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ミシュナ『Nazir(ナジル)』におけるナジル人の誓願の法体系 第4回:shelamim(和解の献げ物)に伴うパンの聖別規程とtenufah(テヌーファー)の実務的相関

*本稿では、ナジル人の誓願期間満了時における「和解の献げ物(shelamim)」と、それに付随するパンであるchallot(ハロット)、rekikin(レキキン)の聖別・奉納過程を詳解する。

 ミシュナ『Nazir』6章9節と『Menachot』7章2~3節を軸に、通常の感謝の献げ物(todah:トダー)との員数上の相違、いけにえの屠殺がパンの聖別に及ぼす法理的条件、更には「煮た前足」を含むtenufahの実務順序を再現。トーラの成文律法とミシュナの口伝律法を統合し、2,000年前の神殿奉仕における厳格な法体系を再構築する。


前回の総括:三種の献げ物とリシュカット・ハナジルにおける剃髪実務


 前回は以下の内容を確認した。

【1】誓願満了時の3つの献げ物

 トーラの民数記6章の規定に基づき、期間を満了したナジル人は以下の3種類のいけにえを献げる必要がある。

①焼き尽くす献げ物:傷のない1歳の雄羊1匹。

②贖罪の献げ物:傷のない1歳の雌羊1匹。

③和解の献げ物:傷のない雄羊1匹。

【2】剃髪の場所と順序を巡る議論

 剃髪の場所に関して、トーラには「臨在の幕屋の入り口」とあるが、実務上は神殿の「女性の庭」の南東角にある「ナジル人の部屋(Lishkat HaNazir:リシュカット・ハナジル)」で剃髪と調理が行われた。

 手続きの順序について、2つの見解がある。

①ラビ・ユダの見解

 最初に「和解の献げ物」を屠り、その後に髪を剃る。

②ラビ・エルアザルの見解

 原則として「贖罪の献げ物」を最優先させるべきである。

 ただし、どちらの見解でも、3つのいけにえのいずれかを屠った後であれば、どのタイミングで剃っても法的に有効であるとされている。

【3】 剃った毛の処置と「利益享受の禁止」

 剃った毛は、和解の献げ物の肉を煮ている「ポット(鍋)の下の火」に入れて燃やす。

 汚れの状態(死者の汚れによるリセット時)には、いけにえを調理する火には投げ込みまない。

 ラビ・メイルの見解によれば、地方(エルサレム以外)で死者に汚れて髪を剃った場合は、その毛を埋める必要がある。これは聖別された髪について、いかなる形でもそこから利益を得ることがないようにという趣旨である。

 彼によると、その他の場合は鍋の下の火に投げ込む。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Nazir(ナジル)』におけるナジル人の誓願の法体系 第3回:神殿奉仕の法理とLishkat HaNazir(リシュカット・ハナジル)における剃髪・献げ物の実務的定義

https://note.com/mishnah/n/n6decae9a9565


民数記6章に基づく穀物の献げ物:challotとrekikinの定義


 今回はこの続きである。まずはトーラから引用する。

 15および、酵母を使わずに、オリーブ油を混ぜて焼いた上等の小麦粉の輪形のパンと、オリーブ油を塗った、酵母を入れない薄焼きパンとを入れた籠と、穀物の献げ物とぶどう酒の献げ物である。 16祭司はこれらを主の御前に携えて行き、贖罪の献げ物と焼き尽くす献げ物と、 17雄羊の和解の献げ物を、酵母を入れないパンの籠と共に主にささげ、穀物の献げ物とぶどう酒の献げ物をささげる。

(民6:15~17)

 パンについては2つの種類が挙げられている。

①オリーブ油を混ぜて焼いた上等の小麦粉の輪形のパン

②オリーブ油を塗った、酵母を入れない薄焼きパン

 これは穀物の献げ物について規定しているレビ記2章の内、challot(ハロット)とrekikin(レキキン)に相当する。

 その情報を補足して再掲する。

①オリーブ油を混ぜて焼いた上等の小麦粉の輪形のパン(レビ2:4a)

 challot(ハロット)と呼ばれる。油は混ぜるだけである。

②オリーブ油を塗った、酵母を入れない薄焼きパン(レビ2:4b)

 rekikin(レキキン)と呼ばれる。油は混ぜないで、焼いた後に塗る。

 以下、challotとrekikinの単語で解説を続ける。

 穀物の献げ物(minchah)についての詳しい内容を復習したい方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉穀物の献げ物(minchah:ミンハー)の律法学的記述――レビ記2章およびミシュナ『Menachot(メナホット)』に基づく奉仕規定と法理の再現

https://note.com/mishnah/n/n805dfdfc5ce1

 これらのパンが「籠」(ibid.)に入れられる。

ナジル人のパンの員数規定:『Menachot(メナホット)』7章2節に基づくtodah(トダー:感謝の献げ物)との比較


 その後の「穀物の献げ物とぶどう酒の献げ物である」(ibid.)の「穀物の献げ物」は今のchallotでもrekikinでもない。

 これも復習になるが、祭壇で献げるolahとshelamimには、「穀物の献げ物、油、ぶどう酒」を伴わなくてはならない。

 このセットはnesachim(ネサヒーム)と呼ばれる。

 その分量はいけにえの家畜が何であるかに拠っていることは覚えているだろうか?不安な方は民数記15章1~10節を読みながら、自分でまとめてみて欲しい。

 以上をまとめると、穀物に関わるものは、以下の3つになる。

①challot

②rekikin

③nesachim

 次に①、②を実際に幾つ準備するかである。次のように書かれている。

 ナジル人のそれはtodah(トダー:感謝の献げ物)のmatzahの2つから成っている。challotとrekikinである。

(Menachot 7:2)

