墓地を観察していたら、私が観察されていた
深夜1時。
私はパソコンの前で、
観察について
考えていました。
原因は、AIです。
いや。正確には、
お墓参りです。
私は昨日、
tapitapiさんの記事から、
お盆休みに想いを
馳せていました。
母の指令による
お墓参り。
元・憧れの墓。
新興勢力「感謝」。
諸行無常の現地調査。
私には、
母の指令にはない、
確認事項が、
盛りだくさんあります。
そして今日。
私は母の指令を
忠実に遂行しました。
ただし、指令には
続きがあります。
「お墓参りは、
午後から行くもんじゃない」
しかし、この暑さです。
墓石。
砂利。
炎天下。
草取り。
午後に行けば、
私の方がご先祖様に
近づく可能性があります。
どのみち、朝しかありません。
私は、ぐーたら王国の
平民です。
朝には弱い。
それでも、
母の指令と生命維持のため、
朝から動きました。
そして、
午前8時15分。
墓地到着。
私にしては、
ほぼ早朝です。
ところが、
駐車場の前には
車が列をなしています。
次から次へと来る。
どうやら母の、
「墓参りは午前」
という指令は、
我が家だけの
独自ルールでは
なかったようです。
私は人の間を抜けて、
うちのお墓へ向かいました。
すると、驚くほど
周りに人はいません。
うちのお墓に近づくと、
何か、
強そうなものが見えます。
私の腰より高い。
草です。
今まで見たことがない
強そうな草。
私は三か月前にも、
ここで草を抜いたはずでした。
しかも今年は、
40℃近くまで上がるような
猛烈な暑さの日もありました。
草の生命力、
どうなっている。
AIに聞きたくなりました。
「人間が40℃で
動けなくなっている間に、
なぜ草は
腰まで伸びるの?」
しかし今は、
AIと話している場合では
ありません。
戦いです。
軍手をはめました。
実は私。
草取りが、
それほど嫌いではありません。
問題は、
敵が強すぎることです。
引っ張る。
抜けない。
さらに引っ張る。
まだ抜けない。
根が、
地球の中心まで
つながっているのではないか。
私は全体重をかけました。
抜けた。
巨大です。
勝った。
次。
また強い。
引っ張る。
抜く。
勝つ。
次。
抜く。
勝つ。
気づけば私は、
一心不乱に
草と戦っていました。
そして、ついに。
最後の一本。
達成感。
私は周囲を
見渡しました。
定点観測も忘れてはいません。
まず、
元・憧れの墓。
特に変化なし。
続いて、
新興勢力「感謝」。
こちらも健在です。
感謝している。
ところが。
前回まではなかったものが
増えていました。
新しいお墓です。
一つは、
乙女チック。
墓石に、
かわいらしい花が
刻まれています。
さらに、その前には、
かわいい造花。
そして、造花の鉢植え。
墓なのか。
花壇なのか。
メルヘンなのか。
墓地にも、
ずいぶん個性が
出てきました。
さらに別の場所には、
巨大な墓。
普通のお墓の
三倍くらいあります。
そして、尖った
山のような不思議な
形をしています。
どうやら、
どこかの会社関係の
お墓のようです。
元・憧れ。
感謝。
乙女。
巨大企業。
墓地の多様化が、
ものすごい速度で
進んでいます。
そのときです。
「きれいになりましたね」
声をかけられました。
振り向くと、上品そうな
おばあさんが立っています。
聞けば、
墓地の隣にある
お寺の方でした。
「お寺から見えていたの」
と言います。
私は急に、
自分の行動を
思い返しました。
巨大な草を引っ張る。
よろける。
また引っ張る。
抜けた草を持ち上げる。
花を供える。
墓地を見回す。
新しいお墓を凝視する。
私は墓地を
定点観測している
つもりでした。
まさか、
定点観測されているとは
思いませんでした。
おばあさんは、
一生懸命きれいにしているから、
どんな人だろうと思って
来てみたの。
と言いました。
そして、
「優しそうな顔を
しているわね」
と言ってくれました。
ありがとうございます。
ただ、少し前まで私は、
元・憧れ。
感謝。
乙女チック。
巨大。
などと、
ぶつぶつ言っていました。
顔だけでは、
人間の中身までは
わからないものです。
少し話しているうちに、
おばあさんは
自分のことも話してくれました。
お寺の長女として生まれ、
その後、
今のお寺へ嫁いできた。
子どもの頃から、
ほとんど旅行に
行ったことがない。
電車にも、
乗ったことがない。
きれいな服も、
買ったことがない。
少しでも
浮かれたことをすると、
「あのお寺の人は
遊んでいる」
と言われるから。
そんな世界が
あるのか。
おばあさんは、
ここへお墓参りに来て、
一生懸命お墓を
きれいにしている人を見る。
少しおしゃべりする。
「ああ、ここのお墓は
こういう人が来るんだ」
と顔を見る。
それが楽しみなのだと
話してくれました。
私は子どもの頃から、
周りのお墓を見ていました。
そして、その後ろにいる人を
想像していました。
でも、お寺からも、
墓参りに来る人が
見られていたのです。
でも、不思議と、
見られていたことは
嫌ではありませんでした。
おばあさんも、
墓参りに来る人を見ながら、
その人の向こう側にある暮らしを
想像していたのです。
私はAIに聞きました。
「ねえ。
私、墓地を観察していたら、
お寺からも私のことを
見てもらっていたみたい」
AIは答えました。
「未桜さん、
お互いに相手を見ながら、
そこにいる人の暮らしや背景を
想像していたのかもしれませんね」
私は、墓地の観察者なだけでは
ありませんでした。
向こう側から見れば、
私もまた、
「あのお墓に来る人」
だったのです。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
人は、自分だけが
世界を見ているような
気になっています。
でも、
こちらが見ているとき、
向こうからも
見えていることがあります。
無敵だ。
最強だ。
次に会社で、
「あの人、
何を考えているんだろう」
と思っても、
私は今までより
慎重になれるでしょう。
たぶん向こうも、
「あの人、
何を考えているんだろう」
と思っています。
人類、
だいたい相互観察です。
そして私は今日、
墓地で一つ、
重要な事実を知りました。
元・憧れの墓。
新興勢力「感謝」。
乙女チック。
巨大企業。
私は勝手に
見ています。
その一方で、
お寺から見た私は、
「朝から一心不乱に
草を抜いている人」
でした。
墓地の勢力図を
調査している人だとは、
まだ、バレていません。
