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challah(ハッラー)の法理詳解 ― ミシュナに基づく「捏ねた生地」の聖別、分量規定、および天の法廷による罰則規定

*本稿では、旧約聖書(タナハ)および口伝律法(ミシュナ)の厳格な法理解釈に基づき、challah(ハッラー)の本質を詳解する。

 challahは単なる祭司の取り分に留まらず、パン生地を捏ねるという日常的行為の中に「聖別」と「所有権の限定」を組み込む公的徴収制度である。民数記15章の原典解釈から、ミシュナ『Challah』が規定する5種の穀物特定、家庭用(24分の1)と商用(48分の1)の分量差、過失による汚れの免除規定、さらには天の法廷(死刑)に及ぶ侵犯罰則まで、日本語圏における既存の形骸化した言説を排し、律法の現場における実態を再構築する。


序論:bikkurimおよびterumahとの比較におけるchallahの随時性


 ここ数回、bikkurim(ビックリーム)とterumah(テルーマー)について見てきた。どちらも祭司に与えられるものである。3つ目として、今回はchallah(ハッラー)を扱う。

 challahとはパン生地を焼く前に、その一部を「祭司の取り分」として取り分ける行為、またはその取り分けられた生地そのものを指す。

 bikkurimは実がなってきた時点で取り分け、maamadの町から神殿に上って信仰告白した。またterumahは收穫の60分の1から40分の1として分量が規定され、祭司に渡していた。bikkurimと比べると、challahの取り分けは極めて日常的に見える。

 なぜなら一定分量のパン記事から取り分けるという、随時の掟になるからである。

 前置きはこのくらいにして、まずは旧約聖書の最高権威であるトーラ(モーセ五書)から引用する。

 17主はモーセに仰せになった。
 18イスラエルの人々に告げてこう言いなさい。
 わたしが導き入れる土地にあなたたちが入り、 19そこから得た糧を食べるようになるときには、その一部を献納物として主にささげなさい。 20初物の麦粉で作った輪形のパンを献納物とし、麦打ち場からの献納物と同じように、それをささげる。 21あなたたちは、初物の麦粉で作ったものの一部を代々にわたって献納物として主にささげねばならない。

(民15:17~21)

 この掟も「わたしが導き入れる土地にあなたたちが入り」とあるので、カナンの地に入った後に適用となる。

民数記15章の原典解釈:焼いたパンではなく「捏ねた生地」の聖別


 次の「初物の麦粉で作った輪形のパンを献納物とし、麦打ち場からの献納物と同じように、それをささげる」(20節)について、「輪形のパン」を言っているので、既に焼いたものを指しているように見える。

 しかしこの箇所を直訳すると、「あなたたちの最初の捏ねたものの生地を、challahとして、terumahとして献げなさい。麦打ち場のterumahを献げるように」くらいの意味になる。

 大事な点は焼いたパンではなく、「捏ねたものの生地」がchallahになるという事である。それを「terumahとして献げなさい」は混乱するかもしれないが、この「terumah」は祭司に与える分として取り分けるくらいの意味である。狭義のterumahではない。

 狭義のterumahについては、前回と前々回で既に学んだ。

◉terumah(テルーマー)の法理詳解 ― 祭司の受給権、分量規定(40分の1〜60分の1)、および『Yevamot』に見る資格喪失の律法学的実態

https://note.com/mishnah/n/na90f43f1e053

◉terumah(テルーマー)の法理詳解(下) ―聖別された奉納物の摂食資格状態、汚れた時の利活用、および混合の解消規定

https://note.com/mishnah/n/n1420638806a1

 「麦打ち場のterumahを献げるように」(20節)とあるのは、challahは台所で作りながら取り分ける点で日常生活に根ざしているが、麦打ち場で取り分けるterumah同様に公的な徴収制度であることを言っている。

ミシュナ『Challah』1章1節:対象となる5種の穀物とその義務


 具体的に何がchallahの対象になるのかは、口伝律法ミシュナ「Challah」に明記されている。

 5つのものはchallahの義務がある。小麦、大麦、スペルト、オート、ライ。これらの種類はchallahの義務がある。それらは結合し、新しい収穫物として過越祭の前に食べることは禁止される。・・・(後略)・・・ 

(Challah 1:1)

 これによると、challahの対象になるのは次の5つである。

①小麦

②大麦

③スペルト

④オート

⑤ライ

 その後の箇所は復習になる。「新しい収穫物として過越祭の前に食べることは禁止される」とは、除酵祭の2日目にomerの束を献げるまでは、新年の収穫物は消費してはならないからである。

 分からない方は、以下の記事から参考にして欲しい。

◉除酵祭の法理 第5回:国家的企画としての初穂(omer:オメル)収穫と、極微に至る精選

https://note.com/mishnah/n/n3b8799ab63f6

分量規定の法理:24分の1(家庭)と48分の1(商売・過失)の峻別


 実際にどの程度の分量をchallahとして取り分けるのか、それは2章7節に記されている。

 challahの基準は生地の24分の1である。自分の為に、あるいは自分の息子の為にパンを捏ねる者は、24分の1である。市場で売る為に捏ねるパン屋、あるいは女性の場合は、48分の1である 。

