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terumah(テルーマー)の法理詳解(下) ―聖別された奉納物の摂食資格状態、汚れた時の利活用、および混合の解消規定

*本稿では、旧約聖書(トーラ)および口伝律法(ミシュナ)における「Terumah(奉納物)」の法的動態を詳解するシリーズ2回目である。

 祭司の受給権から、身体的清浄(taharah:タハラ)が要求される摂食資格、さらには汚れたterumahの燃料としての利活用、更に世俗の農作物(chullin:フーリン)との混合における「101対1」の無効化規定や、聖地イスラエル外への地理的適用範囲の拡張など、日本語圏において看過されてきた律法学的実態を、伝統的な諸註釈に基づき再構築する。


前回の振り返り


 前回は以下の内容を確認した。

【1】terumahの定義と位置づけ

 terumahは、収穫物から祭司へ与えられる奉納物であるが、これに先立ち、土地の初物を献げる「bikkurim(ビックリーム)」や、レビ人に与えられる「maaser rishon(マアセル・リッション;第一の十分の一)」という制度が存在する。

 祭司は、レビ人が受け取ったmaaser rishonのさらに10分の1(terumah maaser:テルーマー・マアセル)や献げ物の肉を受け取る権利を持っている。

【2】分量の規定

 トーラには具体的な割合の指示はないが、ラビたちはエゼキエル書の記述を根拠に基準を定めた。賞賛されるべき、気前の良い者は40分の1、標準的な者は50分の1、最低限の義務を果たす者は60分の1とされている。

【3】摂食資格と厳格な管理

 terumahは「聖なる献げ物」であり、祭司とその家族、および祭司が所有する奴隷のみが食べる権利を持つ。

 祭司の娘であっても、一般人と結婚した場合は資格を失うが、子がない状態で離縁・死別し実家に戻った場合は回復する。

【4】不適格化の法理

 非常に厳格な規定として、祭司が死に、残された妻が妊娠中である場合、お腹の胎児は彼女にterumahを食べる資格を与えることは出来ず、むしろ資格を制限する(不適格にする)要素にとどまる。

 以上の内容について不確かな方は、次のリンクから確認して欲しい。

◉terumah(テルーマー)の法理詳解 ― 祭司の受給権、分量規定(40分の1〜60分の1)、および『Yevamot』に見る資格喪失の律法学的実態

https://note.com/mishnah/n/na90f43f1e053

聖別された献げ物の摂食制限と身体的清浄


 今回はより具体的な取り扱いについて解説する。まずは旧約聖書の最高権威であるトーラから引用する。

 一般の人はだれも聖なる献げ物を食べてはならない。祭司のもとに滞在している者や雇い人も食べてはならない。

(レビ22:10)

 この通りterumahは「聖なる献げ物」と呼ばれている。これは言葉の修辞ではなく、文字通り聖別されていることを表している。そこで、汚れた状態でterumahを食べることは許されない。

 これはトーラに具体的に書かれている。

不浄(tamei:タメイ)による不適格化と各論(tzaraat・漏出)

 3あなたたちの子孫のうちだれであれ、イスラエルの人々が主に奉納する聖なる献げ物に汚れたまま近づく者は、永久にわたしの前から断たれるであろう。わたしは主である。
 4アロンの子孫であって、皮膚病にかかっている者や、漏出のある者はだれも、清くなるまでは聖なる献げ物を食べてはならない。死体に触れて汚れた者、精の漏出があった者、・・

(レビ22:3~4)

 まず、清い状態(taharah:タハラ)でterumahを食べる原則が示されている。その上で、汚れている状態の具体的なリストを例示している。

 いずれの項目についても、過去の記事で触れている。幾つか挙げておくので、気になるものは確認して欲しい。

 「皮膚病」(tzaraat:ツァラアト)について

◉生きながらにして死ぬ者、重い皮膚病(tzaraat:ツァラアト)の真実 (上)――無言で罪を告発する皮膚の異変

https://note.com/mishnah/n/n82fb385526a5

◉生きながらにして死ぬ者、重い皮膚病(tzaraat:ツァラアト)の真実 (下)―― なぜ「絶望の追放者」は「祭司」と同じ儀式で復帰するのか

https://note.com/mishnah/n/n2913685871ea

 「漏出」について(男性)

◉なぜ洗礼は「川」でなければならなかったのか? ――レビ記と口伝律法から探る「内面的な崩壊」の清め

https://note.com/mishnah/n/nde4490bf1199#85e177a4-6d2a-4dee-8aad-40a71de0832c

 「漏出」について(女性)

◉12年間出血の止まらない女性の真実――レビ記15章が定める「隔離」とイエスの放免

https://note.com/mishnah/n/nc065ea1b5cb2

 これらの者は、清めの手続きを経ない限り、terumahを食べることは許されない。

 他方で祭司とその一家が汚れていなくても、terumah自体が汚れることもある。それは食べてはならない。トーラには次のように書かれている。

 見よ、あなたには、イラエルの人々が聖なる献げ物としてささげる献納物の管理を任せ、その一部を定められた分として、あなたとあなたの子らに与える。これは不変の定めである。

