ミシュナ『Sanhedrin』法理研究 第4回:chalitzahの法廷人数根拠と、hekdesh(聖別物)の類推解釈に基づくmaaser sheni及びrevaiの査定法理(1章3節)
本稿は口伝律法ミシュナ第4部『Nezikin(ネジキン)』に属する『Sanhedrin(サンヘドリン)』の第4回目の解説である。
今回は『Sanhedrin』1章3節の続きを徹底解説。yibum(レビラート婚)を解消するchalitzah(ハリツァー)の3人法廷の根拠を申命記から紐解く。さらに、hekdesh(神殿聖別物)の買い戻し・割増規定(レビ記27章)との類推関係から、価額不明のmaaser sheni(第二の十分の一)およびrevai(4年目の果実)の査定に3人判事(またはゲマラが示す3人の商人・入札制)を要する法理的演繹プロセスを網羅する。
前回の振り返り:semichah(按手)の二面性とeglah arufah(首を折られた雌牛)の距離測定における法廷人数論争
前回は『Sanhedrin』1章3節を取り上げ、主に「按手(semichah:セミハー)」と「首を折られた雌牛(eglah arufahエグラ・アルーファ)」の儀式に必要な判事の人数と、その聖書的・言語学的根拠について解説した。
主な内容は以下の通りである。
【1】「semichah(セミハー:按手)」の二面性
semichahには聖書に基づいた2つの重要な意味がある。
①神殿祭儀におけるsemichah
共同体全体が過ちを犯した際の贖罪の献げ物(若い雄牛)に対し、最高法院の議員がその頭に手を置く儀式である。
②判事・ラビの正式叙任
モーセがヨシュアを後継者として任じたことに由来する、指導者としての権限を伝達する儀式である。この叙任により、罰金を科すなどの司法権限が付与される。
【2】「eglah arufah(エグラ・アルーファ:首を折られた雌牛)」の為の距離測定
犯人不明の殺人事件が起きた際、遺体に最も近い町を特定するためにエルサレムの大サンヘドリンから派遣された判事が距離を測定する。その後、特定された町の長老たちが雌牛の首を折る儀式を執り行う。
【3】判事の人数をめぐる論争と根拠
これらの儀式に必要な人数について、ラビ・シモンとラビ・ユダの間で意見が分かれている。
①ラビ・シモンの見解(3人説)
聖書の記述にある「長老」や「裁判人」という複数形を最小人数の「2人」と解釈し、多数決のために奇数調整をして3人とした。
②ラビ・ユダの見解(5人説)
聖書原典の接続詞や名詞の並列に注目する。例えば申命記21章2節では「長老(複数形)」+「裁判人(複数形)」のように、複数形が2回重ねられていると捉え、「2+2=4」に奇数調整を加えて5人が必要であると主張した。
【4】ハラハー(実定法)としての結論
最終的な法的な結論(ハラハー)は、以下の通りに定められている。
①semichah
ラビ・シモンの説を採用し、3人で行う。
②eglah arufahの為の距離測定
ラビ・ユダの説を採用し、5人で行う。
以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Sanhedrin』法理研究 第3回:「semichah(按手)」の法理的二面性と法廷人数論争、及び「eglah arufah(首を折られた雌牛)」における法廷人数論争(1章3節)
https://note.com/mishnah/n/n802ce7d199dd
chalitzah(ハリツァー)の法理と3人法廷の聖書的根拠
今回は前回の続きで、口伝律法ミシュナ「Sanhedrin」1章3節の途中からである。まずは本文を引用する。
chalitzahと拒絶は3人の前でする。
以前学んだ内容であるが、chalitzahについては以下のように説明される。
yibum(イブーム)の義務とレビ記の近親相姦禁忌(karet)の特則関係
もし男性が妻との間で子供を残さないで死んだなら、男性の兄弟がその妻を娶るのがmitzvah(ミツヴァ:掟)である。
通常兄弟の妻と性行為することは、レビ記18章でkaretによって罰される罪として規定されている。
兄弟の妻を犯してはならない。兄弟を辱めることになるからである。
これらのいとうべきことの一つでも行う者は、行う者がだれであっても、民の中から断たれる。
しかし男性が子供を残さないで死んだ場合は、上記の原則の特則が適用される。トーラには次のように書かれている。
5兄弟が共に暮らしていて、そのうちの一人が子供を残さずに死んだならば、死んだ者の妻は家族以外の他の者に嫁いではならない。亡夫の兄弟が彼女のところに入り、めとって妻として、兄弟の義務を果たし、 6彼女の産んだ長子に死んだ兄弟の名を継がせ、その名がイスラエルの中から絶えないようにしなければならない。
これによる結婚は一般的にはレビラート婚と呼ばれ、ヘブライ語ではyibum(イブーム)と呼ぶ。
聖書原典の複数形表記から導かれる奇数調整(3人制)の論理
もしも兄弟がyibumを拒絶するなら、chalitzah(ハリツァー)と呼ばれる儀式を行い、yibumするべき絆を断ち切り、義理の姉妹を解放する。
この儀式の中で、彼女は法廷の立ち会いのもとで彼の靴を脱がせ、彼の前で唾を吐き、定めたれた定句を述べる。次の通りに書かれている。
義理の姉妹は、長老たちの前で彼に近づいて、彼の靴をその足から脱がせ、その顔に唾を吐き、彼に答えて、「自分の兄弟の家を興さない者はこのようにされる」と言うべきである。
彼女は「長老たちの前」で一連の行為を行うことと記されている。「長老たち」と複数形であるから、少なくとも2人の判事がいることが分かる。法廷は奇数人数で構成されなくてはならないので、chalitzahの儀式は3人で行うと解釈される。
