見出し画像

maaser sheni(マアセル・シェニ:第2の10分の1)とorlah(オルラー)の法理:ミシュナ『Maaser Sheni』及び『Orlah』に基づく聖性と換金規定

*本稿では、旧約聖書(トーラ)のレビ記、申命記、並びに口伝律法ミシュナの記述に基づき、収穫物の聖別制度である「Maaser Sheni(マアセル・シェニ)」と、植樹後3年間の果実を禁ずる「Orlah(オルラー)」の法理を詳細に解説する。

 特に、農耕サイクルにおける「maaser ani(貧者のための10分の1)」との交替関係、聖地・シリア・外地の三層構造による律法の適用範囲の差異、さらには聖性を帯びた貨幣の使途制限と私金による補填義務について、伝統的なユダヤ法(halachah:ハラハー)の論理体系に従って記述した。インターネット上に散見される表層的な解説を排し、一次資料の厳格な解釈を通じて、聖書時代から第2神殿時代以降にわたる「律法の現場」の法理的真実を提示するものである。


はじめに:イスラエルにおける7年サイクルの収穫物分配制度


 以前の記事でmaaser rishon(マアセル・リッション)について扱った。これは收穫の10分の1を取り分け、レビ人に与えるものであった。

 残りの収穫物から、10分の1を取る。これはmaaser sheni(マアセル・シェニ)と呼ばれる。直訳すると「2番目の10分の1」くらいの意味である。

 イスラエルの制度は7年サイクルで回っており、このサイクルの中で第何年であるかによって、多少取り分ける目的が異なる。

 maaser sheniは文字通り2番目に取り分ける10分の1であるが、それは第1年、第2年、第4年、第5年においてである。

 第3年、第6年においては、maaser rishonを取り分けた後の10分の1は、貧しい人の為に取り分ける。これをmaaser ani(マアセル・アニ)と呼ぶ。直訳すると「貧しい人の為の10分の1」くらいの意味である。

 つまりmaaser sheniとmaaser aniは相互に対応しており、その年によってどちらが適用されるか、交替する関係にある。

 第7年は安息年である。安息年は「shemittah(シェミッター)」と呼ばれる。

 以上をまとめると、次のようになる。

第1年 maaser sheni

第2年 maaser sheni

第3年 maaser ani

第4年 maaser sheni

第5年 maaser sheni

第6年 maaser ani

第7年 shemitah(シェミッター:安息年)

 これを前提に、まず旧約聖書の最高権威であるトーラを引用する。

申命記14章におけるmaaser sheniの定義とエルサレムでの消費義務

 22あなたは、毎年、畑に種を蒔いて得る収穫物の中から、必ず十分の一を取り分けねばならない。 23あなたの神、主の御前で、すなわち主がその名を置くために選ばれる場所で、あなたは、穀物、新しいぶどう酒、オリーブ油の十分の一と、牛、羊の初子を食べ、常にあなたの神、主を畏れることを学ばねばならない。 24あなたの神、主があなたを祝福されても、あなたの神、主がその名を置くために選ばれる場所が遠く離れ、その道のりが長いため、収穫物を携えて行くことができないならば、 25それを銀に換えて、しっかりと持ち、あなたの神、主の選ばれる場所に携え、 26銀で望みのもの、すなわち、牛、羊、ぶどう酒、濃い酒、その他何でも必要なものを買い、あなたの神、主の御前で家族と共に食べ、喜び祝いなさい。

(申14:22~26)

 この箇所がmaaser sheniについて最も包括的に書いているところである。順番に確認する。

 「あなたの神、主の御前で、すなわち主がその名を置くために選ばれる場所」とはエルサレムを指す。

 人々は「穀物、新しいぶどう酒、オリーブ油の十分の一」(23節)をエルサレムに運び、そこで飲み食いする。それによって、「主を畏れることを学ばねばならない」(23節)。

初子(bechor)の聖別と祭司への帰属に関する法的根拠


 ここに「牛、羊の初子を食べ」(23節)とあるが、これは祭司だけのものである。初子は聖別されており、祭司のものとなることは、以前の記事で詳しく書いた。

 まだ不安な方は下のリンクから確認して欲しい。

◉初子の聖別と贖いにおける口伝律法『ミシュナ』の法理(前編)――「Bechorot(ベホロット)」第1章:聖性の定義、免除の類推、および挙証責任の原則

https://note.com/mishnah/n/n09f10702e52f

◉初子の聖別と贖いにおける口伝律法『ミシュナ』の法理(後編)――『Bechorot』第4章および『Zevachim』5章における「養育義務」と「聖別保持」の法的根拠

https://note.com/mishnah/n/n026098c60365

 人々はエルサレムにmaaser sheniを運ぶ時、一緒にbechor(ベホール;初子)を連れて行く。それを祭司に渡し、祭司は祭壇で献げ、許容される部位は自ら食べることになる。

