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maaser ani(貧者の十分の一)とbiur(除去)の法理:ミシュナ『Maaser Sheni』5章に基づく聖別資産の所有権放棄規定

*本稿では、イスラエルの農耕サイクル(7年周期)における聖別資産の分配・管理規定を、ミシュナ『Maaser Sheni』および『Peah』に基づき厳密に詳解する。

 特に第3年・第6年に課される「maaser ani(貧者の十分の一)」の受給資格(200ズズの規定)と、第4年・第7年の過越祭前日に執行される「biur(除去・処分)」の法理的プロセスに焦点を当てる。

 トーラ(申命記26章)に記された宣言儀礼の法的背景と、所有権が人から神へと回帰する聖別資産の最終的な処理規定を、口伝律法の体系から再構築する。


序:7年サイクルにおける農産物聖別の体系的分類


 前回は以下の内容を扱った。

【1】maaser aniとmaaser・aniの交替サイクル

 イスラエルの制度は7年サイクルで回っており、このサイクルの中で第何年であるかによって、多少取り分ける目的が異なる。

 maaser sheni(マアセル・シェニ)は収穫した穀物、ぶどう酒、油の10分の1をエルサレムへ運び、主の前で家族と共に喜び祝って食べることが命じられているものである。

 これは第1年、第2年、第4年、第5年においてmaaser rishonの次に取り分ける。

 他方でmaaser ani(マアセル・アニ)は第3年、第6年である。その内容はまだ学んでいない。

 第7年は安息年であり、何も取り分けない。安息年は「shemittah(シェミッター)」と呼ばれる。

 以上をまとめると、次のようになる。

第1年 maaser sheni

第2年 maaser sheni

第3年 maaser ani

第4年 maaser sheni

第5年 maaser sheni

第6年 maaser ani

第7年 shemitah(シェミッター:安息年)

【2】換金規定と聖性の移転

 エルサレムへの距離が遠く、産物を運ぶのが困難な場合は、銀(硬貨)に換えて携行することが認められている。

 売却したmaaser sheniであった作物を自ら買い戻そうとする場合には、元の価値に5分の1の金額を加算して支払う義務が生じる。

 硬貨は一端エルサレムの町に入れても、持ち出すことが出来る。しかし一度エルサレムに入れた産物は、再び外に持ち出すことは許されない。

【3】orlah(オルラー)と revai(レヴァイ)

 果樹を植えてから最初の3年間の実は「無割礼のもの」と見なされ、食べることも、そこから利益を得る(染料にするなど)ことも禁じられている。これをorlahと呼ぶ。

 4年目の実は「主への賛美の献げ物」として聖なるものとなり、maaser sheniと同様にエルサレムへ運んで消費するか、換金してその代金でエルサレムでの飲食を賄わなければならない。これをrevaiと呼ぶ。

【4】換金した銀の使途制限

 maaser sheniやorlahを換金した銀には「聖性」が移っているため、その使途は厳格に制限される。

①許可されるもの: 飲食に関わるもの(牛、羊、ぶどう酒、油など)。

②禁止されるもの: 奴隷、土地、kosherでない動物の購入、あるいは義務である献げ物の代金など、食べ物、飲み物以外のあらゆる使途。

 もし誤って禁止されたものを購入した場合は、事後的にその売買は有効とされる。しかし使用した金額と同額を私金から補填して、改めてmaaser sheniの義務(エルサレムでの飲食)を果たさなければならない。

 以上の内容がまだ不安な方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉Maaser Sheni(マアセル・シェニ:第2の10分の1)とorlah(オルラー)の法理:ミシュナ『Maaser Sheni』及び『Orlah』に基づく聖性と換金規定

https://note.com/mishnah/n/nd25baa5802b0


maaser ani(貧者の十分の一)の受給資格と公的扶助の法理


 今回はmaaser ani(マアセル・アニ)について扱う。まずはトーラから引用する。

 28三年目ごとに、その年の収穫物の十分の一を取り分け、町の中に蓄えておき、 29あなたのうちに嗣業の割り当てのないレビ人や、町の中にいる寄留者、孤児、寡婦がそれを食べて満ち足りることができるようにしなさい。そうすれば、あなたの行うすべての手の業について、あなたの神、主はあなたを祝福するであろう。

(申14:28~29)

