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ミシュナ『Bava Kamma』による損害賠償の法理体系 第5回:zomemim(ゾメミーム)による賠償責任と、自白に伴う『五分の一』加算の法理

*本稿では、ミシュナ『Bava Kamma』第7章に基づき、反証によって偽証が露見した証人(zomemim)が負うべき賠償責任の所在を検討する。

 複数の証言が重なる場合、誰がどの範囲で賠償を負うのか。その数学的な按分論を解説するとともに、後半では被告による自白がもたらす法理的変容を扱う。

 レビ記に規定された『五分の一』の割増分の追加と賠償の献げ物による賠償全体は、証拠立証による賠償と何が異なるのか。日本語圏の既存の解説を排し、ミシュナが構築する論理的整合性を鮮やかに再構築します。


前回の復習:窃盗・強奪の峻別とzomemim(偽りの証人)の基礎


 前回は窃盗と強盗の峻別について、家畜の窃盗とその処分事件における特則について、またzomemimの法理について扱った。今回先に進む前に、これら3つの項目に分けて簡単に復習する。

【1】窃盗と強奪の峻別

 ユダヤ法では、人目を忍んで行われる「窃盗」と、公然と行われる「強奪」を明確に区別している。

①窃盗(密かな法益侵害)

 正当な所有者の気付かない内に盗む行為である。罰則は重く、原則として2倍の賠償(本体+1倍の罰金)が科せられる。これは、窃盗犯が「人目は気にしても、すべてを見ている神を軽視した」と見なされる為である。

②強奪(公然たる法益侵害)

 大っぴらに所有権を侵す行為である。この場合は、奪ったものを返還する1倍の賠償で足りる。

【2】家畜の窃盗、処分に伴う「4倍・5倍の賠償」

 盗んだものが家畜(牛や羊・山羊)であり、それをさらに屠殺(shechitah)したり売却したりした場合には、重い特則が適用される。

①牛の場合

 盗んで処分したなら5倍にして償う。

②羊(山羊を含む)の場合

 盗んで処分したなら4倍にして償う。

 なお、2倍の賠償は生き物以外にも適用されるが、この4倍・5倍の規定は牛と羊・山羊にのみ適用される特則である。

【3】「zomemim(偽りの証人)」の法理

 証拠法において、被告を陥れようとした偽証人には、その報いがそのまま返るという「同害復讐」の原則が適用される。

①成立要件

 単に証言内容が間違っていることではなく、「事件当時、証人は別の場所にいた」ことが別の証人によって証明された場合に、zomemim(ゾメミーム)と見なされる。

②賠償責任の転嫁

 もし証人が「被告が牛を盗んで売った」と偽証し、彼らがzomemimであると立証された場合、その証人たちが(被告が支払うはずだった)4倍または5倍の賠償額を、被告に対して支払わなければならない。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Bava Kamma』による損害賠償の法理体系 第4回:窃盗と強奪の法的峻別、及び「偽りの証人(zomemim)」による賠償責任の転嫁

https://note.com/mishnah/n/n9810aed46a7f


zomemimの連鎖:複数証言における賠償責任の按分


 今回はzomemimの続きから始める。口伝律法ミシュナ「Bava Kamma」7章から引用する。

 もし2人の証人に従って誰かが盗み、―別の2人に従って、―彼がshechitahし、または売るなら、そしてどちらも偽証していたことが分かったなら、最初の者たちは2倍、2番目の者たちは3倍支払う。

(Bava Kamma 7:3)