レビ記27章に見る収穫物の聖性と「5分の1の割増」による買い戻し規定


 エルサレム近郊に住んでいる者にとって、収穫物を運ぶことはそれ程難しくないかもしれない。遠方に住んでいる者にとっては、明らかに重い負担である。

 そこで「あなたの神、主があなたを祝福されても、あなたの神、主がその名を置くために選ばれる場所が遠く離れ、その道のりが長いため、収穫物を携えて行くことができないならば」(24節)という条件で、「それを銀に換えて、しっかりと持ち、あなたの神、主の選ばれる場所に携え、銀で望みのもの、・・・(中略)・・・何でも必要なものを買い、あなたの神、主の御前で家族と共に食べ、喜び祝いなさい」(25~26節)とされる。

 これに関しては、まずmaaser sheniの聖性を確認する必要がある。トーラには次のように書かれている。

 30土地から取れる収穫量の十分の一は、穀物であれ、果実であれ、主のものである。それは聖なるもので主に属す。 31もし、十分の一の一部を買い戻したいときは、それに五分の一を加えて支払わなければならない。

(レビ27:30~31)

 この箇所はmaaser sheniについて言っている。まずmaaser sheniは「聖なるもので主に属す」(30節)とある。従って第一に、祭儀的に清い状態で食べなくてはならない。

 一般的に聖別したものを買い戻す場合、5分の1の割増分を払って買い戻すことになる。maaser sheniもこの箇所から、例外でないことが分かる。

 遠方からエルサレムに向かうので、maaser sheniを換金したとする。それをエルサレムに持って行き、使う積りでいたところ、事情があって売ったものを買い戻したくなった。その場合、5分の1の割増分を支払うことになる。

 エルサレムに入った後はどうなるのだろうか、口伝律法ミシュナ「Maaser Sheni」3章に次のように書かれている。

ミシュナ『Maaser Sheni』3章:エルサレムにおける産物の不可逆性

 硬貨はエルサレムに入り、去る。産物はエルサレムに入り、去ることは許されない。

(Maaser Sheni 3:5)

 換金した硬貨については、また外に出すことが出来る。しかし作物はそれが許されない。一度作物としてエルサレムに入れたなら、出してはならないのである。

 献げ物の肉にも同様の制限がかけられる。それは種類によって異なるが、例えば和解の献げ物の肉は、エルサレムの外に出してはならない。

 以上がmaaser sheniの基本であるが、これと同じ掟が適用されるものがある。それはrevai(レヴァイ)と呼ばれる。トーラには次のように書かれている。

レビ記19章:植樹後3年間の禁忌「orlah(オルラー)」と利益享受の禁止

 23あなたたちが入ろうとしている土地で、果樹を植えるときは、その実は無割礼のものと見なさねばならない。それは三年の間、無割礼のものであるから、それを食べてはならない。 24四年目にすべての実は聖なるものとなり、主への賛美の献げ物となる。

(レビ19:23~24)

 3年間の食べてはならない実はorlah(オルラー)と呼ばれる。ここでは食べてはならないことだけ触れられているが、それどころか如何なる利益を得てもならない。

 これに関して、ミシュナ「Orlah」から幾つか引用する。

 orlahからの染料で染めた衣服は焼かなくてはならない。もし他の衣服と見分けがつかなくなってしまったら、全て焼く。これらはラビ・メイルの言葉である。しかしラビたちは言う。200対1で無効になる。

(Orlah 3:1)

 植えてから3年間の間になった実であるorlahから取った染料で衣服を染めた場合、ラビ・メイルは「焼かなくてはならない」と主張する。これに対して他のラビたちは「200対1で無効」になるとする。つまりはその位の割合であるなら許容されるとする。

