の下落理由
最近ロンドンでは住宅価格の下落が目立つようになってきました。
世界的には住宅価格の高騰が続いている国が多い中、ロンドンではなぜこうした下落が起こっているのか。ロンドンも長らく価格上昇が続いてきた地域なので、この変化には大きな理由があります。この記事ではロンドンの不動産市場の動向について解説します。
高級住宅を中心に低下するロンドン不動産市場
ロンドンの住宅価格の下落、特に大きく下がっているのが高級物件です。高級住宅街として知られるチェルシー地区では、ある物件が当初の希望価格から50%以上値下げされて話題になりました。しかもこれは一部の例ではなく、不動産会社のまとめによれば、昨年に比べて値下げされている高級物件の数は30%程度まで増えているという情報もあります。

価格下落の最大要因は相次ぐ増税
ではなぜこんなことになっているのか。
最も大きな要因は増税です。イギリスでも住宅価格が高騰して、お金持ちでなければ購入できないという指摘が多くなったことから、高級物件への課税強化が長年行われてきました。高級物件ほど印紙税が高くなる累進課税への変更など、売買にかかる税金は近年引き上げられてきています。こうして徐々に富裕層への負担が重くなる中で、決定的な影響となったのが今年4月の税制改正です。この改正で、いわゆるノンドム制度と呼ばれる外国人向けの税制優遇が廃止されました。
ノンドム制度廃止と富裕層の動き
ノンドム制度は、永住しない外国人に適用される優遇措置です。この制度があることで「イギリスで働くと節税になる」というメリットがあり、長らく多くの富裕層をイギリスに引きつける要因となっていました。近年はシンガポールやドバイといった税制面でより魅力的な国も登場してきましたが、それでもイギリスを選ぶ人が多かったのはこの制度の存在が大きいでしょう。しかし今年、労働党政権はこのノンドム制度を廃止しました。
スターマー政権がこのノンドム制度を廃止しました。これにより、これまで優遇を受けていた約7万5,000人の外国人富裕層が一斉に国外移住を始めたといわれています。実際に「課税強化による海外流出」が現実のものとなっています。
これまではノンドム制度があることで、イギリスに住む外国人富裕層は相続税などで優遇され、不動産購入のインセンティブにもなっていました。ところが今では不動産を買っても税制面でのメリットがないため、むしろ不利にすらなっています。さらに今後も富裕層への増税が続くとの見方もあって、住宅取得は減少傾向になり、これが高級住宅の下落を加速させています。
富裕層の海外流出が住宅需要を押し下げる
税負担が重くなっていることもあり、多くの富裕層がイギリスを離れています。高級住宅の価格低下と富裕層の海外流出は密接に関係しています。移住サポートを行うヘンリー&パートナーズのレポートによれば、今年イギリスを離れる100万ドル以上の資産を持つ人は1万6,500人に達する見込みで、世界最多になるとされています。過去10年は中国が最多でしたが、今年はイギリスが上回る見込みで、当初9,500人とされていた予想より大幅に増加しています。

これだけ富裕層が減ってしまえば、高級住宅を購入する層が減るのは当然です。その結果、高級住宅を中心に価格が下がってきているという状況です。
ロンドンの住宅価格全体の動き
では高級物件以外も含めた住宅市場全体ではどうでしょうか。
ライトムーブ社の住宅価格指数では、11月の価格は前年比-0.5%となり、9月以降下落が続いています。コロナ後には大きく上昇し、2022年には前年比10%を超える伸びを記録しました。しかし金融引き締めの影響もあって2023年に下落へ転じ、その後2024年には緩やかに上昇していたものの、足元では再び下落しています。ただし全体としては高級物件ほどの急落にはなっていません。

今後の見通し
今後については、労働党政権による富裕層への厳しい政策が続くと見られているため、高級物件の下落はさらに続く可能性が高いでしょう。一方で住宅市場全体では、金融政策が緩和方向に動き住宅ローン金利が下がってくる可能性があること、都市部では人口増加により住宅不足が続いていることから、下落は限定的になるかもしれません。これまで大きく上昇した物件を中心に調整が入っていく構造になるでしょう。
イギリス経済の課題
高級物件の下落は一見富裕層だけの問題に見えますが、富裕層が大量流出している社会では経済活動そのものが弱くなってしまいます。足元の経済データを見ると、2025年第3四半期のGDP成長率は前期比+0.1%と弱く、第2四半期の+0.3%から減速しました。個人消費はわずかに改善したものの、失業率は8月の4.8%から9月には5.0%へ上昇し、緩やかに悪化しています。一方で物価上昇率は依然高く、10月の消費者物価指数は前年比+3.6%、サービスは+4.5%と高止まりしています。
イギリスの失業率は5.0%と予想より悪化。からの今月増税発表
— 【世界経済情報】モハPチャンネル (@MohaP_WorldNews) November 12, 2025
こうした中で増税を進めているスターマー政権ですが、その結果として富裕層の大規模流出、高級住宅の価格下落、景気の低迷、労働市場の悪化という状況が重なり、経済は引き続き厳しい局面にあります。スターマー政権下での財政悪化と経済の低迷は当面続く可能性が高いでしょう。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考(スターマー政権記事のまとめ)
■ 英国スターマー政権の「PLAN FOR CHANGE」(2024/12/11)
■ 英国崩壊の可能性、複数の社会問題をどうするか(2025/2/12)
■ ロンドンの住宅不足とホームレス問題(2025/5/15)
■ イギリスでの万引き急増と政権のジレンマ(2025/7/31)
■ 英国で深刻化する不法移民問題と日本への教訓(2025/9/3)
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