 まずtodah(トダー;感謝の献げ物)は和解の献げ物(shelamim)の一種である。todahにおいては、3種類のパンを準備する。

①challot(10個)

②rekikin(10個)

③revuchah(レヴーハー)(10個)

 他方でナジル人の準備するパンは、後述の通り和解の献げ物と一体にして奉納するべきものである。

 従ってshelamimの一種として見ることが出来る。

 ともあれミシュナに拠ると、ナジル人の場合はこの内、①と②だけを準備することを明言している。

 そこで籠の中に入れるパンは、以下の通りになる。

①challot(10個)

②rekikin(10個)

 これをshelamimの肉と共に奉納(tenufah)する。ミシュナには 次のように書かれている。

奉納(tenufah)の対象部位:煮た前足と「胸・右後ろ脚」の法理的統合

 彼は和解の献げ物を調理し、または煮込みすぎる。祭司は雄羊の前足を、バスケットから酵母を入れないパンを、酵母を入れない薄焼きパンを取り、ナジル人の手の上に載せて奉納する。その後、ナジル人はぶどう酒を飲むこと、死者によって汚れることを許される。

(Nazir 6:9)

 通常のshelamimの場合、祭壇で焼かれる部位(脂肪)が、祭司に与えられる部位(胸、右後ろ足)と共に奉納者の手に載せられ、奉納する(レビ7:29~34)。

 ナジル人の儀式の場合、大きく異なる。これらのものに加え、shelamimの前足と1個のchallot、1個のrekikinも載せられる。

 ミシュナでは、通常のshelamimにおいて奉納する部位も、ここで奉納することに触れていない。しかしそれは私たちが補足して理解しなくてはならない。

 以上を前提に、祭儀の流れを確認する。ここでは屠る順番もchatatが最初と考えて記述する。

 以下の通りにまとめられる。

ナジル人の祭儀フロー:いけにえの屠殺によるパンの聖別と剃髪後のtenufah


(1)祭壇でいけにえを献げる。

①chatat

②olah

③shelamim

 この内、shelamimを屠った瞬間が、1つの重要なタイミングになる。次のように書かれているからである。

 もしtodahのいけにえを内部で屠る時、パンが外部にあるのなら、パンは聖別されていない。もしパンが焼かれて固くなる前に屠るなら、たとえ1つ以外は皆固くなっていたとしても、パンは聖別されていない。

(Menachot 7:3)

 上述の通り、todahは和解の献げ物の一種である。そのいけにえの屠られる時が、パンが聖別される時であることを示している。その為の条件をまとめると、

・屠る時、パンは神殿の敷地の中になくてはならない。

・屠る時、パンは焼き上がっていなくてはならない。

 従って、ナジル人のshelamimについても、それを屠る時にchallotとrekikinは仕上がっていなくてはならないことになる。

(2)髪の毛を剃る

 和解の献げ物を屠った時に、毛を剃り、それを和解の献げ物の肉を煮る鍋の火に投げ込む。

 この調理している肉は、所有者とその客人のものである。

(3)奉納(tenufah)

 トーラには髪の毛を剃る過程との繋がりについて、次のように述べている。

 19祭司は煮えた雄羊の肩と、籠から酵母を入れない輪形のパンと薄焼きパンを一つずつ取って、献身のしるしである髪をそり落としたそのナジル人の手に置き、 20祭司がそれを主の御前に奉納物として差し出す。それは、奉納物の胸の肉と献納物の後ろ肢と共に、聖なるものとして祭司のものとなる。

(民6:19~20)

 「髪をそり落としたそのナジル人の手に置き、・・・奉納物として差し出す」とある通り、「剃髪→奉納」の順番になる。

 こちらの肉とパンは、祭司とその一家のものとなる。肉は「明記されている」前足と、「明記されていない」胸及び右後ろ足である。

 奉納の方法については以前の記事で何度か触れているので、ここでは紹介しない。

 気になる方は下の逆引き辞典のリンクから確認して欲しい。

◉【聖書・ミシュナ語彙 総合逆引き事典】律法の現場を再構築する一次史料・専門用語解説(随時更新)

https://note.com/mishnah/n/n66230ec040ed

 以上でナジル人に関する解説を一通り終えた。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Nazir』法理研究

https://note.com/mishnah/n/ne4720cb1c988


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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