(民18:8)

 この「聖なる献げ物」は複数形で書かれている。つまり、清いterumahと、汚れを帯びたterumahである。どちらも祭司に与えなくてはならない。

 食べてはならないterumahの使途については、焼いて得られる利益について認められている。次のように書かれている。

汚れたterumahの法的処理と「焼いて得られる利益」

 シナゴーグにおいて、講義室、暗い路地において、焼かれる油をもって火を灯してよい。祭司の敷地で、病者の上に。祭司と結婚したその他のイスラエルの娘について、父と一緒にいるのが常であるなら、父は彼女の領域で火を灯してよい。

(Terumot 11:10)

 この節の油は、汚れたterumahであるオリーブ油について言っている。汚れたオリーブ油で火を灯すことが出来る。ただ、terumahは祭司に与える建前があるので、祭司が関わる場合に原則限られる。

 生活環境として、祭司である夫とではなく父といることが通常である妻でも、所属としては祭司の家になる。そこで彼女の為にterumahの油を用いてよい。

 このように焼いて得られる利益は認められるが、それ以外は認められない。従って焼いて廃棄する。

 この原則は、祭壇上の献げ物が汚れた場合の命令を元に定められている。

 汚れたものに触れた肉は一切食べてはならない。これは焼き捨てねばならない。

(レビ7:19)

 次にterumahの消費方法について触れる。

 祭司であっても、terumahを自由に扱ってよいのではない。固形物は食べなくてはならない。ぶどう酒のような液体は飲み、オリーブ油は調理に使うか、塗油に使うことが出来る。

 この場合、塗る行為は食べるのと同様の消費行為と見なされる。

 他方で通常の用法を逸脱している場合、例えば純正のオリーブ油を飲んだり、ぶどう酒を皮膚に塗ったりする行為は、それを廃棄するのと同様の行為と見なされ、禁止される。

 ここでterumahが他のものと入り混じってしまった場合について扱う。その前にchullin(フーリン)について簡単に説明する必要がある。

混合物(meduma)の解消法理と「101対1」の比率規定


 この通り、イスラエルの民にはterumahやmaaser rishonを取り分ける義務がある。それらを取り分けていないものはtevel(テヴェル)と呼ばれ、取り分けたものはchullin(フーリン)と呼ばれる。

 この内、terumahがchullinと混ざった場合は、次のように考える。

①乾物の混合物において、食べてよいものが、食べてはならないものよりも多く含まれていれば、許容されるものとなる。

 液体の場合は禁止されたものの風味が付いていなければ良い。

②terumahの場合は厳格であり、乾物でも液体でも、割合として「100~101対1」の割合でchullinが多くないならば、許容されない。

③terumahがその分量に及ばない混合物は、meduma(メドゥマ)と呼ばれる。その他のイスラエルの民はmedumaを食べてはならず、terumahの分は無償という前提で祭司に売らなくてはならない。

⑤これらは似たもの同士の混合物についての条件であり、異種のものとの混合においては、禁止されるものが識別されてはならない。

 この内、②の「100~101対1」の割合については、次のように議論されている。

 ラビ・エリエゼルは言う、「terumahは101で上げられる。」ラビ・ヨシュアは言う、「100プラス幾らかである。この『幾らか』には定めはない。」

(Terumot 4:7)

 2人の見解は以下のようにまとめられる。

①ラビ・エリエゼル

 次の条件で、terumahは無効とされる。

 chullin:terumah = 101:1

②ラビ・ヨシュア

 次の条件で、terumahは無効とされる。

 chullin:terumah = (100 + α):1

 プラスアルファについては、厳格に定めていない。

過失による摂取の補償規定(外付け5分の1の加算)


 最後に、権利の無い者が不注意でterumah食べてしまった場合についてである。この場合は4分の1を追加して補償する。聖書ではこの点はユニークな仕方で命令している。

 もし、過って聖なる献げ物を食べた場合、その人は、それと同量の聖なる献げ物のほかに、その価の五分の一を加えて祭司に渡す。

(レビ22:14)

 「5分の1」と書いてあるが、それは補償した後の全体における割合について言っている。

律法の地理的適用:聖地イスラエルからバビロン、エジプトへの拡張


 トーラの他の農作物に関する戒めと同様に、terumahも聖書的には聖地イスラエルにのみ適用される。

 しかし預言者たちはバビロンにおいても適用した。なぜならバビロンはイスラエルに近く、相互の往来も盛んであったからである。

 後代になって、ラビは聖地を取り巻く地域にも適用した。アンモン、モアブといったヨルダン川東岸について、またエジプト及び今日シリアと呼ばれる国の大部分の地域においても適用されている。

 これらの追加された地域でのterumahの規定は、聖地よりも緩やかである。

 なぜなら聖地の外での律法は、聖地への思いを残す為のものであるから。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉聖別と奉納の法理:ミシュナが解き明かす「祭司の取り分(matanot kehunah:マタノット・ケフナ)」と聖なる生活秩序の全貌

https://note.com/mishnah/n/nb10ab99a02a4

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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