 これは以下の流れを言っている。

①証人Aと証人Bが、被告Xについて「彼は盗んだ」と証言した。

②証人Cと証人Dが被告Xについて「彼はshechitahし、売った」と証言した。

③証人Eと証人Fが出廷し、証人Aと証人B、証人Cと証人Dがzomemimであることを証言し、証明された。

④証人Aと証人Bは窃盗の偽証の為に、被告Xに2倍を賠償する。

⑤証人Cと証人Dは処分の偽証の為に、被告Xに2倍(羊か山羊の場合)、3倍(牛の場合)を賠償する。

 この内、⑤で羊か山羊は2倍、牛は3倍となっているのは、窃盗の2倍を差し引いた残りである。

 続きである。

証言の有効性と無効:証言構造の階層的崩壊

 もし2番目の証言が偽りであることが分かったなら、彼は2倍支払い、彼らは3倍支払う。もし2番目の内の1人が偽証していたことが分かったなら、2番目の証言は無効になる。もし1番目の内の1人が偽証していたことが分かったなら、全体の証言は無効になる。

(Bava Kamma 7:3)

 これは以下の3つのケースについて言っている。

(1)2番目の証人たちのみzomemimであった場合

 被告Xは2倍を被害者に支払い、2番目の証人たちは被告Xに2倍または3倍支払う。

(2)2番目の証人の内、1名のみzomemimであると証明された場合

 2番目の証言は無効になるが、賠償責任は発生しない。証言は無効になったが、証言全体がzomemimの偽証と認定されたのではない。

(3)1番目の証人の内、1名のみzomemimであると証明された場合

 1番目の証言が無効になるので、2番目の証言も無効になる。

 1番目の証人たちの賠償責任については、(2)と同じである。

 以上でzomemimと賠償についての解説を終えた。

身体損害(傷害)の管轄:三人判事の法廷による裁定


 次に傷害についてであるが、これについては過去の記事において詳しく扱っている。

 下のリンクの「『出エジプト記』に隠された緻密な賠償システム」の見出しの内容を確認して欲しい。

◉イエスを裁いた『最高法院』への道(1回目):旧約聖書の裏に隠れている3人判事の法廷①

https://note.com/mishnah/n/na54c98dea6bb

 この記事全体を読めば分かるが、金銭に関わる訴訟であるので、基本的に3人の判事による法廷で扱うことになる。

 次は被告人自ら偽りの証言をした場合である。

自白による救済と「五分の一」加算の法理

 21主を欺き、友人を偽る罪を犯した場合、すなわち預り物、共同出資品、盗品を着服または横領し、 22あるいは紛失物を着服しておきながら、その事実を偽り、人たるものがそれをしたら罪となりうることの一つについて偽り誓うなら、 23すなわちこのような罪を犯すならば、彼はその責めを負い、その盗品、横領品、共同出資品、紛失物、 24あるいは、その他彼が偽り誓ったものが何であれ、すべて返さねばならない。彼はそれを完全に賠償し、おのおのの場合につき五分の一を追加する。責めを負うときは、一日も早く所有者に支払わねばならない。 25それから彼は償いとして、相当額の無傷の雄羊を群れから取って、主にささげ賠償の献げ物とする。

(レビ5:21~24)

 これは本文だけ読むとやや不明確な部分もあるかもしれないが、以下の内容を言っている。

①被告Xは盗んだ。

 これは受託した物や遺失物の着服を含む。

②正当な所有者Aから告発された。

③証拠が十分ではない。

④原告Aは被告Xに対して、確かに盗んでいないことを誓うように求めた。

⑤被告Xは「自分は盗んでいない」ことを誓う。

⑥被告Xは後で思い直し、自ら盗んだことを自白した。

⑦被告Xは5分の1の割増分を加えて原告Aに賠償する。

 これは100ディナルの価値のものを盗んだなら、25ディナル(4分の1)を割増分として加え、賠償することを意味する。

 5分の1は賠償額全体の中の割合であるので、注意して欲しい。

⑧賠償の献げ物を献げる。

 以上である。重要な点は、被告Xが自白している事である。もしも証人たちによって立証されたなら、彼は原則通り2倍、4倍、5倍の価額を賠償する。

 以上で損害と賠償に関する基本的な解説を終えた。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】『Bava Kamma』『Bava Metzia』『Bava Batra』の「3つの門」の基本的な法理研究

https://note.com/mishnah/n/n8377d72f85f0


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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