 前回も述べたが、maaser aniとは文字通りには「貧しい人の為の10分の1」くらいの意味である。

 この公的扶助を受ける資格については、ミシュナ「Peah」8章に書かれている。次の通りである。

 もし人が200ズズ持っているなら、彼はleket、shichchah、peah、maaser aniを受けてはならない。

(Peah 8:8)

 まず200ズズであるが、当時の物価で「1年間、衣食住に困らない生活費」に相当する。処女が結婚し、離縁、または死別された場合に保証される金額と同じである。

 「leket(レケット)、shichchah(シフハ)、peah(ペア)」は難しいと思うが、ここでは簡単にだけ触れておく。

 9穀物を収穫するときは、畑の隅まで刈り尽くしてはならない。収穫後の落ち穂を拾い集めてはならない。 10ぶどうも、摘み尽くしてはならない。ぶどう畑の落ちた実を拾い集めてはならない。これらは貧しい者や寄留者のために残しておかねばならない。わたしはあなたたちの神、主である。

(レビ19:9~10)

 この内、刈り残された畑の箇所をpeah(ペア)、「落ち穂」のことをleket(レケット)と呼ぶ。

 shichchah(シフハ)については、次のように書かれている。

 19畑で穀物を刈り入れるとき、一束畑に忘れても、取りに戻ってはならない。それは寄留者、孤児、寡婦のものとしなさい。こうしてあなたの手の業すべてについて、あなたの神、主はあなたを祝福される。

(申24:19)

 この忘れた束がshichchahである。以上の3つは貧しい人の権利として、トーラで保証されている。具体的には、ルツ記の場面を想像すればいいだろう。

 これらのものは、200ズズ所有している者には権利が無い。同様に、200ズズ所有している者は、maaser aniに対する権利を持たない。なぜなら200ズズ所有している者は、貧しいとは見なされないから。

 他方で「Peah」8章9節には次のように書かれている。

 もし50ズズを持って商売をするのなら、彼は取ってはならない。
 誰であれ、取る必要がないのに取る者は、誰かに頼るまでこの世を去ることはないだろう。

(Peah 8:9)

 これは200ズズの財産を所有していなくても、50ズズを元手に商売をしているなら、それは「自立の手段」を持っていると見なされることを言っている。彼は公的な扶助を受ける立場にない。

 「誰であれ、取る必要がないのに取る者は、誰かに頼るまでこの世を去ることはないだろう」とは、不正受給する者に対する警告である。

 この者は公的な支援に頼る必要がないのに、欲にかられて受給した。本当に人に頼らざるを得なくなる状況に落ちるまで、この世を去ることはない。

 以上でmaaser aniについての解説を終えた。

biur(除去)の発動条件と所有権の完全分離プロセス


 ここまで、本シリーズでは以下の内容を見てきた。

①maaser rishon:レビ人に取り分ける10分の1

②bikkurim(ビックリーム):土地の初物

③terumah(テルーマー):農作物の奉納物

④challah(ハッラー):パン生地の聖別

⑤bechorot(ベホロット):初子の聖別

⑥maaser beheimah(マアセル・ベヘマー):家畜の群れの「十

⑦maaser sheni(マアセル・シェニ):第2の10分の1。エルサレムで消費する。

⑧orlah(オルラー):植樹から4年目の実り。エルサレムで消費する。

⑨maaser ani

 こういった義務は、言わないなら誤魔化しても分からないかもしれない。しかし彼らは定められた時に、神に対して次のような宣言をする。

 12十分の一の納期である三年目ごとに、収穫物の十分の一を全部納め終わり、レビ人、寄留者、孤児、寡婦に施し、彼らが町の中でそれを食べて満ち足りたとき、 13あなたの神、主の前で次のように言いなさい。「わたしは、聖なる献げ物を残らず家から取り出し、すべてあなたが命じられた戒めに従って、レビ人、寄留者、孤児、寡婦に施し、あなたの戒めからはずれたり、それを忘れたりしませんでした。 ・・・(中略)・・・ 15天にあるあなたの聖なる住まいから見下ろして、あなたの民イスラエルを祝福し、あなたが先祖に誓われたとおりに、わたしたちに授けられた地、乳と蜜の流れる土地を祝福してください。

(申26:12~13)

 たとえ務めを果たしていなくても、何となく「いつか与えればいい」のではなく、神の前で「家にはもう何も残っていません」と宣言しなくてはならないことを言っている。ただし、この宣言は必ずしも神殿で行うのではない。