 次も同様の事案である。

 orlahの外皮で調理した料理は焼かれなくてはならない。もしそれが他のものと混じったなら、200対1で無効になる。

(Orlah 3:4)

 orlahを使って調理したものは、基本的に許されない。しかし中身が200対1で以上で許されるものであるなら、全体が許容されるものとなる。

 トーラはorlahに関しては「果樹」(エッツ:木)と表現している。従って野菜などには適用されない。

 また3年間はその実が許されないのだから、少なくともその年数を生き、実を作るものでなければorlahの掟は適用されない。

ミシュナ『Orlah』3章:聖地・シリア・外地における律法適用の地理的境界


 蛇足であるが、聖地とそれ以外の土地においての違いについても触れる。次のように書かれている。

 orlahの疑いのあるものについて、聖地では禁止されるが、シリアでは許容される。外地においては、orlahの木から取っているのを見ていないなら、行って購入できる。

(Orlah 3:9)

 これは「律法が適用される地理的範囲(聖地・シリア・外地)」による厳格さのグラデーションを示している。次のように分類される。

①聖地:「疑わしきは禁止」。

 例えば異邦人が聖地の中で果樹を育てており、その中には3年以下のものと、最早禁止対象にないものが混じっている場合、全く許容されない。

 orlahはトーラの次元における禁止命令であり、言わば絶対に破ってはならない掟である。疑わしいなら遂行してはならない。

②シリア:「疑わしきは許容」。

 これは今日のシリアと大体において同じ領域に相当するが、ダビデによって征服された。しかしヨシュアの時代に得られた土地ではない。

 シリアはイスラエルの地に隣接し、歴史に準じた扱いを受けるが、「聖地」ではない。

 確実にorlahであるなら禁止されるが、疑わしい場合は許容される。

③それ以外の地:「(禁止の現場を)見ていなければ、購入して良い」。

 例えばユダヤ教徒が異邦人の果樹園に入り、そこにはorlahもそうでない実もあるのだが、そこで売られているものを購入する場合、許容される。

 それが禁止されるのは、orlahの木から取り、差し出された場合だけである。

 このような制限のあるorlahであるが、「四年目にすべての実は聖なるものとなり、主への賛美の献げ物となる」(レビ19:24)。4年目の果実はrevaiと呼ばれる。

 revaiはmaaser sheniと同じく聖性を持った実りとなり、エルサレムに運んで、そこで消費するべきものとなる。

 もしも運ぶことが現実的でない距離にいるなら、やはり同様に換金してエルサレムで飲食することになる。

 maaser sheniの規定は基本的にrevaiに準用されると考えてよい。

 次に換金した後の状況についてである。

換金した銀の使途制限と私金による義務の補填原則


 maaser sheniもorlahも聖性を持っている。換金した場合、その聖性は硬貨に移る。それを聖なる都で使い、食べ物や飲み物を購入するのである。従ってその硬貨の使途には制限がかけられている。

 ミシュナ「Maaser Sheni」1章に次のように書かれている。

 奴隷、女奴隷、土地、kosherでない動物をmaaser sheniの銀で購入してはならない。もし購入してしまったら、それに相当する分を食べるべきである。zavの鳥の献げ物、zavahの鳥の献げ物、出産をした女性の鳥の献げ物、あるいは贖罪の献げ物、賠償の献げ物をmaaser sheniの銀で購入してはならない。もし購入してしまったら、それに相当する分を食べるべきである。以下が一般的な規則になる。食べるもの、飲むもの、塗油するもの以外のものをmaaser sheniの銀で購入したなら、それに相当する分を食べるべきである。 

(Maaser Sheni 1:7)

 「奴隷、女奴隷、土地、kosherでない動物」は人が飲み食いするものではない。maaser sheniの硬貨を、これらを購入する目的で使うことは許されない。しかし間違って奴隷や土地を買ってしまった場合は、その売買が無効になるわけではない。

 その代わりに「使ってしまった金額と同額の自分の私金で、maaser sheniの義務を果たすこととされる。

 「zavの鳥の献げ物、zavahの鳥の献げ物、出産をした女性の鳥の献げ物、あるいは贖罪の献げ物、賠償の献げ物」とは、トーラが命じている義務ではある。

 しかしその務めを果たす為に、maaser sheniの義務を放棄してよいのではない。

 「もし購入してしまったら、それに相当する分を食べるべきである」、つまり先程の場合と同じである。買ってしまったら売買は有効だが、私金でmaaser sheniの務めを果たすことになる。

 以上でmaaser sheni及びorlahについての解説を終える。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉聖別と奉納の法理:ミシュナが解き明かす「祭司の取り分(matanot kehunah:マタノット・ケフナ)」と聖なる生活秩序の全貌

https://note.com/mishnah/n/nb10ab99a02a4

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

いいなと思ったら応援しよう!