以上でchalitzahを行う法廷の人数について解説を終えた。
価値未定のrevai(4年目の果実)およびmaaser sheni(第二の十分の一)の査定法理
続きには次のように書かれている。
価値の定まっていない4年目の果実とmaaser sheniは3人で判断される。
まずは「4年目の果実」について解説する。
植樹から最初の3年間の果実(orlah:オルラー)はトーラによって禁止されているが、4年目の果実(revai:レヴァイ)は「maaser sheni」と同様に聖別され、エルサレムで食べるか、換金してエルサレムで消費する必要がある。トーラには次のように書かれている。
23あなたたちが入ろうとしている土地で、果樹を植えるときは、その実は無割礼のものと見なさねばならない。それは三年の間、無割礼のものであるから、それを食べてはならない。 24四年目にすべての実は聖なるものとなり、主への賛美の献げ物となる。
次にmaaser sheniについて解説する。
maaser sheni (マアセル・シェニ)とは、 7年周期の安息年サイクルのうち、第1年目、第2年目、第4年目、5年目に取り分けられる、収穫物の10分の1である。これらはエルサレムに持ち運んで食べるか、金銭に換えてそのお金をエルサレムでの食費に充てる必要がある。次のように書かれている。
22あなたは、毎年、畑に種を蒔いて得る収穫物の中から、必ず十分の一を取り分けねばならない。 23あなたの神、主の御前で、すなわち主がその名を置くために選ばれる場所で、あなたは、穀物、新しいぶどう酒、オリーブ油の十分の一と、牛、羊の初子を食べ、常にあなたの神、主を畏れることを学ばねばならない。
なお、orlah、maaser sheniについて下の記事でその他の基本的なことをまとめている。確認を要する方は復習されたい。
◉maaser sheni(マアセル・シェニ:第2の10分の1)とorlah(オルラー)の法理:ミシュナ『Maaser Sheni』及び『Orlah』に基づく聖性と換金規定
https://note.com/mishnah/n/nd25baa5802b0
レビ記27章に基づくhekdesh(聖別物)とmaaser sheniの類推解釈
ミシュナ本文では、revaiもmaaser sheniも、「価値の定まっていない」ものと書かれている。これは所有者が換金することを望んでいるが、その適正な価額が不明であるという状況である。
適正な価額が不明である作物については、例として酸味が出始めたぶどう酒や傷み始めた果物などが挙げられる。
「価値の定まっていない4年目の果実とmaaser sheniは3人で判断される」、すなわちrevaiとmaaser sheniの価額の決定は3名の判事でなされるべきというミシュナの見解は、次の仕方で演繹されている。
(1)聖別したもの(hekdesh:ヘクデシュ)の査定手続きについて
レビ記27章11~12節には次のように書かれている。
11もし、それが主への献げ物としてささげることのできない汚れた家畜であれば、それを祭司のもとに引いて行く。 12祭司はそれを評価する。その相当額は祭司の良し悪しの評価いかんによる。
これはhekdesh(ヘクデシュ)と呼ばれる、神殿の為に聖別したものを、贖う場合の手続きを述べている。
この一連の手続きについて、トーラのこの箇所の中で3回「祭司」の言葉が使われているので、贖いの査定にあたっては3人を要すると解釈される。
(2)聖別したもの(hekdesh:ヘクデシュ)の買い戻しについて
レビ記27章13節には次のように書かれている。
もし、それをどうしても買い戻したいと思うならば、その相当額に五分の一を加えて支払わねばならない。
hekdeshを買い戻すには、5分の1の割増分を加える。
(3)maaser sheniの買い戻しの割増分について
レビ記27章31節には次のように書かれている。
もし、十分の一の一部を買い戻したいときは、それに五分の一を加えて支払わなければならない。
hekdesh同様に、同じ割増分を加えて買い戻すことが出来る。
すなわち、hekdeshとmaaser sheniは同じレビ記27章の中で、同じ割増分を加えて買い戻す旨が規定されているのである。
価額の査定について、hekdeshは3人判事の法廷で行った。そこでmaaser sheniも3人判事の法廷で可能であると解釈される。
(4)revaiの法廷の人数について
revaiに関する掟は、maaser sheniに関する掟が基本的に準用される。そこでrevaiの査定も3人判事の法廷で可能であると解される。
以上でrevaiとmaaser sheniの価額の査定が、3人判事の法廷でなされるというミシュナの見解について解説した。
ところがゲマラでは、「3人判事」ではなく「3人の商人」によって評価されるという見解が示されている。これは査定される品目の専門家による評価という事である。
あるいはその産品を買いたい人々の間で入札を行い、「最高入札価格」を付けた人々の評価に従うという見解も示されている。
今回の内容は以上である。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Sanhedrin』法理研究
https://note.com/mishnah/n/n8cf87c1bb399
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)
https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
