【読書記録】地図と拳/小川哲


一年前、娘の看病をしながら一気に駆け抜けた『地図と拳』。 あの時も圧倒されましたが、今回の再読は、ある「発見」のおかげでさらに深い体験になりました。
それは、著者・小川哲氏と新川帆立氏の対談の中で語られていた一言。 「この作品の構造は『百年の孤独』にする」
この言葉に出会った瞬間、目の前の霧が晴れるような感覚がありました。
土地に刻まれた「呪い」と「記憶」
ガルシア=マルケスの『百年の孤独』は、架空の町マコンドを舞台に、ある一族の百年にわたる栄枯盛衰を描いた傑作です。 そうか、『地図と拳』もまた、満洲の「李家鎮」という土地に吸い寄せられた人々の、逃れられない連鎖を描いた物語だったのだと腑に落ちました。
建築家が理想を追い、スパイが暗躍し、軍人が拳を振るう。 それぞれが別々の意志で動いているようでいて、実は「満洲」という巨大な構造の中に組み込まれている。 その描き方は、まさに『百年の孤独』的な、土地そのものが意志を持っているかのような不気味さと美しさを孕んでいました。
構造を知ることで見えてくるもの
小川さんは対談で、プロットなしで書いた前作の課題を乗り越えるために、今作では「構造」を強く意識したと語っています。
初読の時は、その怒涛のディテールに圧倒されるばかりでしたが、今回は「百年の孤独」という設計図を片手に持っているような感覚でした。 「ここは、あの因縁が形を変えて現れた場面か」 「この人物の退場は、土地の記憶の一部になるのか」 構造を理解したことで、一つ一つのエピソードがバラバラの点ではなく、一つの巨大な「地図」としてつながったのです。
作家が何を考え、どの作品をベンチマークにして筆を執ったのか。 その「小説思考」の断片を拾い上げるだけで、読書体験はここまで立体的になる。
もし『地図と拳』の厚さに圧倒されて立ち止まっている人がいたら、ぜひ「これは満洲版の『百年の孤独』なんだ」と思ってページをめくってみてほしい。 そこには、一人の人間の寿命を超えた、壮大な時間の物語が広がっています。
単行本の鈍器感が好き
第168回直木賞受賞作】【第13回山田風太郎賞受賞作】
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に通訳として帯同した細川。
ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。
桃源郷の噂に騙されて移住した孫悟空。
地図に描かれた存在しないはずの島を探し、海を渡った須野。
日露戦争前夜、満洲の名もなき都市に呼び寄せられた人々は、「燃える土」をめぐり殺戮の半世紀を生きる。
広大な白紙の地図を握りしめ、彼らがそこに思い描いた夢とは――。
今読んでいる本
最高。何度も何度も読んだ。この小説を読み直すためにだけでも、十年先まできっと生きていたい。ーー斎藤真理子
『続きと始まり』『百年と一日』が話題の柴崎友香による全く新しい「探偵小説」
「世界探偵委員会連盟」に所属する「わたし」は、ある日突然、探偵事務所兼自宅の部屋に帰れなくなった。
急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街、雨季の始まりの暑い街、そして「あの街」の空港で……「帰れない探偵」が激動する世界を駆け巡る。
最近購入した本
飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物は平等という理想を実現した「動物農場」を設立した。守るべき戒律を定め、動物主義の実践に励んだ。農場は共和国となり、知力に優れたブタが大統領に選ばれたが、指導者であるブタは手に入れた特権を徐々に拡大していき……。権力構造に対する痛烈な批判を寓話形式で描いた風刺文学の名作。『一九八四年』と並ぶ、オーウェルもう一つの代表作、新訳版
2021年共通テストでも出題! 30万部突破の新訳版
“ビッグ・ブラザー"率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。解説/トマス・ピンチョ
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