 たとえ神殿で行うにしても、個人的に行うものである。

 トーラで与えるように命じられていることを行わないなら、それは他人の者を不当に窃取しているのと同じである。

 トーラ本文では、貧しい人たちの為の義務だけに触れているようにも見える。しかし実際には「あなたの戒め」とあるように、他の務めをも含んでいる。

 それを何らかの事情で怠ったしまった場合の対応は、ミシュナ「Maaser Sheni」5章に書かれている。次の通りである。

 第4年と第7年の過越祭の前日にbiurが発動する。どのようにそれを実行するのだろうか?terumahとterumah maaserはその所有者に渡され、maaser rishonとmaaser aniもその所有者に渡される。しかしmaaser sheniとbikkurimは全ての場所から排除される。

(Maaser Sheni 5:6)

 「biur(ビウール)」とは除去すること、処分することを表す。手元に残った農作物の10分の1などを、自身の所有から完全に取り除くことを言う。

 この箇所では、一定の時期にも自身の所有地に留まっている作物を、聖書の規定通りにレビ人や貧しい人へ渡すか、あるいは廃棄することによって、所有をクリアにするプロセスを規定している。

 それを簡単に解説する。

 まず冒頭で見た通り、彼らの暦は7年サイクルで回っているが、細かく見ると3年毎のパターンに安息年が続いている。再掲する。

第1年 maaser sheni

第2年 maaser sheni

第3年 maaser ani

第4年 maaser sheni

第5年 maaser sheni

第6年 maaser ani

第7年 shemitah(シェミッター;安息年)

 つまり「maaser sheni、maaser sheni、maaser ani」のパターンを2回繰り返し、7年目に安息年になっている。

 その為、上記引用のトーラ26章でも「十分の一の納期である三年目ごとに、収穫物の十分の一を全部納め終わり、・・・あなたの神、主の前で次のように言いなさい」(申26:12~13)と命じている。

 この宣言は、小さなサイクルを1つ終えると(3年毎に)行うのである。

聖別資産の最終処理と過越祭前日のchametz(ハメツ)除去との相関性

 しかし「Maaser Sheni」5章によると、実際の宣言は3年目と6年目には行わず、4年目と7年目に行っていた。それは「第4年と第7年の過越祭の前日にbiurが発動する」とあるからである。

 これは次のように考えると理解しやすい。

 第3年までに「maaser sheni、maaser sheni、maaser ani」の務めが課せられていた。3年目の主な收穫は第7の月の仮庵祭まで続く。この時点でも既に第3年の半年が経過している。

 更に半年が経過し、完全に第3年が過ぎた直後(第4年目に入ったばかり)の過越祭の前日に、強制的に手元の10分の1(maaser)を家の外に出すこととしているのである。

 その方法については「terumahとterumah maaserはその所有者に渡され、maaser rishonとmaaser aniもその所有者に渡される」(再掲Maaser Sheni 5:6)とある。箇条書きにすると以下のようになる。

①terumah:祭司へ渡す。

②terumah maaser:レビ人から祭司に渡す。

③maaser rishon:レビ人に渡す。

④maaser ani:貧しい人に渡す。

 他方でbikkurimとmaaser sheniについては「maaser sheniとbikkurimは全ての場所から排除される」(再掲 Maaser Sheni 5:6)とある。これは破棄することを意味する。

 これらのことが過越祭の前日に行われるのは、同じ日までに酵母を破棄しなくてはならない掟があるからと思われる。この点が不確かな方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉除酵祭の法理 第1回:酵母(chametz:ハメツ)の捜索規定と過越のいけにえにおける「意図」の無効性

https://note.com/mishnah/n/ndf779619f2ee

 いずれにしても、如何なる財産も自分一人のものではない。それは神の前にあり、究極的には神の所有である。

 ユダヤの人々は、日常生活のあらゆる場面で、神に感謝し、神の前で真実を告白する促しを感じたことだろう。

 以上でmaaser aniとbiurについて、そして本シリーズの解説を終わりにする。

 全能である神はとこしえに賛美されますように。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉聖別と奉納の法理:ミシュナが解き明かす「祭司の取り分(matanot kehunah:マタノット・ケフナ)」と聖なる生活秩序の全貌

https://note.com/mishnah/n/nb10ab99a02a4

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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