(Challah 2:7)

 ここでは家庭用では一律に生地の24分の1、商売で用いるものは48分の1とされている。「女性の場合」とあるのは、家庭で作ったものでも、市場で売るものを指している。

 この節は次のように続いている。

 もし家の為に捏ねている場合でも、不注意により、または突発的な事情で汚れてしまったら、48分の1になる。意図的な場合は24分の1である。違反を犯した者が利益を得るべきではない。

(Challah 2:7)

 汚れたchallahは汚れたterumahと同様、食べてはならない。そこでもしも本人が意図しない仕方でchallahを汚してしまったなら、challahとして取り分けるのは48分の1でよいとする。

 しかし48分の1で済むのは、あくまでも意図しなかった場合だけである。意図的に汚したなら、取り分ける分を少なくする目的や律法への不従順と見なされ、変わらずに24分の1が要求される。

義務発生の閾値:5レヴァイムの算定と含有物の扱い(サワードウ・外殻)


 では幾らの分量を捏ねる時、challahを取り分ける義務が生じるのだろうか?次のように書かれている。

 5レヴァイムの穀物はchallahの義務がある。サワードウの場合、外殻も含めて5レヴァイムごと、challahを分ける。もし外殻を取り分け、また元に戻すなら、challahを分けない。

(Challah 2:6)

 5レヴァイムとは約1.2kg〜1.6kg程度になるらしい。この分量には粉以外のものも含まれる。具体的にはサワードウは発酵させる為のもので、それだけでは食べれず、challahの対象にはならないが、生地の中に入っている場合は全体の一部と見なされる。外殻もそれだけではカスであるが、同じく全体の一部と見なされる。

 「もし外殻を取り分け、また元に戻すなら、challahを分けない」とは、一度粉から取り除いた(篩にかけた)外殻は、その時点でゴミと見なすことが前提になっている。

 つまり一端は外殻を取り除いたが、「challahの割合として粉を少なく取り分ける為に、外殻を元にを戻そう」と計算し、外殻を元に戻しても、外殻は取り分けるべき全体の一部として計算されない。

 以上をまとめると、5レヴァイム以上の生地を扱う場合は、家庭で消費するものは24分の1、商売に用いる場合は48分の1取り分けなくてはならない。

 次に罰則に進む。

侵犯に対する罰則:天の法廷による死刑と5分の1の割増補償

 challahとterumahについて、意図的に掟を破って食べるなら、死刑に処され、5分の1の割増し分を加える。それらは祭司以外のイスラエルの民には禁止されたものであり、祭司の所有である。100のchullinに対し、1の割合になった場合、それらは無効になる。

(Challah 1:9)

 「challahとterumahについて、意図的に掟を破って食べるなら、死刑に処される」とあるのは、地上の法廷によるものではない。天の法廷によるものである。それはトーラの次の箇所に拠っている。

 4アロンの子孫であって、皮膚病にかかっている者や、漏出のある者はだれも、清くなるまでは聖なる献げ物を食べてはならない。・・・(中略)・・・9わたしの命令を守りなさい。それを破って罪を負い、それ(terumah)を汚して死を招いてはならない。わたしは彼らを聖別する主である。

(レビ22:4~9)

 ここではterumahについて教えているが、challahも同様であると解釈されている。

 5分の1の割増し分を加えて補償することも、terumahと同じであると解釈される。

 その他、最後に興味深いものを1つ挙げる。

特殊事例における義務の存否:改宗前後の生地と法的確証の欠如

 改宗者について、改宗前の生地はchallahを分けない。改宗の後の生地はchallahを分ける。いつ作ったのか不確かである場合は分ける。しかし彼に課される罰則については、5分の1の部分は加えられない。

(Challah 3:6)

 当然ながら異教徒にはchallahの義務がない。従って改宗する前に捏ねた生地は、後に改宗したとしても義務が生じていない。

 改宗のタイミングと生地を作った時期の前後が不明な場合、義務があると判断される。生地からchallahを取り分けない行為は、天の法廷の罰則を伴う侵犯行為であるからである。

 しかしこの場合、誤ってそれを消費してしまっても、消費した者には5分の1の割増分は請求されない。それはそもそもchallahの義務があったのか確かでない生地であるからである。

 今回の解説は以上であるが、最後に一言しておく。

結論:ヨベルの年とchallahに共通する「神の秩序」と所有権の帰属


 旧約聖書においてはヨベルの年が50年ごとに来る。この時、奴隷だった者は無償で自由の身分を獲得し、売却した先祖伝来の土地は元の所有者に戻る。

 人の経済活動は最終的には、神の秩序の中にあることを、この時イスラエルの人々は実感する。

 challahも同じである。彼らは日常のパン作りの中にも、祭司の取り分を分けることで、全ては神の手の内にあることを思い、献げるのである。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉聖別と奉納の法理:ミシュナが解き明かす「祭司の取り分(matanot kehunah:マタノット・ケフナ)」と聖なる生活秩序の全貌

https://note.com/mishnah/n/nb10ab99a02a4

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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