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押入れタイムカプセル(021)

白樺の葉書 ─「農美製」の謎

■ 1.発見された「白樺の葉書」

我が家の押入れに眠っていた数千点に及ぶ古文書群。
その中に2枚、異彩を放つ葉書がありました。

1920年~1930年代の未使用の白樺葉書の外袋(半透明)

それは紙ではなく、白樺の樹皮そのものを加工して作られたものでした。
表面には自然の縦割れ模様、そして裏面には「郵便はがき」(ただし右横書きで「きがは便郵」)と印字されており、当時、実際に投函可能だった体裁を備えています。封筒には紫のスタンプでこう記されています。

白樺
農美製

この「農美製」という名が、製造元を示す唯一の手がかりです。


白樺の皮を使った葉書①の表面

■ 2.素材の工芸としての美

白樺の皮をそのまま使った葉書と聞いても、現物を見たことのある人は少ないかもしれません。この葉書はまさに素材の記憶を届ける道具だったのかもしれません。装飾は一切なし。彩色も焼き絵もなく、ただ白樺の模様と手触りそのまま。裏面は薄茶色の台紙で補強され、そこに郵便枠と宛名欄が印刷されています。白樺の葉書は現在も北欧やロシアなどではバーチバーク製品が存在しますが、戦前の日本における白樺葉書の実例は少数です。


■ 3.手がかりはわずか ─ 「農美製」と保存状況

今回発見された2枚の白樺葉書の詳細は不明です。
分かっているのは、以下のことだけです:

  • 「農美製」という製作元名がスタンプされた外袋

  • 郵便はがき体裁を備え、未使用のまま保存されていた

  • 白樺の皮をそのまま表面に用いた、実物素材の工芸はがき

そして、これが1920年代末から1930年代初頭の絵葉書群と一緒に保管されていたという状況証拠です。
一緒にあった絵葉書は:

  • 金沢八景の観光地絵葉書(1928年頃)

  • 熱海の観光絵葉書(1930年前後)

  • 満洲・熱河省・承徳などの外地風景葉書(1930年代)

これらの葉書と同時に収集・保管されていたことから、白樺葉書も同じ時期(昭和初期=1930年前後)に流通していた可能性が高いと推測できます。


白樺の皮を使った葉書②の表面

■ 4.用途は?製造地は? ─ 全ては未詳

この葉書がどこで作られ、どこで販売されていたのか、今のところ一切不明です。ただし、いくつかの仮説は立てられます。

  • 北海道・信州など白樺の自生地で観光土産として販売された可能性

  • ロシア民芸や北欧工芸の影響を受けたバーチバーク文化の受容

  • 柳宗悦らの民藝運動との接点、または生活改善・農村手工芸運動の一環

  • 小規模なクラフト製品として、個人または団体による試作・頒布

「農美製」という名称も農村と美術・工芸の接点を感じさせるものです。


■ 5.現代の同種のポストカードとの接点

興味深い記事もあります。

【PR TIMES/2023年6月】
北海道・東川発のバーチクラフトが、白樺の樹皮を用いたポストカードを発売

この現代の工房では、白樺の樹皮を自然に優しい方法で採取し、ポストカードやインテリア雑貨に加工して販売しています。裏面に台紙を貼って「はがき」として仕立てる方法、模様を生かした無加工の表面など、どれも家に眠っていた白樺葉書と極めて似ています。

偶然の一致か、それとも何らかの文化的連続でしょうか。時を越えて白樺の葉書が運んできて小さな謎です。


■ 6.もしご存知の方がいれば…

白樺葉書について判明していることは以上です。「農美製」という名称についても、現時点では文献・商標・展覧会記録等からは確認が取れていません。

これらの葉書や農美製についてご存知の方、あるいは白樺工芸に詳しい方がいらっしゃれば、ご一報頂けると幸いです。


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